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ハイイロ ノ カナタ  作者: mild
第一部
60/281

チーム

───気配を殺して、周りを伺う。



俺の手元には最後の切り札。これが成功すれば奴等の息の根を止められる。



そっと敵方の様子を伺う。


散々俺を嵌め、苦しめてきた3人は仲良く談笑中。



此処しかない。



大丈夫だ。完全に俺の行動に気付いてはいない。


このまま、静かに目標を達成するだけだ。


雪辱を晴らせ。


行け。


行け…!



───行け!



「へぇ~、あ、次俺か。はいじゃあ、3」

「「「ダウト」」…ダウト」

「……はっはっは」



俺の静かな戦いは無残に散った。



「…3」

「4だな」

「そして、5、じゃな」



俺が溜りに溜まったカードを集めようとしている時に俺の他のフェン、レイ、ユキネが立て続けに上がった。


しかも、どれも見せ付けるように表にしてある。



「…やってられっかあああ!!」



手元に山のように積まれたトランプを怒りに任せて思いっきり引っくり返した。


ナノマシンコレクション(さっき命名)の中にトランプがある事に気付いてから、トランプが何かも分からない3人に簡単にルールを教えながら勝負を吹っかけて、これで27戦目。


そして、27敗目。


ババ抜きに始まり、神経衰弱、ポーカー、お金、七並べ、ブラックジャックそしてダウト。


3戦目ぐらいまでは負けていても笑っていられた。


しかし、流石にその倍も負けが込むと俺も焦りを感じ、流れを変えようと賭けを持ち出したのが、12戦目。


昼飯を取られ、晩飯を取られ、夜寝る時の毛布も取られ、見張りも俺が担当になり、etcetc...



「これで、今日の夕飯の準備はハルだな」



そしてこれで今度は夕食を作る当番まで請け負うことになった。


自分で夕食作ってそれを一切口にせず傍でただ見守るだけ、という貧民層のお母さんみたいな図が完成してしまうだろう。



「というか、次の町はまだなのか? もう国境越えて、1週間も経っとるぞ?」



もう二度とこいつ等とトランプなんぞやらない、と心に決めて入念にトランプを消していると、レイが疲れたように言った。



「うーん、近いほうの村はギルド施設がないって聞いて、少し遠くてもでかい町のほうがええて決まったんやから、しゃーないわ」



俺達は、結構イサンから食料を分けてもらったこともあって、ダイノジから教えてもらった町に行かずに、とにかくデカイ町に行くことにしたのだ。


そんなこんなで、ここ何日か変わり映えしない草原の道を、カラカラと暢気に音を立てる馬車で進んでいるというわけだ。



「明日、か。…はぁ、面倒くせぇなぁ」



丁度昨日までの食事で持っていた食料は底を付き、今日の食事からは食材から調達しなければならない。


まだ、準備をする気に離れなかったので、何か暇を潰せるものは無いかと周りを見てみると、雑貨の中に何か丸められた紙が目に入った。



「すまんフェン、それ取ってくれ」

「……はい」



そのすぐ横にいたフェンに声をかけると、それを確認して手に取り、此方まで持ってきた。



「ほい、サンキュ」



それを受け取ると、巻き付いていた紐を取り、床に広げた。



「ああ地図か」



ある程度まとまった茶色と大きく青が広がっている。間違いなく地図で言う所の海と大地だろう。



「今、どこら辺なんだ?」



俺がそう言うと、フェンも地図を覗き込んできた。


しかし、フェンもそういうことはよく分からないらしく、地図を覗き込んだまま微動だにしない。



「…わからない」



十数秒後、やっとそう声を出した。


フェンは大人しいわりに割と負けず嫌いな所がある。


よく見なければ分からないが、今も少しだけ悔しそうにふくれてしまっている。



「レイ、お前分かるだろ?」



ジェミニは運転中なので見るわけには行かないだろうから、旅を経験したこともあるだろうレイに声をかけた。



「ん? ああ地図か。懐かしいのう。どれ、えー…ここが国境じゃから、この辺じゃの」



レイはそう言って、何もない内陸の茶色部分を指差した。



「へぇ、私たちも結構来たんだな。…えーと、ここがセシ村だろう?」



ユキネも暇だったのか、地図を覗き込みながらそう言った。


指した所には何か文字が書いてあるが、俺にはただの線がのたくっている様にしか見えない。



「これは、なんて書いてあるんだ?」



俺たちがいるらしい場所の近くに大きく記してある文字を指差して質問した。



「それは、オウズガルと書いてあって、この国の名前じゃな。そして、儂等が向かっているのがここ、王都のアリベス。世界有数の大国じゃ」



レイが得意そうに、というか、なんか腹立つ顔で俺を見下しながら続けた。



「この程度も読めんとは、育ちが知れるのう」

「は、さすがだよ、伊達に歳だけ食ってな「せりゃ」」



ガスッと俺の頭頂部に踵が落ちた。



「……お前はもっと忍耐を覚えろ!」

「女子に年齢のことをとやかく言う方が悪い」



飄々とした態度で言ってのけた。

ニヤニヤ笑っているし、どう考えてもこいつが楽しんでいるだけにしか見えない。



「とりあえず人が住める大陸はここ一つ。あと海を越えると"最氷死地"が広がっとる」

「さいひょうしち? 何だそれ?」

「極寒の土地じゃ。地面も空気も全て凍りついておる。とても人が入れる所ではないからだからこんな所は気にせずとも良い」

「ふーん……」



 位置的に南極と北極。というより名前が変わっただけで意味合いも北極と南極で違いないだろう。


 こうしてみるとそこだけ地図は一際曖昧で、不明解の色を濃く表している。どうやら地球の公転軌道は狂っていないらしい。一億年も経てば気候も環境もまるで変わるという学説も聞いたことはあるが、その仮説もどうやら杞憂に終わってしまったらしい。


「そもそもお主等はいつから旅をしてる? まだ馬車は新しいようだが」

「ん? まだ三ヶ月ぐらいじゃないか?」

「三ヶ月と言うと、……分からんな。どの地から旅を始めたんじゃ?」

「ああ、お前以外は全員同じ国からだ。ユキネの故郷だよ」


ユキネの事情を詳しく話そうかとも思ったが、わざわざ深刻な空気を持ち込む理由もないし、何より面倒なので場当たりな返事を返した。


「ほうユキネの故郷か。どの国だ。国名は?」


ジッと地図を見つめていたユキネがハッとした様に顔を上げた。ユキネを見つめている視線が三つあることに気付くと慌てて口を開く。


「あ、ああ、えっと国名は……」

「…ん? アレ何や?」



 しかしその言葉に割り込むように、関西弁を無理矢理真似たような口調の声が馬車の乗員の意識を引いた。


 ジェミニの声に、首だけ後ろを向いて何事か確かめる。



「…何じゃありゃ」

「……岩?」



夕暮れに染まった草原の道に、何かがそそり立つ様に存在していた。


まだ遠目からだが、かなり大きいもののようだ。


不意に、その小山のような何かが"動いた"。


ズリズリとこちらに"顔"を向ける。



「あれは、……猪?」



大きさは大体15メートルぐらいだろうか。


大きさだけで言えば、これまで出会ったドラゴンとも引けを取らない。


額に生えた大きい角も印象的で、その角だけで3メートルはあるんじゃないだろうか。


まあ、簡単に説明しなおすと、とっても大きい猪がこちらを見ていた。



「あれは、まずいんちゃうか…?」



やがて猪の動きに注意するかのように、馬車はゆっくりと停止した。


猪は基本に忠実に後ろ足で地面を擦り始めた。この後とるであろう行動は目に見えるより明らかだ。


次の瞬間には、予想通りその巨体に似合わない速度で、巨大な弾丸となりこちらに突っ込んできた。



「おい、おいおいおいおい! 洒落になっとらんだろ、これは!」



レイが珍しく慌てた声を上げる。


それを意識の端で捕らえながら、俺は外に飛び出た。


飛び出た瞬間、もう猪は目の前。衝突し、轟音が響いた。



「まぁ、もう驚かへんけどな…」



ジェミニが呆れたように呟く声が聞こえた。


俺に渾身の突進を受け止められた猪はまだ足を動かして前に進もうとしている。


それを見て、ニッと唇の端を吊り上げた。



「活きのいい食材だ。夕飯は期待してていいぞー」



そう言いながら、猪を持ち上げ地面に叩き付けた。



「ご愁傷じゃな…」

「なんか、可哀相なやつだったな」



気絶した猪を見て、ユキネ達が溜息交じりにそう言っていた。








◆ ◆ ◆








「ご馳走様でした」



しっかりと手を合わせて、ハルユキは感謝の言葉を述べた。


目の前には、机中に広がった皿。


全てナノマシンで作った物だったので、皿はさっさと消した。


流石にこの量を食べきるのは無理だということで、罰ゲームを免除してもらったハルユキもこうして食卓に座っていた。



「お主、よく食うよく食うとは思っておったが、いくらなんでも食いすぎじゃろ…。今食った分は何処に行ったのじゃ…?」



ポンポンと満足そうに腹を叩くハルユキに呆れながらレイが言葉を漏らした。



「…ん? 腹ん中だろ?」

「…お前に聞いた儂がアホだったよ…。それで? 何じゃ話というのは」



溜め息混じりに机に頬杖を付いてレイが夕飯前にハルユキが仄めかしておいた事について聞いてきた。



「ああ、そういえばそんな事言ってたな。何かまずいことでも起きたのか?」



まずいかと聞かれれば、確かにまずい。


間違いなく死活問題だった。



「えー、全面的に管理してもらっているフェンから今日話があって、だな」



ハルユキが珍しく口篭りながら、周りを見渡した。



「俺たちは、それはもう劇的に金がない」



ピシッと場の空気にひびが入った。


お金の問題とは、この時代でも実に繊細で切実な問題だ。固まってしまっしまうのも無理はない。



「待って待って。ドンバの村で結構貯めへんかったっけ? って言うかどれくらい無いん?」

「それは、あくまで、次の町までの資金。……セシ村で収入が無かった分、厳しい」



フェンが淡々と事実を告げる。



「そこで、レイは知らないだろうが、ギルドでチームっていうのが作れるのは覚えてるか?」



 これも、フェンが言っていたことだが、チームを作り、チーム専用の依頼を受ければ普通よりも多目の報酬をもらえるらしい。ギルドの人間が言うにはその利益で国を作れるまで成功した人間もいるらしい。


 そこで、それにあやかろうとハルユキ達もチームを作ろうということになったのだ。



「ふむ。……良いんではないか? 損もないようじゃし」



レイに続き、他の面子も首を縦に振って肯定した。


それを確認すると、ハルユキが続けて口を開いた。



「必要なのは、まず多少の金と3人以上の人数だが、これは問題ない。金は依頼を受けた後で良いらしいし、ここには既に5人いる」



うんうんと先程と同じように首肯する3人に今日のメインとなる話を発表した。



「そして、最後に必要なのが、"名前"だ」

「……名前、か。それを今から決めるんだな」



珍しく一度で俺の言いたいことが伝わったらしく、全員が頭をひねり出した。



「そういうことだ。はい誰か意見ある人ー」

「はい! 『ジェミニと女だらけのちょっぴりスケベでちょっぴり切ない女だらけのポロリもある女だらけのどこまでも女だらけチー…どはァ!!」



最後まで言い切る前に、氷塊が飛んだ。



「…………はいおやすみ、しっかり疲れとれよー。次ー」

「……『極血組』でどうじゃろうか?」

「恥ずかしい感性をお持ちですね。はい次」



割と真面目に考えていたらしく、顔を真っ赤にしながら飛ばしてきた血の剣を首を傾げてかわす。


それから、数十分。


幾つか意見は出たものの、どれもふざけたような名前ばかりでこれといったものは出なかった。



「あー、んじゃもういいや。明日までにこれだってやつを考えといてくれ」

「見ておれよ! 聞いただけで恐れ戦く様な名前考えてやるわ!!」



大分ずれた捨て台詞を残してレイが真っ先に馬車の中に入った。



「あ、いけね。おーい、今日は夜も進むからなぁ。って行っちまったよ」

「夜に進むのは暗いし、危ないんちゃう?」



唯一残っていたジェミニが不思議そうな顔で言ってきた。



「町に着いたの遅いと仕事できないかもしれないしな。まぁ夜は俺が御者やるから大丈夫だ。お前も疲れてるだろうしな。…ああでも、馬の御し方に慣れるまでは教えてくれな」

「それは、かめへんけど…」



御者台に乗り込む前に2頭の馬の所に足を向けた。



「すまんが、今日はもうちょっとだけ頑張ってくれ」



眠っていた二頭の馬の鬣を撫でて静かに起こす。


すると瞑っていた目を開き、鼻を鳴らして蹄を鳴らす。


任せてくれ、と意気込むように力強くいなないた。




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