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序幕

新作です!!

 誇りを抱いて、挑み続けてきた者がいた。


 しかしながら、多くの生命を屠り、足蹴にし、新たな大地に踏み入れたそれは。


 元いた大地の、数多の猛者らに押し除けられ……命を落としそうになったのだった。


 それまでの生き方を悔い、喪った生命らのことも悔やみ続け……己の生き方は正義ではないと更に悔やみ。ひとつの朽ちかけた大樹の下で……寄りかかるように倒れた。



(……こんなとこで、終わりか)



 捨ててきた何もかもを悔いても遅い、と。今更後悔しても意味がないことくらい……重々承知している。しかしながら、置いてきた嘗ての仲間などを裏切ることをした己自身を深く嘆いてしまうのだ。



(義兄に……姉貴に刀は預けるように、鉄之助が行かせても。それであいつは悔いるだろうか)



 まだ幼い頃から『土方歳三』に仕えてきた少年だった小姓。戦地で死ぬよりも、本土での生き方があるからと預けることで離散させたものの。


 彼にとって、それが正解かどうかなどわからない。土方に従事していた男として、帰郷した場所で蔑んだ思いをするかもしれないと。今さらながら、辛い思いをしたのではと土方自身が悔いても遅い。


 この樹の下で、己は朽ち果てるのだ。結果的に、国に利用されただけの男として。虚ろな意識が溶けて消えていこうとしていたが、不意に、額に鋭い痛みを感じたことで目を開いた。



『嘆いて死ぬには面倒な奴だな?』



 巨躯。と表現しか出来ない大男が、屍の上に立っていた。それらは敵だったり土方の元部隊だった輩もいたが。武装もざっくばらんな其れはただ平然としていた。


 平素なら敵かと構えるところだが、土方はもう構えるどころか立ち上がる気力すら残っていなかった。腹以外に背などにも銃瘡がいくつかあるために、寄りかかるのが精一杯だったのだ。こちらを見下す男もわかっているのか、面白そうに土方を見ているだけだ。



「…………殺す、か?」



 敵だとしても異国の大地の者か。この大地での彼奴等も多く屠った土方には、彼らに殺されても当然。そう思い、問いかけたが彼奴は肩を落としただけだ。



『は? 俺の手足にしようとしてんのに。今殺してどーすんだ?』

「……………………は?」



 意外な返答をされ、土方も間抜けた声を返してしまう。ゆるりと目を開ければ、大海の一滴のような大きな瞳が土方を覗き込んでいた。巨躯にしては随分と綺麗な眼だと関心したが、そうでないと睨み返す。相手には面白く見えたのか、とろりと波打つ様に緩む。



『屠っただけ屠った連中の業を背負ったんだろ? その業を俺ら神の戦いに使えや。正確にはあやかしとの戦いに駒となるんだが』

「……か、み?」

『応。素戔嗚尊……須佐とでも呼べ。呼称はどうとでもいいしな』


 まやかしに近いのか、とろとろと揺らぐ眼を見続けると……何か言い聞かせるような術のようなものに掛かったようだ。土方の思考までも蕩けて正常なものではなくなっていく。死の淵にしては、生きているような活力さえ戻ってくるのだ。



「お……れを、な……ぜ」

『言っただろう? 駒として扱う。ああ、お前の嘗ての連中らも、ついでにな?』

「……あ、いつ……ら」

『応。神狼(しんろう)としてその骸ごとつかってやるが。補助はいるなあ? おい、騰蛇(とうだ)。他の奴らも随時散れ』

【御意】



 素戔嗚尊だという存在が、虚空にそう呼びかけたと同時に。土方の身体へ灼熱を浴びたような痛みが生じた。火事の家屋に飛び込んだ時のようなあれを。


 死ぬのかと思って足掻いていると、なぜか今度は氷のように冷たい水の中へと放り込まれた感覚が。


 目を開けても傷口に痛みは感じず、短く剃った髪は腰まで伸びていた。かつて、壬生浪士組であった若い隊士の時の……その後の新選組を率いていた頃のように。


 まさか、と岸へ上がろうと急げば……死にかけた身体は思うように動いて、水の外へ出られた。そこには、浪士のような着物に身を包んでいた己の身体が。



「……嘘だろ?」



 水辺で顔を見れば、服装もだが顔もあの頃の若いその姿に。そして横には、巨躯ではないが赤黒い肌を持つも神秘的な装いの男が立っていた。



【俺は騰蛇。お前は、須佐様が生かした駒。……俺を使って、あやかしを屠るんだよ。土方歳三。離脱の選択肢はないぜ】

「……なんの、ためにだ」



 神の言葉に人間の否定は意味ないと、現実になった今は聞くしかないものの……ただ利用される意味だけでも聞こうとはした。若返りと蘇り擬きを同時に受けたからこその返し言葉だったが。


 土方の目を見て、金色の眼をゆるりと細めた騰蛇は……片手を上げたと同時に出した刀を土方に投げた。拵えを見ても、小姓に預けたそれでないと受け取った時の感触でわかった。どことなく覚えはあったが、誰の刀なのかを。


 答えは騰蛇が寄越してきた。



【斎藤一。が、使っていたのと同じだ。聞けば思い出したか?】

「……斎藤? 孫六兼元の打刀。何故俺が」

【須佐様の御意向だ。斎藤は生きてるらしいぜ? いずれ聞けると思うが】

「生き……いや、あいつは抜けたしな」

【とにかく。ここは京都だ。あやかしはごまんといるぜ?】



 なあ。と騰蛇が爪の長い指を向けた方向には。百鬼夜行とやらのように、異形の鬼や化け物らが跋扈している様子が見えたのだった。



「……あいつらを?」

【全部じゃない。が、説明もなんだ? 服乾かしてやっから……そのあとで説明する】



 術で簡易的に乾かした後に、改めて土方は自分の出立を確認するも。やはり死ぬ目前よりも、十歳以上若返った姿なのであった。



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