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ハイイロ ノ カナタ  作者: mild
第一部
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張りぼてのカミサマ

「お話は終わりましたか?」



男が階段を下りながら、薄ら笑いを浮かべて声をかけてきた。


大げさに胸を張って、どこの小悪党かと言うほど必要以上に自分を大きく見せたいのが分かる。


しかし、その仕草に全く似合わない力の波が肌にビリビリと伝わってくる。



「待っててくれて、ありがとよ」



圧し掛かる重圧に耐えながら、どうにか皮肉を返す。


男は不快な笑顔を顔に貼り付けたまま、余裕を辺りの空気に滲ませている。



「いえいえ。これから私も少し話そうかと思いましてね。お互い様、というやつです」

「おしゃべりしようってか?」

「いえ、そちらも戦うことに決めたようですから、少し挑発を、と思いまして」



俺達と同じ地面でなく、階段の一番下の段で止まったのは、無意識的に俺達を見下しているからだろうか。



「そこの吸血鬼。そう、あなたです」



男はレイを指名する。レイは怪訝な顔で、しかし警戒は崩さない。


それを男は確認したかのように少しだけ笑みを深くしたように見えた。



「どうして、私がここを知っているのか不思議ではありませんでしたか?」



階段に座り込むと、組んだ手を口にあて話し始めた。


言っちゃ何だが隙だらけだ。


通じないだろうが、とりあえずもう一回殴ってみようとした所をレイに目線で止められた。


男が言っていたことが気になっていたらしい。



「まあ、別にもったいぶる必要もなのでそのまま言いますと、知っている人物に聞いたんです」

「・・・・・・・何?」

「わかりませんか? ではヒントです」



男は話し続ける。


誰かを追い詰めたくて仕方ないのか、もったいぶる必要はないと自分で言ったくせに話を長引かせている。


口は隠れていてわからないが、おそらく歪に歪んでいるだろう。



「イサンがなぜ、あんな所にすんでいるか考えたことはありませんか?」



レイが息を呑み、目が見張っていく。



「・・・・・・まさ、か・・・!」

「ええ、イサンに聞いたのです。しかし、中々話さないんですよ。あれは母親譲りなんでしょうね。あれの母親も妙な所で頑固だった」



口振りからすると昔からイサンのことを知っているらしい。


男は俺たちが何か言葉を発する前に、言葉を更に重ねていく。


顔に浮かべた笑みを更に見難いものに変えながら。

 


「中々、話さなかったので自白剤まで使ってしまいました。


 まあ、井戸の場所を守れ、とかではなく、決して入るな。と言われていただけで、中に何があるかなんて知らなかったみたいですがね」



レイが小さい手を爪を食い込ませながら、音がしそうなほど握り締めていく。



「投与しすぎたせいか、痙攣しながらいらんことまで話してましたよ。


 新しい家族がどうとか、一人のときは寂しかったとかね。知りませんよそんなこと。蹴りつけてやったら動かなくなってくれましたが」



男は、やれやれと困ったように首を振って溜息をついた。


それを皮切りに、一気にレイの顔が怒りと殺意に染まっていく。



男は、そんなレイの様子を見つめて嗤っていた。


………しかし、その表情には楽しさも嬉しさも宿っていない。


それはどちらかと言うと──。



瞬間、隣で殺気が爆発した。



これは、先程男が言ったように挑発以外の何物でもない。


そんなことは当然レイもわかっているだろう、が。



「ッ……レイ!!」



止める間もなく、レイが男に飛び掛って行った。


瞬きするぐらいの速さで血の剣を精製すると、男に投げつけ、同時に飛び上がった。


男は、合計4本の剣をそれぞれの指の間で苦もなく挟み込んで動きを止めて、感嘆の声を上げた。



「へえ、………冷静ですね」



しかし、そのまま男の頭上を飛び越えるとレイは階段を十段ほど行ったところに着地した。



「それとも、許してもらったと考えてもよろしいのですか?」



ギリッと激しい歯軋りの音と共にレイが振り返った。



「貴様は殺す。イサンに土下座させた後バラバラにしてやろう。…首を洗って待っておれ」



それだけ言って、階段に向き直り再び上り始めた。


瞬間、一気に場が動いた。



「ああ、怖い。怖くて怖くてたまらないから、…死んでくれますか」

「何ッ……!?」



いつの間にかレイの背後にまで男が迫っていた。


何をする気か知らないが、振り上げた右手は吸血鬼すらも死に至らしめるものなのだろう。


レイは突然のことで満足に反応できてない。



「おっと、お前はこっちだ」



その更に後ろに俺。服の首裾を引っ掴んで、



「ッそら!!」



入り口の壁に向かって力任せに投げつけた。


壁に激突して土煙が上がる、が、あれで倒したと考えるのは浅慮に過ぎるだろう。



「……任せる」

「手早くな」



レイは階段を上しだし、他の三人も既に階段を上がって来ている。



「お前らは、レイの護衛を…」

「いやだ」



言うだろうとは思っていたが、ユキネが狙いすましたかのように俺の言葉を打ち落とした。



「ユキネ」



俺が何か言おうとした所で、意外な所から声がした。


フェンがユキネの服を掴んで、目でユキネに訴えていた。


その声は穏やかながらも、有無を言わせない迫力を含んでいる。



「私達じゃ、足纏い。……今のままじゃ」

「しかし……」



しかしユキネも頑として譲ろうとしない。


俺達の中で、無力の悔しさを知っているのは間違いなくユキネだ。


弱い自分が許せない。


そういうことなんだろう。



「大丈夫だよ。行け」



頭の上に手を置いて、軽く撫でながら諭すように言った。


少しだけ迷ったようなそぶりを見せた後、ユキネはキッと俺を睨みつけた。



「……無理は、するなよ」

「しねえよ」



渋々だが、二人は階段を上がっていった。


それを横目で確認して、改めて男を包んでいる土煙の前に飛び降りた。



「おやおや、服が汚れてしまいました」



服についた埃を手で軽くはたきながら、何事もなかったかのように男が土煙の中から姿を現した。


俺を見て、次に階段を上りきった4人を眺めてから、俺に再び向き直った。



「封印ですか。なるほど、理に適ったやり方だ」

「余裕だな。あれを封じられるとお前は終わりだろ?」



俺の言葉にキョトンとした後、耐えられないという具合で笑い出した。



「はっはっはっはっ!! あなた達はまだ分かっていない! 時間稼ぎでもしようとのことでしょうがその考えこそ傲慢だ。


 私がここからあそこに歩いて行くまでで封印は終わらないでしょう? それはつまり、勝敗は決しているということなのですよ!!」



俺じゃ時間稼ぎにもならない、と。


そう言いたいのだろう。


だが、御生憎。



「ここにいるのが、俺じゃなかったならな。それと、お前が神を演じるのはちょっと役者不足だろ」



ぴたっと高笑いが終わり、俺を睨み付ける。


自然と二人の周りの温度が下がっていく感覚に襲われる。



「不快ですね。傲慢な人間はだから嫌いなんです」



殺気だった顔でそう言うと、ゆっくり一歩を踏み出した。



「そこまで言うなら、私の歩みぐらい止めてみせてくださいよ。矮小な人間風情が……!」

「そうするよ。今日は無礼講だしな」





◆ ◆ ◆





ちょうど十度目の拳を男の胸元に叩きつける。


しかし、例によって拳は弾かれ俺の体ごと跳ね返される。


階段までは後15メートル程。


男はそれだけの距離を焦らすかのようにゆっくり歩いていく。



「少し手を出しましょうか」



瞬間、地面が俺に牙を剥いた。


正面からだけではない。四方からでもない。文字通りそこら中の地面から地面が槍となり槌となり剣となり俺に襲い掛かる。


上。


咄嗟に地面が存在しない空中へと身を退避させる。


しかしここは地下。空中にこそ地面は存在しないが、天井にはしっかりと存在する。


俺を挟み込むように地面と天井が接近してきた。



「ッチィ・・・!!!」



地面がないので代わりに空中を思い切り蹴りつける。


容易に音速を超えられるようになった俺の脚は、空気を踏み台に推進力を生み出して俺の体を突き動かす。


俺が範囲から出たと同時に、ものすごい轟音を響かせて大地の顎が空間を噛み砕いた。


避けた所、避けた所に次々と顎が殺到する。


それが高速で物凄い数が連続していく。


やがて、男が俺のいる所まで到達した。


男はそれを視界の端に移す程度の意識で何事もないように通り過ぎていく。



「なめてんじゃ、ねえぞ……!」



上下から迫ってくる地面にナノマシンを大量に侵入させる。


魔力で先に操られている以上、たいしたことはできないが一瞬だけ動きを止めることに成功した。


それを感覚だけで確認すると、限界を超えた速さで空を蹴る。


どれだけ速く蹴ればそうなるのか、もはや蹴った感触は地面と変わらないほど。


そのせいで予想以上のスピードが出ていたせいか、着地の勢いを殺しきれずに地面にひびが入り、俺の頭に絡まっていたのか桜の花びらが一枚ふらふらと舞い落ちた。


その向こうに男が変わらず歩いてきているのを見つけ、即座にありったけの銃器を生成した。


間をおかずに、一斉に放火する。


銃弾と爆薬が辺りを削っていく。


しかし、聞こえるはずはないのに、轟音の中にゆっくり徒歩を進める音が俺の耳に割り込んでくる。



「……分かりましたか? 所詮は人間。力も魔力も劣るあなた達では…」



言い終わる前に砂塵から出てくるタイミングを狙い、接近し全力で右拳を振り上げる。



「だから、………無駄です」



少しは抵抗できたものの、結果は多分に漏れず、俺の拳はまたもや届かず障壁に阻まれる。


次の瞬間には、力が俺に返って来た。


地面に一度思い切りバウンドして階段に叩きつけられた。



「がッ…!!」



肺の中から空気が出て行き、一瞬だけ無酸素状態に陥る。


しかし、寝ているわけもいかないので痛みが引かないうちに唇をかんで立ち上がった。



「人間は弱い。私に触れることもできない。もう、分かったでしょう」



男の不愉快な説法を聞き流し前を見据える。


確かに神を脳裏に思い浮かぶほどの強大な力が男にはある。


だが、勝てないかといえばそれはまた別の問題だ。



「ハル!!」



上から俺の身を案じる声が聞こえる。


だから、座ってなどいられない。格好悪い所なんぞ見せてたまるか。


諦めるつもりも、さらさらない。


なぜなら、男の肩に勝機のかけらが光っている。


さあ、傲慢な張りぼての神様クソヤロウを。


地に堕としてやろう。




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