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ハイイロ ノ カナタ  作者: mild
第一部
39/281

森を越えて

「んあ……」




日の光が顔に当たり、目を覚ます。



目の先には規則正しく並んだ木の天井。



昨日は確か、森で寝たような気がするんだが…。




「ごくごく…ごく、ごくん。……ちゅー…ごくごくごく…」




地面は硬くない。というよりどうやらベッドの上のようだ。



すぐ隣の窓からは枯れ木が乱立しているのが見える。森の中ではあるらしい。 




「ちゅーーーー………ごく、ごくん」


「……おい。人がスルーしてるからって調子にのんな」




人の上に乗って首筋に歯を立てて、血を飲んでいるそいつに遂に声をかける。




「………ゴッキュッ! ゴッゴッゴッゴッゴッ、ゴキュッ、ゴックン…!」


「…ラストスパートですか?」




ええい、と首を振ってそいつを引き剥がす。




「なんじゃ、うるさいのう…」




やっと首から離れたそいつをベッドから振り落とす。


やれやれと首を振るそいつを蹴りつけたくなるのを抑えつつ、紳士的に尋ねる。




「とりあえず聞いとくが、何やってんだ?」


「血をな? 飲むんじゃよ」


「……その言い方だとまだ血を飲むといってるように聞こえるから、きちんと言い直そうな?」


「ちゅーーー…、……んむ?」




目にも留まらぬ早業ですね。



お兄さんとっても感心。


「するか!!!」




俺の怒りがツッコミ(強)となって腕にかぶりついている女に迫る。




「(ひょい)……ちゅーー…」




避けやがった…! ツッコミを受けるのはボケの義務だろうが…!


再びツッコミ(最強)が迫る。




「ごくごく(ひょい)…ごくごくごく」


「ぬあああ!!」




ツッコミ(鬼)が迫……




ゴスッ!! ←カウンター




「……俺、何か悪い事したっけ?」




「ごく、ごく、ごくごくごく……」






◆ ◆ ◆






俺の意識が再び遠のこうとしていると、ようやく満腹になったようで腕から口を離した。




「……お主本当に人間か?」


「開口一番それかい…。なんだ? あまりに神々しすぎたか?」


「いや、外見は目を瞑りたくなるほど普通なのじゃが……」




なんとなくボケただけなのに、なぜこんな再起不能になるほどのダメージを……。


膝を突いた俺に構わず女は続ける。




「血がありえないほどに熟成しとるの。まあ美味いからいいのじゃが」


「……よく考えたら、いきなり血を飲むってどうなんだ? っていうか俺お前に殺されかけたんだけど…」


「いや、あまりに美味かったからの。一口のつもりだったのじゃが、ついついというやつじゃ。

普通は年を取るごとに熟成して行って、代わりに黴臭くなっていくんじゃがな。お主の血は、いや血だけは、自慢していいぞ」


「待て待て待て。色々言いたいことはあるが、割とそんなことはどうでもいいから、まずは説明してくれ。

 ここは何処だ。なぜ俺はここにいる?」


「……お主、昨日森の中で酔いつぶれていたのは覚えておろう? 酒臭い血など飲みたくないからの。ここまで連れてきたわけじゃ」




じゃあ、ここはこいつの家なのか。



…普通だ。別に城ってわけじゃないし、日光が入ってこないように黒いカーテンで日光を遮断しているわけでもない。



きょろきょろと部屋を見渡していると、ガチャッと扉を閉める音が聞こえた。



どうやら、話すことだけ話して出て行ってしまうらしい。




「ま、待て待て、どこ行くんだよ」


「仕事じゃよ。お主はもう帰っていいぞ」


「……勝手じゃね?」


「知らん」




いや、まあベッドに寝れただけマシだった気もするが。



でも帰り方わかんないし。




「近くの村まで連れて行ってくれたりは…?」




後ろについていきながら質問する。




「しないのう」




言いながら、女はずんずんと廊下を渡りその先にあるこじんまりとした扉を開け放った。




目の前に幻想的な光景が広がった──…


、訳でもなく、というよりさっき窓から見たとおりの殺伐とした枯れ木の森だった。




振り返ると、先程まで入っていた一軒家と、そばに森から孤立するように一本だけ生えたやっぱり枯れた木が目に入る。うっすらと苔が生えていて目立たないが、井戸らしきものもある。





家は、こじんまりとしてだいぶ年季も入っているものの、きちんと手入れをしているのが分かる。




いつの間にか、女が周りを見渡す俺をおいて、森に向かって歩いて行っているのを見つけた。



駆け寄って声をかけた。




「ひょっとして本当は村まで案内してくれたり…」



「しないのう」



先程のようにそう言い切って、森の入り口に立つと、着物の袖をまくりいきなり自分の手首を噛み千切った。



ブシュッと尋常じゃない程の血飛沫があがり森の木とその下の地面にこびりつく。




「お前ッ、何を……!」




ばっと女の手をとるが、その腕には傷どころか血さえ付いていない。




「これは魔術的な儀式じゃ。実際に傷をつけたわけではないわ。アホめ」




そう言いながら女が顎でしゃくる先に目をやると、飛び散った血が地面に潜って行っている。




「それとも、心配でもしてくれたのかえ?」




そう言いながら悪戯好きそうな、にやけ顔で俺を見上げてきた。




「……………紳士なもので」


「やはり、小僧じゃのう」



くっくっと笑いながらまくった袖を戻すと、家へと戻っていく。




「……人間。飯でも食っていけ。血を貰った礼じゃ」


「意外と義理堅いんだな。吸血鬼って…。普通に昼間に出歩いてるし」


「ちなみに玉ねぎは血に良いから好物じゃし、教会に祈りに行ったこともあるぞ?」




世界観はきちんと守りましょう。




「飯つってもあれだろ?……えーと?」




「麗じゃ。そう呼べ」




「んじゃ、レイ。……お前ただ栄養補給させたところで、また血を飲むだけだろ」



「ようやく立場を理解したようじゃの」






◆ ◆ ◆






「ハルはやっぱり帰ってこないか」


「………大丈夫、でしょ」


「誰も心配してるわけやないけどな」




そう言いながら、出発の準備を終えて3人は馬車に乗り込む。




「結構激しい戦闘があったみたいだが、まあ怪我はしていなかったし、村で待ってればいいだろ」


「じゃあ、出発するでー」




そう言いながら、馬に鞭を打つ。



ガタンゴトンとその身体を揺らしながら、馬車はゆっくりと走り出した。





───枯れ並木道を行くこと3時間。




当初4人がおもっていたとおりこの森はかなり広いようだ。




「まだ着かないのか? 確かこの森の中に村があるんだろう?」




地図を広げて、ユキネが村の場所を確認する。




「……一本道だったから、間違ってはいない、はず」


「この森は広いことで、だいぶ前は有名やったらしいからなあ」




もう太陽も完全に昇りきってしまった。


森を太陽の日から防ぐ緑も存在しないので、地面がからからになり、森独特の湿気も感じられない。




「……草木一本ないな」




異常なほどに何も存在しない。


まるで、違う世界に潜り込んでしまったかのように、不自然さを振りまいている。




それから更に30分。


やっと、景色の先に変化があらわれた。




「……やっと、見えたでー…」




思ったよりも長くなってしまった道のりに、生気がないジェミニの声に2人は前を向いて、確認する。




枯れた森を越えた先には、枯れた村が存在していた。




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