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ハイイロ ノ カナタ  作者: mild
第一部
54/281

一丸で

────ドクン。




脈動しているのは心臓ではない。


では何か。


神の残滓、文字が普通の光ではなくどす黒く染まり、所々伸縮しながら男の身体を動き回りながら鼓動を繰り返している。


その動きはまるで生きているようで、嗤っている様で嫌悪感が込み上げる。


何かに支えられるように男の体が、うつ伏せからスッと立ち上がった。


そこに転がっていた頭が灰となって消え、首の肉が蠢いたかと思うと、一瞬で骨が出来、神経と筋肉がまとわりついて一秒足らずで頭が頭として復活した。


同時進行で腕も元の13本に戻っている。






────■■■■■■■■■■■!!!!!!








先程の何倍も巨大な咆哮を放つ。


それだけで近くの岩が罅割れ、木が軋む。


「元通りって訳か…」


呆れたようにハルユキが言う。


しかし、それも正しくは正しくはない。


何を思ったのか、男だったそれは左腕のうちの一本を掴んで引き千切った。


痛みはまだあるのか、またもや金切り声を上げる。


グジュッと、肉が擦れた音が聞こえてきた。


先程の13本ではハルユキには通用しない。


だから、異形は数に頼るのを止めた。


異形が千切ったことで左右対称になった合計12本の腕が再び2本に戻っていく。


しかし結果としては、人間からは更に離れることになっていた。


12本の腕はその体積自体は変わってはいない。


つまりは、体よりも大きく太い二本の腕が完成した。






────■■■■■■■■■■■!!!!!!






また咆哮。


更に変化を望むのか、力の限り叫び尽くす。


ズン、と前に踏み出した足が肥大化し、次の瞬間には腕と同じほどの長さに。


先程生えたばかりの首が、大木のように。


ドン、と音がして胴体が爆発したかのように縦横共に増大する。


骨が折れ、より強固により巨大に結合していく音が、呻き声と共に森に木霊する。


そして。


僅か数秒で先程までとは全く違う生き物が生誕した。



「おいおい……」



あまりに異様な光景に固まっていた身体を呼び起こす。


結果として、戦闘態勢が整うまで待ってしまったことになる。


やっと症状が安定したそいつは大きく息をついた。


背の丈目測5~6メートル程。


腕も肘から拳までが特に太く変化し拳の先は立ったまま地面に付きそうな長さ。


足もその辺の木の幹よりも二回りは太い。


白く枯れたような髪の中から厳つい角。


口元には発達しすぎた犬歯が覗く。


人を辞め、神を求め、今は獣というのが一番近いのだろうか。




ここで漸く仕掛けた。




牽制代わりにアサルトライフルを両手に投影し、その巨大な体躯めがけて撃ち放った。


音に反応して異形が此方を向く。


剥き出しの殺気に、背筋に何かが走る。




異形がとった行動は単純明快。


避けた訳ではない。受けた訳でもない。


ただ、その異形の腕を、思い切り振りかぶり、目の前の地面に叩き付けた。




天を割るような轟音の後。


地が割れ、衝撃が周りを襲った。




銃弾など一瞬も持たずに、吹き飛ばされる。


世界を破壊する様な衝撃に紛れて、近くに異形の気配。


直ぐ後ろ。


既に拳が空気を切り裂き、接近している気配が背中に触れてくる。


咄嗟に斜め前に飛ぶ。


その直ぐ後、その巨躯からは想像できない速度で物凄い風圧を伴いながら、岩のような拳が通り過ぎた。


跳びざまに体勢を変え、異形に向き直る。



「……は?」



異形は既に攻撃態勢。


牙だらけの口から、何か黒い光が漏れてきている。


察するに高エネルギー体。


ピュンと身をかわしたハルユキの顔の横を黒い光が通り抜けた。


10メートルほど先の地面に着弾する。



轟音。閃光。



遅れて背中に吹き飛ばされそうなほどの爆風がぶつかって来た。


好奇心に負け、振り返る。



更地だった。


何もない。強いて言うなら荒れた地面しかない。


着弾地点のその先50メートルの全てを破壊していた。



「ビームって…嘘だろ、おい…!」



再び口に魔力が集まっていく。



「さッせるか……! コラァ!!」



一気に足元まで接近して、全力で跳ぶ。俺に向けて今にも発射しそうなそれを蓄えた顎を勢いもそのまま殴り付ける。


そのまま空中で一回転し、後回し蹴りを側頭部に叩きつける。



異形が吹き飛ぶが、その巨体のせいかその距離は5メートル程。


丁度その瞬間、行き場を失った黒い魔力が異形の体内で爆発した。


異形の上半身が吹き飛ぶ。



「うおッ!!」



そして、そこを中心に爆風が吹きぬけた。




いまだ空中にいた俺も、踏ん張れずに吹き飛ばされる。


木の枝に服を引っ掻かれながらも、何とか足から着地する。



周りに木はない。丘に戻ってきたようだ。



「ハルユキ…」



直ぐ傍にフェンが居た。


その身体は血で真っ赤に染まり、どこか何時にも増して語調が弱い。


それでも、ここに居るということは俺へ加勢に来てくれたのだろう。



「……イサンは?」



どうなったか、など聞かずとも察することが出来たが、聞かないわけにもいかない。



「……死んだ。まぁお主等が気にしなくとも良い。儂の責任じゃ」



音も無く、レイが暗闇から姿を現した。



「………」



フェンが言葉に詰まり俯いてしまう。


その姿は弱々しく折れてしまいそうで、まるで最初に会った時の様だった。


思わず、頭を抱き寄せた。



「…悪い。嫌な役押し付けちまったな」



抱き寄せた瞬間、フェンの体がビクッと胸の中で動いたのが分かった


ふるふると胸の中で首を横に振る。


あまり、自分を責めるなと言ってやりたいが、聞く耳持たないだろう。



「……まだ、頑張れるか?」



口に出たのは優しさとは程遠いそんな言葉だった。


多分、今優しさを見せるのは残酷だと思ったのかもしれない。


少しだけ間が空いて、一度だけ確かに頷いたのを確認すると、体を離した。



「儂はあやつを殺さねばならん。手伝え」



レイの目にも光が戻っている。


その顔に怒りが満ち満ちているのは直ぐにわかった。


怒りに任せて復讐を行うのは褒められた行為とはいえないかもしれないが、それはひどく人間じみていて、俺は何か言おうとは思えなかった。


続いて、暗闇の奥からジェミニとユキネも出てくる。


ここで、視線を外した事を後悔することになった。



「ハル!!」



ユキネの叫びにハッと異形に向き直る。


その顔の前には黒い光。


あの大地を破壊した一撃が、虎視眈々と此方を狙っていた。


まずい。


発射まで恐らくもう一秒もない。


全力で思考を加速させながら、そう状況を分析した。


避けることはさほど難しくない。


が、あの光の攻撃範囲を考えれば、後ろの4人は防ぎきれない可能性が高い。


そして、咄嗟に判断を下す。


受け止めるしかない。


あれは魔力による高エネルギー体。


ならば、同じ規模のエネルギーをぶつければ相殺できるはずだ。


問題はそれを何処から準備するか。



────そこら中にある。



「壁を!!」



その声に、後ろの四人は滞ることなく自分の前に壁を作る。


その上に覆いかぶせるように、俺も自分の"後ろ"にドーム状になるように壁を作る。


次の瞬間、ピュン、となんとも軽い音と共に、破滅の光が此方に突進してきた。


純粋な光線ではないのか、光の速度には遠く及ばないものの、拳銃並みのスピードはある。



その光と着弾地点の間に立ち左手を翳す。



ナノマシンを周りに散りばめ、世界を動かす。


自分の周りのありったけの空気を全て目の前一気に圧縮していった。



「がっ……あァッ…!」



全ての空気が俺の前1メートルほどの位置に10センチほどになるまで押しつぶす。


やがてプラズマとなったそれは、四千度を超える高熱を生み出す。


それをナノマシンで出来るだけ調節して、断熱状態を作っていく。



最初は左手が焼き爛れて尋常じゃない痛みがあった、直ぐに完全に断熱が成功する。


そして、それがエネルギー体として完成した瞬間。



黒い破壊の光が、俺の作ったそれと衝突した。









◆ ◆ ◆







ピシ、ピシ…と、壁が軋む音がする。


先ほどの耳を劈くような音。


恐らくあの化け物の攻撃なのだろう。


壁はかなり丈夫に作ったはずだったが、それでも悲鳴を上げている。


ユキネの他の三人も、レイは血で、フェンは鉄で、ジェミニもどうやってか土で壁を作っていた。


一際大きな音がして、どこかの壁が崩れた。どうやら先程までの音はユキネの壁の物ではなかったらしい。


しかし、続いてユキネの壁にも罅が入る。持たないか、と少しだけ焦った所で、外が嘘のように静まり返った。


丁度限界だったのか、ユキネの壁が崩れ、状況が露になる。



「……ハル?」



最初に目に入ったのは見慣れたハルユキの姿。



「…ああ、大丈夫、だったか?」



それに、大丈夫だとユキネは答えようとしたが、改めてハルユキの状態が目に入り、息と一緒に呑み込んでしまった。



「その、腕……!?」

「……ああ、まあ大したことはないよ。直に治る」



大したことがない? ユキネにはそうは思えない。


何しろ、"左腕の肩から先がない”のだ。


幸か不幸か、傷口は焼け焦げているので、出血は無い。


よく見ると、目の前にはハルユキを境に巨大なクレーターが広がっていて先程の攻撃の凄まじさを物語っている。



「ハル、お前、まさか…!」

「お前ら」



ユキネが、何故ハルが怪我したか悟るが、それに気付いてかハルが逸早く声を被せる。


どうやってか攻撃を跳ね返したのか、異形の敵も手傷を負っていて、回復作業に移っている。


後に続いて、出てきた3人もハルユキの怪我を見て息を呑んだが、何も言わずにただハルユキの言葉を聞く。



「俺があいつの動きを止めるから、お前らはその間に……」



振り向くだけでハルユキの全身が痛む。


思わず言葉を詰まらせた時、ユキネの手がハルユキのボロボロになった服の裾を掴んでいた。


ただ、無理をさせたくなんか無いという思いから。


見ていた訳ではないが、私達のためにまたこの馬鹿は無理をしたのだと。



「お前ばかりが無茶をするのはもうナシだ。絶対に許さん」



強い口調ながらも、それはハルユキへの心配から来るものなのだろう。


それを理解しているハルユキは、苦笑してユキネの頭を軽く撫でた。



「……ああ、そうだな。だから……今日はみんなで一緒に無理しよう」



そして、ハルユキは山の様に巨大になった化け物を睨み上げた。



「みんなで…?」

「ああ、俺はこんな腕だし、一人でやるのはちと厳しいんだ。最初から、手伝ってもらうつもりだったさ」



ユキネは思わずキョトンとしてしまう。


しかし、やっと自分が望んでいたことだということに気付いた。



「あ、ああ! 一緒に、一緒にやるぞ!!」



思わず声がどもってしまった。


それを見てまたハルユキから苦笑されてしまう。



「あいつは回復する度に強くなってる。だから、チャンスは一回。失敗は許されない。だから…」

「儂の足を引っ張るなよ、小僧」

「お前は俺にだけ風当たり強いな…」



まあ、何はともあれ。



「さっさと終わらせようぜ」



そろそろ幕を下ろす頃合だ。





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