ゲームの世界へと転生する機会を得た青年
「ああくそ、もう少し人生を色々楽しみたかったなぁ」
その青年は若くして難病となり、そんな言葉を最期に残して死んでしまった。
そして次に気が付くと、なにやら荘厳な神殿の内部と思われるような場所にいた。最近は病気のせいで立つこともままならなかったはずであるのに、なぜかしっかりと二本の足で立つことが出来ている。
一体ここはどこなのだろう。そんなことを考えていると、目の前に優しげな微笑みを浮かべた一人の女性が現れた。
床から湧き上がってきたようにも、天から降りてきたようにも、それとも前触れもなく突如として現れたかのようにも思えるその出現に青年は驚くが、しかしおそらく彼女が所謂神なのであろうということを直感的に感じ取りすぐに落ち着きを取り戻した。
その女性は口を開く。
「転生をさせてあげましょう」
青年は望む世界に転生する権利があるらしい。それならば、と青年は考える。
ゲームの世界に転生をしてみたい。薬草か魔法があれば簡単に傷は治るし、病気もそうだ。
戦えば戦うほど強くなれるし、強くなれば世界を見て回ることも出来る。
そう伝えると女性の表情がわずかに変わった。なんというのだろうか、笑顔なのは変わらないのだが、青年の目には女性が「またか」というようにわずかに顔をしかめたように見えたのだ。
女性は言う。
「転生をする前に転生する先の世界がどのようなものなのか体験できますが、どうしますか?」
それならば、と青年は転生する前に体験をすることにした。
体験を終えた青年は疲れた表情で女神に言う。
「体験させてくれてありがとうございます」
女神は相変わらず優しげな笑みを浮かべたまま頷き、少し愚痴を言うような口調でこう言った。
「具体的な要望も出さないでただゲームの世界とだけ言うくせに、ゲームの世界の人々は一定の反応しか出来ないという当然のことに転生後に気が付いて文句を言ってくる人があまりにも多すぎたのでこのサービスを始めたんですよね」
自分も同じ事をしてしまったことを恥じつつ、この女神も苦労しているんだな、などと考えながら青年はゲームの世界などではなく、もう少し具体的な要望を挙げ始めた。
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