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ハイイロ ノ カナタ  作者: mild
第一部
36/281

旅日和

山から下りてきて2日。




俺たちはその日の依頼をを2,3個終わらせてから、宿屋の中庭に集まっていた。



俺の怪我も疲れも完全に回復し、以前と変わらない、いや更に少しだけ強化されたといっても過言じゃないぐらいの健康状態に戻った。



今ここにいるのは、ユキネの魔法を見るためだ。


ユキネは一人で魔法を習得して、皆を驚かせようとしたらしいのだが、どうにも上手くいかずフェンに相談して、中庭にいた所に俺とジェミニが来て、しぶしぶ事情を話させたところだ。


聞くところによると、文字と魔力を知り合いから返してもらったとかなんとか。


魔法のことはよく分からないが、そう言うんならそういうことなんだろう。


知り合いというのは、おそらくあの霊龍のことだと思う。


ユキネを攫ったのは別に自分の命をどうにかするためわけではなく、もう生きていられないから早くやるべきことをやるためだったのだろう。




「まずは魔力を感じて、文字を浮かび上がらせる、とこから」


「やり方がまったくわからないんだ……」


申し訳なさそうにユキネが答える。




「魔力は感じてる?」


「ああ、前は少なすぎて分からなかったが、今は身体の中に何かがある気がする……たぶん」


「それが何処から流れてきているかは、分かる?」


「ちょっと待て


 …………右肩、と左手?」


「どっちやねん」


「……分からない。本当にどっちもなんだ」


フェンとジェミニは不思議そうな顔で顔を見合わせてから、二人で少しだけ話すとフェンが言った。




「とりあえず、肩のほうに集中して、やってみて。やり方がわかっていれば、簡単」


「わかった」



そこからもう一度集中し始める。するとすぐに、右肩が白く光り始めた。



「文字は……『白』か? それ。」


肩の辺りに服越しにぼんやりと文字が浮かび上がっている。




「……できた」


いとも簡単にステップが進んだことにユキネは驚いているようだ。



「そこまでできれば、後は自分のイメージで魔法を作っていけばいいだけや。


 それにしても、『白』かあ。ワイたちは全員異文字なんやなあ」


「俺は使えもしないけどな。そういえば、俺ジェミニの文字知らないな。どんなんなんだ?」


「ワイか? ワイはこれや」




そういうと、首筋の辺りが光り始める。


刻んであるのは『流』の文字。




「おいおい、異文字ってのはかなり珍しいんじゃなかったのか?」


「んー、まあ50人に1人ぐらいやからそんな驚くほどのモンでもないんやけどな。まあ3人いて3人とも異文字ってのは珍しいやろうな」


そう会話している間に、フェンとユキネは次のステップに進もうとしていた。




「じゃあ、そのまま何か魔法を……魔装具は、……え?」


ぼっとユキネの手のひらに白い炎が燃え上がった。




「魔装具なしで、安定してる……」


「へえ、そりゃ便利やなあ」


「そんなに違うのか? 魔装具があるのとないのは」


「魔法の威力やらなんやらは変わらないやろうけど、基本的に魔導師は魔装具がないと戦えへんからな。弱点ともいえる部分がないのはかなりお得やろ」


「……そうか、そりゃそうだな」





「そう言えば、左手のほうはなんだったんだ? 結局」


「ん…? ああ、忘れていた。えっと、左手に集中……」



すぐにも左手に変化が現れる。


先程とは違う、煌く金色の光。


左手に現れた文字を見ると頭の中にイメージが送られてくる。


顕れたその文字は、『破』。


光の膜ができ、その中から空気を切り裂きながら何かが飛来してきて、ユキネの足元に突き刺さった。



「これは、あの時の……」



一振りの大きな剣。


古いが良い剣だ。刃こぼれもなく刀身のバランスもいい。



俺は自然と手が伸びそうになっているのを逆の手で掴んで制止する。


それをそのまま背中に隠し、ユキネに問う。



「知ってるのか? この剣」


「この前山で使っていた剣だ。手に持ってたら消えてしまったから、何かは分からなかったんだが……」



見ると、剣にも『破』の文字が刻まれている。




(漢字……じゃないか…?)


その剣からはイメージももちろん伝わってくるが、刻んであるのは間違いなく漢字である。


それを言おうとした所で、横から出た驚きの声に妨げられた。




「文字が二つある、なんて、聞いたことない…」


「確かに異常なほどに特殊なケースやな……」


「ユキネ……そういえば、あの精霊獣は…」


「精霊獣……!?」


「? 精霊獣ってなんだ?」


俺が当の本人のユキネに聞いてさあ? と首を傾げてくる。


そんな俺たちに、何で知らへんねんとジェミニがため息をつきながら説明してくれてた。




「精霊獣っちゅうのはな、まあよくは分かってはおらへんのやけど、魔力が高く技量が極まった魔導師に突然発生する言われてる守護獣のことや。

 何が原因で顕れるかも分かってへんし、ほとんど都市伝説やから謎に包まれとるわけやな」



それがユキネにも宿ってるってわけか。




「スゲェな。ちょっと見せてくれよ」


「…………どうやって?」




……………さあ?



「前は、どうやって……?」


「あの時は勝手に出てきたんだ」




精霊獣はとりあえず置いておくことにして、更に魔法の練習を重ねることになった。


結論から言えばユキネもフェンと同じように4つの属性を扱えるということは分かった。



ただ、決定的に違う点が一つ。


白い炎、白い土、白い水に白い風。


その全てが肩の文字に習うように白に染まっていることだ。




これにどんな意味があるかは分からないが魔法の練習をしているユキネは特別楽しそうで、あまり気にしていないようだ。




◆ ◆ ◆




フェンが買い物に行き、ジェミニがナンパをしに村へ言った後もユキネは一心に魔法の練習をしていた。


俺も特にやることもなかったのでそれをボーっとと見ている。




日が真上から傾き始めたころ、ユキネは動きを止めた。


じっと目の前の手に乗った火の魔法を妙な顔で覗き込んでいる。




「なんちゅう顔してんだよ」


そう言いながらユキネの後ろに回り頭を軽く小突いた。



「い、いや、魔法を使っている自分を、ちょっと不思議に思った、のかな。改めて、びっくりして」


「なんじゃそりゃ……」



言いながら設置されたベンチの上に座り込む。


視線を上げると、椅子のそばに寄り添うように立った木の、葉の間から木漏れ日が差し込んできている。




「……魔法さえ使えたらと、そればかり言ってきて、今実際に使えるようになってわかった。そして、決めた」


ユキネも空を見上げて、光に目を細めながらそう言った。




「…………何を?」



「……この前な、あなたの強さはそういうことじゃないって私に言った人がいてな。


 その人が言っていた強さも、戦える強さもまだよく分からないし、持ってもいない。それが気づいたこと。



そして決めたこと。……私は強くなる、誰よりも。もちろんハルよりもな」





「……俺よりもか」


「お前よりもだ」



二人してニッと笑いあう。




「私は強くなるために旅を続ける。天国に行った皆には待ってもらうことになるけど、私は私の我侭で強くなって我侭で私がもらった想い(もの)を世界に返していく」


「……じゃ、俺も強くならないとな。最強にくらいならないと、超え甲斐がないだろ?」




そりゃ大変だ、と言ってユキネは俺の隣に座り込んだ。




「ハルは? ハルは何で旅をするんだ?」



「俺か? 俺は、そうだな……ただ、世界を見たいだけだよ。世界がどれだけ広いのか自分の目で確かめたいだけだ。


 果たして世界は両手で囲えるくらいに小さいのか、それとも目も届かない程に広大なのか」




世界の広さは、1億年を生きた俺でも知らないことをきっと教えてくれる。


容易なことではない。でも不可能でも決してない。



ユキネは嬉しさとちょっとだけ悔しさが混じったような顔で、そうかと言って笑った。




その顔に無理はなくて、いつもよりも少しだけ、強く見えた。






◆ ◆ ◆






「じゃあな、おっちゃん。世界を一周でもしたらまた来るよ」



「おう! そん時はまた飯でも食わしてやるよ」



そう言って最後の荷物を馬車に乗った俺に手渡した。


と言っても、荷物はこれで全部だが。




「この近くで一番近いのは、……そうだな、セシ村だがあそこは何もないところだから素通りして、次の町に行ったほうがいいかもな」


「どっちみち通るんだろ? ならそこに着いてから決めるよ」


「そうか。ま、好きにやればいいさ。方向は川を渡って馬車道をまっすぐ行けばいずれ着く」


「わかった、色々世話になったな。ジェミニ、3時の方向に全速前進ー」


「ジェミニ馬車は安全運転第一が信条なんやでー」




馬車が全速とは程遠いゆっくりとした速度で走り出す。



相変わらず屋根がない馬車からは、雲一つない空が良く見える。





本日も、快晴なり。



実に旅日和だ。



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