狂鳴
地面に身を削られながら、岩壁に激突する。
「がっ……はッ………!」
否応なく肺から空気が吐き出され、体から力が抜けてしまいそうになる。
頭に何かいるかのように、ガンガンと頭の中で何かが叫んでいるような音が遠く鳴っている。
ハルユキは落ちてしまいそうになる意識を、懸命につなぎとめ、岩にめり込んだ身体を何とか外に出す。
ガクン、と体がいうことを聞かず思わず膝をついてしまう。
(血が足らない……か)
しかし今のハルユキに、ゆっくり回復を待っている時間などない。
再びじらすようにゆっくりとラストが歪に笑いながらこちらに歩いてきている。
震える膝に拳で喝を入れ、無理やりに膝を立たせてラストに向き合った。
ラストはそれを確認するとさらに笑みを深く顔に刻んで、突っ込んできた。
右拳が進行先の空気を押しのけながら、俺を殺そうと襲ってくる。
それを間一髪でかわし、左に回り込む。
それを予期していたかのように、ハルユキの体を狙ってラストの左足が飛んできた。それを、反応が遅れながらも屈んでかわし、そのまま立ち上がりざま右のこぶしを突き上げる。
しかし、キレが足りない、力が足りない。当たりはしたもののダメージを与えられる程のものではない。
自分の腕だとは思えないほど力が入らなかった。
こちらを見て笑っている余裕のラストから一旦距離をとる。しかし、間髪いれずに襲いかかってくる。
その腕には、靄のような魔力が集中している。
「っぁああああああああ!!!!」
らしくない大声で自分を高ぶらせ、力の限り拳を握りこむ。
互いに渾身の右拳を振るった。
またしても拳同士がぶつかり、洞窟が揺れる。
そして、同じように拮抗するがその均衡はまたもやすぐに崩れる。
違うのは、押し切られたのはハルユキの方だということ。
……失血でもう、足がついてきていなかった。
ガクン、と膝が折れ力のバランスが崩れる。
ハルユキの拳は押し返され、ラストの拳が胸に直撃し、再び後ろの岩壁まで吹き飛び背中を強く打ち付けた。
「がァッ……!!」
口からもとんでもない量の血が飛び出し、さらに意識が遠のいていく。
もう目の前の少ししか視界が存在しない。
「まだ死なないのか……。ホントに凄すぎるだろ。ハルユキィ…」
岩からはがれ前のめりに倒れこもうとしたときに首をつかまれ壁に押し付けられた。
「惜しかったなあ。多分あの爬虫類がいなかったら、お前が勝ってたぜ? まあ、言ってもしょうがないことだが。
何はともあれ俺は今からお前を殺すが、……できれば死なないでくれよ?」
当たり前のように唐突に死の宣告。
ガンガン、ガンガンと頭の中の何かが暴れ続けている。
何のためらいも猶予もなく、ハルユキに決死の拳が迫る。
しかしハルユキの目にはそれはとてもゆっくり映っていた。
──────ぱしっ
短く乾いた音。
何の音か、何が起こったのか理解できずにラストは驚き、それを見た。
ハルユキの手が、ハエでも捕らえるかのようにゆっくりとラストの拳を受け止めている。
「………は?」
ラストが目の前の光景に思わずあっけに取られ、間抜けな声を上げる。
先程まで、いや今でも虫の息の男が自分の渾身の拳を、大して力も入れていないような腕で受けとめている光景に不自然さを感じざるを得ない。
その、目線が不意にハルユキの目に、何かに吸い寄せられるように移動する。
何も映さないような灰色の眼。
しかし、何も映していないわりに、何かがその中で蠢いている。
───不意に、ラストは"それ"と目が合った。
そして、流れ込む。
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「っあああああああああ!!!?」
脳髄が掻き回されているような感覚が駆け巡る。たまらず発した絶叫が洞窟を震わせた。
何かに怯えるようにハルユキから手を離し、一瞬で後ろに下がる。
「お…前ぇ……。ハルユキ…。心、に…何、飼ってやがる…!!」
怯えた声に怯んだ眼。口の端からは苦悶からか涎が垂れる。
しかし、しかしその声には狂気の驚喜が含まれていて、口の端はつり上がったまま。
「お前は、ホントにおもしれえなァ……! ほらもっとだ! まだまだだろォ! 楽しませてくれんだろォ!!?」
そう言って、立ち上っていた白い靄を全て右腕に集めていく。それだけで動いてもいないのに、空気が揺れ、地面が悲鳴を上げる。
ラストはその、もはや完全に人智を超えてしまった拳をハルユキを殺すためだけに振り上げる。
それをハルユキは、ずれた時間軸の向こう側から見つめていた。
(何だ……? この声…)
ラストの声ではない。
先程から頭の中だけに響いてくる声。
ぼそぼそ、ぼそぼそと頭の中に少しずつ入り込んでくる。しかも染み付いてしまったように離れない。どんどんと、その音が大きくなっていく。
そしてハルユキは、何かに導かれるように頭の中で暴れるその言葉を反芻した。
────其れは唯、殺して啜る────
一気に、視界が広がった。ただ、見える世界には色彩が存在していない。
色あせた世界の真ん中では、狂気にまみれたラストがこちらに拳を振りかざして近づいてきているのが見えた。
額には既に違和感。そこには在るのは恐らく異形の角。
次第に意識がはっきりしてくる。覚醒した意識のせいか、ハルユキは神速で迫るそれを首を傾けるだけで避けた。
ラストの攻撃の余波で拳の先の壁が捲れて巨大な穴があき、空気がびりびりと震える。
しかし、ハルユキは傷つきもせず、気にも留めない。
ただ、避けざまにその手を掴み握力だけでへし折った。
目の前で、自分の折れた腕を押さえて、ラストが絶叫している。
目の前にいるのに、それはとても遠くのことのように感じる。
不思議で不快な感覚。
しかし自我ははっきりと残っていた。
この暴れまわる狂気の中、自我を保っていられる自分がどこか悲しかった。
手を握る。
硬く堅く握り締めて、それはやがて拳に変わる。
「………じゃあな」
その拳をラストの腹にまっすぐ叩き付けた。
ラストの強靭な体が悲鳴を上げる。臓物をつぶし、アバラを砕き、背骨を叩き折る。
そのまま貫通するかと思ったところでラストの体は力に追いつき、吹き飛んだ。
風を押しのけ、音に追随するかのようなスピードで。
やがて、岩壁にぶつかるが、勢いは微塵も止まらない。
直撃した所の3メートル付近を一緒に吹き飛ばしながら、彼方に消え去った。
穴からひびが伝わり、洞窟のおよそ三分の一の部分が崩れ落ちていく。
崩れた所から覗く月が、気絶した鎧龍と唯一立っているハルユキを照らしだし、決着を示し出した。
ハルユキの顔には歪さを感じる程に何も浮かんではいない。
◆ ◆ ◆
────山の中腹。
「まったく今回は災難だらけでしたね。」
生い茂った木々の中にポツンと立った少年の手の中にあるブローチが声を発していた。
「そうだね。サジタリウスは身体もなくなっちゃったし。」
それを手に持った少年がさらに追い打ちをかけると、サジタリウスと呼ばれた男はブローチでは顔も分からないが、明らかに落胆しながら続けた。
「………私を殺したあの男。調べてみたほうがいいでしょうね。あれは、もはや人外の域です。今後あれが敵に回ることになれば厄介なことになるでしょう。」
少年がこくんと頷いたのを確認すると、サジタリウスはさらに話を進める。
「しかし、今回は収穫も確かにありました。あのユキネとかいう娘! あれは素晴らしい…! あんな精霊獣ははじめて見ましたよ。
今度の聖会にででも報告して……」
しかし、闖入者の登場によってそこで話は中断させられる。
森の陰に人の影。気づく前にかなりの接近を許してしまっていた。
「久しぶりやなあ。サジタリウス。それが本体やったんかあ。」
子供はその変に訛った言葉を使う男を不思議そうに見つめ、サジタリウスは絶句して言葉を失っている。
「………貴様ァ、生きていたのか…!」
「そんな言い方あらへんやろ? せっかくかつての仲間がわざわざ会いに来てやったちゅうのに。」
サジタリウスはさらにうろたえるが、体のない今の状態では後ずさることさえできはしない。
「ジ、ジェミニ! 私を連れて今すぐ逃げなさい! 早く!!」
ぴくっと二人の"ジェミニ"がその声に反応する。
瞬く間に殺気が満ちていく。少年のジェミニはそれだけで足が地面と同化したんじゃないかというほど足を重く感じ、一歩も動けない。
「そうか……。今はその子が『ジェミニ』、か。ホンマはサジタリウスだけのつもりやったんやけど、すまんけど
………………死んでくれな?」
静かな森に、二つの断末魔が響き渡った。
◆ ◆ ◆
どれほどの宙を跨いだだろうか。
やがて、高度が下がり地面にぶつかり、木々を2,3本なぎ倒してようやく勢いが止まる。
止まった瞬間、ゴボッと信じられない量の血が口からこぼれて、上半身が血に染まった。
運よく唯一折れていない左腕を使い、何とか仰向けに寝転がる。
「……生き…てんな、あ…ひゃはっ……ごぶッ…!」
口を動かすだけで、体が悲鳴を上げ口から血が零れる。
内臓はほとんどが破裂。
左腕以外の骨は粉々、おまけ血も足りない。
「ま……なんとか、するか……。」
生き残ってまた続きを紡ぐために、寝たまま体の治療を始めた。
白い靄が体全体を包み込んでいく。
そんな中、ラストは先程の最後の一撃を思い起こす。意思に反して体が震えだした。
……怖いのだ。
「ははははっははははっはははははっははははっはははっははははははははははっははははっははは!!!」
笑う。嗤う。哂う。自分を。世界を。宿命と運命を。
恐怖さえもワラい飛ばし、狂気で飲み込み尽くす。
「やっと……やっとだ……!!」
体は震えていても、心と魂は歓喜にうち震えているのだから。




