貫け、突き進め
改めて共に戦いに赴く仲間達を見渡し、簡単に頭の中で作戦を組み立てた。
「あいつに普通の攻撃は効かない。いや、効かないというよりたちどころに回復するから意味がない。それも、回復するたびに強くなるみたいだ。今は大きめのダメージを与えたから回復している最中だろうな」
「なるほど。一気に粉微塵にするというわけじゃな」
レイが多少頭に血が上っているのか俺の言葉を待たずにそう言った。
確かに一気に全部吹き飛ばすというのも一つの手ではある。
「…いや、それより急所を叩こうと思う」
「心臓とかか?」
「それより首を刎ねた方が早いんちゃう?」
なんとも物騒な会話が続くが、それでも意味がない。
「いや、首刎ねてもすぐ回復したし、さっきも上半身が吹き飛んだが、まだ生きてると思う。…正直言って、化け物だ」
それを聞いて、一同が目を見張った。
こんな魔法が使えるような世界になっても常識は存在する。
首がなくなっても動くというのはどう考えても異常なのだ。
「ならば、どうする?」
「…大幅な回復するときにだけ、あの神って文字がまた現れる。そこを破壊するのがいいと思う」
一応の作戦を発表する。
こんなものが作戦といえるのかどうかも怪しいが指し当たっての対応策も見当たらない。
「だがそんな不確かなもの破壊できるとも限らんじゃろうし、やっぱり吹き飛ばしたほうが良いんじゃないか?」
これもまた、至極もっともな意見だ。
このやり方に不安な要素が入っているのは否定できない。
レイが言っているやり方のほうが、確実だろう。ただし。
「いや、それが出来るならそれでもいいんだけどな…」
ズン、と地面が揺れた。
俺を除く4人の表情が固まる。
俺も嫌な予感に顔を引き攣らせながら振り向く。
「あれを一気には骨が折れすぎるだろ…」
振り向いた先には、予想通り復活して更に変形した異形の姿。
推定15メートル以上。
先程よりも更に巨大化している。
最早、人間の枠など完全に消し飛んでしまっていた。
「最初の作戦しかないようじゃの…」
「分かってもらえて何よりだ」
異形を見上げる。
最早、異形には口や鼻さえも存在していなかった。
のっぺりとした顔を縦断するように大きな目がギョロギョロと周りを見渡している。
ふと、その目と視線が合う。
不吉な気配を振りまくその姿に、嫌な予感を感じずにはいられなかった。
◆ ◆ ◆
その後、どこか嫌な予感を感じながらも少しだけ作戦を練り直し、ハルユキ達は一斉に動いた。
丁度、小丘に踏み入ろうとした足元にジェミニが滑り込む。
振り下ろされる巨大な足をかわした後、地面に手を翳す。
「まずは、ワイやな」
ジェミニの手が触れたところを起点に地が割れた。
巨大な地割れとなったそれは、異形の大きくなりすぎたそれをいとも容易く飲み込んでいく。
「閉じろ」
そのクレパスが今度は顎のように勢いよく割れ目を閉じ、異形の足を噛み砕き、粉砕した。
「次、頼むでー」
巨体の動きが止まったのを確認すると合図を出す。
「任せろ!!」
「任された…」
ユキネとフェンが同時に異形の前に飛び出した。
「ハァアアア!!!」
気合と共に、ユキネの剣に魔力が集まっていく。
その属性は恐らく水。
流動的に身をくねらせながら、ユキネの剣を包んでいく。
やがてそれは巨大な白い水の剣としてこの世に生誕する。
「おお…」
自分でユキネが驚いているので多少格好は付かないが。
直ぐに我に帰ると、助走をつけて思い切り異形の胸めがけて、槍の様に投げはなった。
「────"水星"」
ほぼ同時といえるタイミングで、剣を追うようにフェンが作り出した直径3メートル程の水の砲弾が突進していく。
足を地に飲み込まれ、身動きが取れない異形は成す術もなくそれを受け入れることになった。
巨大な白い剣が巨体を貫き、それとほぼ同時、同じ位置に水の砲弾が着弾した。
ただし、普通にではない。
剣に水弾が追いついた瞬間、水弾が白く染まり爆発的に増大し、およそ、3倍ほどのサイズになった水弾が直撃し、爆発したような音がそこら中に響いた。
「おお…、予想しとったとは言え、これは…」
ジェミニが、思わず感嘆の声を上げた。
確かに、効果を期待しての作戦だったが、予想以上の結果だった。
あの巨体がまた悲鳴を上げている。
「────"氷戒"」
間髪入れずにフェンの魔法が続く。
水びだしの巨体の周りに、冷気が立ち込めていく。
────■■■■■■■■■■■!!!!!!
堪らず異形が叫び声を喚き散らす。
無理の動こうとしたせいか、完全に固まっていた異形の左足が力に耐え切れず、砕けた。
いきなりバランスを失った巨体が傾ぐ。
ズン、と重々しい音を響かせ、地面に手を付く。
そしてその横に、ハルユキの姿。
右手を引き絞る体勢で、その前には先程思いついたばかりのプラズマ球が浮かんでいる。
「お前ら、引けェ!!」
合図と共に三人が一気に攻撃圏外まで退避する。
それを気配でなんとなくだが察知すると、力を貯めに貯めた右手を解放した。
右手が音の速度を超え、突き進む。
────"空当て・凝"
以前とは違い、プラズマが芯となり空気を更に巻き込んでいく。
その攻撃もまた、加速し音を置き去りにしながら巨体へと突き刺さった。
一瞬の間をおいて、ハルユキの制御を離れたプラズマが一気に熱を周りに放出し、さながらの爆発が巻き起こった。
地面がめくれ吹き飛んでいく。
巨体にまとわり付いていた氷は一瞬で蒸発し、それどころか異形の身体自体を炭化させ、吹き飛ばしていく。
「ぬぉあッ……!!?」
かなり離れた位置からの狙撃だったのだが、予想以上の爆風がハルユキの位置まで届く。
ズズンと音がして、唯一原形を保てた頭が落下した。
────■■■■■■■■■■■!!!!!!
最早口などないというのに、咆哮が響き渡る。
と、唯一残った巨大な眼が、限界まで見開かれた。
────■■■■■■■■■■■!!!!!!
────■■■■■■■■■■■!!!!!!
────■■■■■■■■■■■!!!!!!
耳を劈くような音を撒き散らせながら、眼の中からあの村長だった男が上半身だけ姿を現した。
下半身はまだ異形と同化している。
そしてその体にこれでもかというほどに肥大化した『神』の文字。
その姿にはもう理性も命も残っていない。
「締めだ! とちるなよ!!」
文字をしっかりと目で確認してからハルユキが叫ぶ。
「誰にモノを言っているのじゃ、小僧!」
上空に紅い翼。
血で出来た巨大なそれを羽ばたかせながら、レイが急降下する。
降下しながら、幾つかの剣を投擲し、男の体を固定する。
次の瞬間には、ユキネのそれを超えるほどの巨大な剣。それを両手に握り締めた。
それが『神』を切り裂けば戦いは終わる、はずだった。
再び、異形と目が合った。
不吉な予感が一気に膨れ上がっていく。
────ッッ■■■■■ッ■■ッ■■■■ッッ■ッ■■■■■■■ッ!!!!!!!!!!!!!!
今までのそれとは一線を帰すような、凶声が響き渡った。
全身が総毛だつ。
その音は遂に衝撃となり、周りの木々を吹き飛ばしていった。
『神』の文字が頭中に広がっていく。
その巨大な頭を覆い尽くすほどに黒い何かが広がる。
先程、俺の左腕を持って入ったアレと同じ吸い込まれるかのような黒。
全てを呑み込み尽くす暗い暗い黒い闇。
恐らく、その身をも削るような捨て身の攻撃だろう。
そしてそれ相応の破壊をこの森中に撒き散らすのは間違いない。
桜も、家も、地面も、人間も、吸血鬼も。
全て、壊されて、死んでしまう。
ハルユキの脳裏に、焼け爛れた地の中心、死んだ仲間たちの中にただ独り、自分だけが立っている光景が映し出された。
どこか、過去と重なるその風景。
既視感、そして既死感。
心が、記憶が、何か大事なものが掻き毟られる。
「ふッ…ざけんなぁあああ!!!!」
走り出す。
もしかすると、人間の限界を超えて。
左腕が無くなった肩が痛む。
火傷を負った全身が悲鳴を上げる。
でも、でも今ならまだ発射される前にあそこに辿り着ける。
しかし、間に合って、どうする?
決まってる。守れ。
しかし、どうやって?
身を盾にしてもほとんど防ぎきれない。
必死に足を加速させながら、思考もそれ以上に加速させる。
どうする。
どうする。
どうするドウスル、如何する!!
加速加速、加速。
思考も動きも人を超えた何かに行き着く直前まで加速していく。そんな中。
ふと、その目に映った。
進行方向にハルユキの攻撃で弾き飛ばされた一振りの剣。
────例えただの我侭って言われても、貫き通せばそれは信念だ、って言えるんじゃねぇかな。なぁ、春雪────
何故か何時か何処かで誰かが言った言葉が、思い起こされる。
誰かに背中を押されるかのように、更に、加速する。
何かを考える前に。
右手が、通り過ぎざまに剣の柄を、きつく握り締め、そして。
闇を、異形を、絶望を、死を。
切り裂いた。




