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第一話 蘇りさせられたわけ

 はじめに、騰蛇はあやかしでも特異な存在が営む『店』とやらに土方を連れて行くことになる。北野天満宮の端に入り口とやらがあったが、なぜか地蔵菩薩の裏を通り抜ければ入れるという……奇異な入り口。


 通ればすぐに、隠し宿らしき茶屋があった。



「おや、珍しいですね。騰蛇さん」



 出迎えはあやかしなのかはわからないが、雰囲気の良い禿の髪型をした若い主人。特別綺麗ではなくとも、清潔の良い青年は好ましい雰囲気ではあった。しかし、騰蛇を知っているのなら只人ではない。少し構えていれば、彼から会釈されてしまった。



「御若い身空で、須佐様に見出されたのですね。私は、李白と申します。この宿『幻夢』の主人の息子です。……私は神々の休み宿を任されている、半神ですね」

「……はんじん、とは?」



 あやかしでなくとも、ヒトでない者。それを土方に教えてくれるようだったので、ここは好意的な李白の説明を聞くことにした。彼も土方の態度にはにこりと笑みを返してくれた。


「まずはお部屋に」



 隠し宿なのは当たっていたのか、案内しながら李白もだが騰蛇もこの宿の在り方を説明してくれる。



【神々はな? 幾度も土地の浄化を繰り返している。その取り分などを奪い合いって形で、日の本以外の大陸ともやり取りされてるんだ。土方……歳三とトシ、どっちがいい?】

「……トシ、でいい」



 若造に戻されても中身が伴うわけではない。それでも、苗字呼びは気が触れそうになるので……嘗ての呼び名にした。死した者たちを思い出すが、まだ気分はマシだった。


 騰蛇は少し眉目を寄せたように表情を変えたが、土方が気づく前に話を元に戻した。李白も部屋に到着したので、中に入るよう促す。二人部屋かと思えば、騰蛇とは別々に驚いた土方だった。



「騰蛇さんは少し特別な式神様ですから。須佐様に呼ばれることもあるでしょうし。食事以外は別の寝所にしているんです」

「この身体で、食事?」

「必要ですよ? 貴方様の肉体の半分はヒト。私のように世間では鬼籍に入った人間でも、活力は必要です。もちろん、あやかしも同じです。ただし、血肉を欲する悪疫とは全く別物ですが」

「あくえき?」

【俺らが討伐する奴らだ。李白らじゃ無理なんで……神道の神々が選抜した連中で倒す。それを『浄化』と称して神々が動く布石を作るんだ】

「私たちはあくまで、使役される側の補佐。ここは須佐様のお宿のひとつなのです」

「……はあ」



 説明を交互に聞いても、何が何だかで分からず仕舞い。けれど、茶でも一服しようと李白からお薄と茶菓子を貰うことに。



「宿代はお気になさらず。ここは須佐様の管理下なので、部外者以外は無料です」

「……あの、神が?」

「意外でしょう? 豪傑ですが、須佐様はかなり気配り上手なのです。貴方様は新選組の副隊長だったとお聞きしています。北の地では……ご苦労様でした」

「……そう、見えるのか?」



 素戔嗚尊から仔細を聞いていると言っていたので、李白は土方の最終戦地での出来事も聞いているのだろう。どう答えていいかはわからなかったが、それでも労いの言葉は土方の今の心には沁み渡ってきていた。



「別の方からお聞きしていましたので」

「別?」

「そろそろ、いらっしゃるかと」

「李白さん!」



 李白が微笑むと廊下から若者のうるさい呼び声が聞こえてきた。びっくりして含みかけてた茶を咳き込んだが、障子が開くと向こうから誰かが入ってきたようだ。



「どうしました?」

「どうしたじゃないですよ! 悪疫が出たので、ご飯の予約……あぁあ!!?」



 若者も宿の常駐者かと顔を見ようとしたが……何故か向こうから土方に飛びついてくる始末で、土方はさらに驚いたのだが。



「な、なん!?」

「土方さんだ!! 土方さんだぁ!! 若いけど、近藤さんも知ってる土方さんだ!!」

「は? お前、は??」



 元新選組の近藤勇も知ってる隊士は幾らでもいたが、ここまで土方をよく知る素振りの隊士は数えるほどしかいない。まさか、と若者の顔を見れば意外に血色の良い好青年其の物の『沖田総司』だった。



「僕ですよ! 総司です!!」

「……総司? お前……結核で確か??」

「あ、ちゃんと一回死んでます! けど、素戔嗚尊のお陰で退治屋として雇われました」

「……騰蛇。こう言うことだったのか?」

【辛気臭いことにはなるだろ? お前はあったま硬いんだって。だが総司が悪疫見つけたんなら、茶を食らってから行くぞ】

「そうですよ! 土方さんが来るの、結構早いんでびっくりしたけど……北は大変だったんですね。昨日聞きましたよ」

「あ、ああ……」



 ひとまず、李白の出してくれた茶を流し込むように食し……沖田が先に宿を飛び出した後に続くように、土方も騰蛇とともに幻夢を飛び出した。



【いいか、トシ。悪疫はあやかしらの『膿』と考えればいい。ヒトが殺し合いをした各地で、あやかしの中でもそれを喰らい続けた結果……『膿』の原因となる罪人のようなのが出来上がる。総司は少し慣れたが、お前は俺を使ってそーゆーのを屠るんだ】

「退治屋だって、総司は言ったが……」

【名目はな。力のあるあやかしだと足りねーんだよ。同族を殺すのはな?】

「……殺し合い出来んのか」

【簡単に言えばそうだが。足りないのは覚悟だけじゃねぇのよ】



 止まれ、と騰蛇に言われる前に土方も自ら足を止めていた。何故なら、奥の方で沖田が打刀ではなく太刀を構えていた先には……おどろおどろしい、巨大な獣なのかあやかしなのかわからない異質な存在が彼の前に居た。思わず、足を竦みそうになってしまう異形のそれは何か。言われずとも本能で察した。



「あれが悪疫?」



 沖田は気圧されていないものの、土方は武器や人間以外だと畜生しか殺しの経験がないのに……魂の底から初めて震えが止まらなかった。




次回は出来次第

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