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ハイイロ ノ カナタ  作者: mild
第一部
31/281

目まぐるしく、廻るめく

夜の闇の中をすべるように移動している。


大きな月が出ているとはいえ、ここは夜の山の真ん中だ。正確にはその上空だが。とにかく視界が悪いということだ。



最初のあたりこそじたばたと抵抗していたが直に疲れてやめた。足を持っていた剣できりつけようとも思ったが、もし驚いて私を放そうものなら間違いなく死ねる自信がある。


なんとなく恐怖が薄れているのは、傷つかないように気遣って私を運んでくれていることに気づいたからだろうか。


とりあえず、今すぐ食べられるということもないようなので、とりあえずは着地してから考えることにした。




どれくらい飛んでいただろうか。ドラゴンが下降し始めていることに気づいた。山の頂上に来たというわけではない。


ただ、着地地点には半径10メートルほどの穴、その穴に器用に身体を滑り込ませながら、さらに下降していくと地面が見えてきた。


地面まで30センチほどの地点でゆっくりと私を地面に降ろすと、ドラゴンはその場にうずくまった。いやひざまづいているようにも見える。


とりあえず現状を理解するために、周りを見渡す。


広い。どうやら半球状の洞窟になっているようだ。洞窟の端は見えないがおそらく生半可な広さではないだろう。




「確かにウィーナの娘ですね。ああ、あの子が若い時にそっくりに育ちました」




不意に、決して大きくはないが洞窟中に響くような不思議な声が聞こえた。


「誰……だ…?」


口ごもってしまったのは、その声に懐かしさを感じてしまったからだ。記憶からか心のどこからか、よく分からない場所がその声に郷愁を感じていた。


「フフ、久しぶりですね、スノウ。といっても会ったのは生まれたすぐ後に一度きりですけど」




────次の瞬間、目の前に星空が広がった。




と、同時に意識が遠のいていった。




◆ ◆ ◆


    


目の前の燕尾服男に少し後ろで並ぶように走る。


思ったよりも高速での移動となったため、俺の背中にはフェンがおぶさっている。


道など存在しない、時には木と木を飛び移りながら移動していく。




「あとどれくらいだ?」


いつまで経っても同じような景色にいらだってすぐ斜め前を走る男に声をかけた。


「……見えました。あそこです。」


男の指が指す先に目をやるが、そこにあるのはただの岩壁だけ。


大きい。奥にそり返るように伸びていて、頂点を見極めることも出来ない。




しかし、ここには当然ユキネはおろか、ドラゴンさえも存在しない。


「………どういうことだ?」




やはり罠だったのかと目の前の男から距離をとると、後ろからフェンが肩を叩いてきた。


「ハルユキ…………あそこ。」


右にかなり行った所かに何かくぼみがあり、そこから光が漏れている。あの中、ってことか。


「行くぞ。急いだほうがいいだろ。」


そう言ってくぼみがある位置まで即座に移動する。




間髪いれずに洞窟に続くくぼみにに足を踏み入れた時、違和感に気づく。


(待て、ここにいるのはドラゴンだろ? なんで……光が?)


決して強くはないとはいえ、確かに洞窟から光が伸びている。そう思ったのもつかの間、開けた所に出て、視界が一気に広がる。




そして、星を見た。




洞窟に広がっていたのは星空、その光が洞窟内を青白く照らしていた。


「……なんだ?」


その幻想的な光景に思わず足が止まり、驚嘆の声が漏れた。


フェンも同じように呆気に取られているようだ。





「……………星屑、龍」





後ろに背負ったフェンがつぶやいた。その声は恐怖ではなく、どちらかといえば畏怖がこもっている。



「何なんだ……あいつは。星屑龍って何だ?」


「物語とかに出てくる、幻の龍……。本当にいるか誰も確認できなかったから、今までずっと、伝説だった…。けど」



今目の前にいるってことか。


確かに星が散りばめられたかのような体は星の名を持つに相応しい美しさを誇っている。



それは確かに龍だった。しかしあまりに違いすぎる。マダラと呼ばれていた2色の龍とも、森で出会った炎の王とも、ついさっき戦った鎧の化身とも。


大きさも、瞳の色も、纏う空気も。何もかもが凌駕して卓越している。


体長は小さく見積もっても50メートルほど。そのあまりに長すぎる身体をドーム上に広がったこの洞窟の壁面に沿って横たわらせている。


目の色は今まで見てきた血に染まった赤色ではなく、星が散りばめられたかのように輝く身体よりもいっそう神々しい輝きを放つ金色。


その外観だけで歴史と神性を感じさせられる。




「思ったよりも早く到着しましたね。この子は確かに愛されているようだ」




俺のでもなくフェンのでもなく、燕尾服の男のでもない声が洞窟内に響いた。信じがたいがこの場で他に意思を持つのは目の前の龍しかいない。


「喋った……!?」


俺の驚きの声にいつの間にかそばまで来ていた燕尾服の男が落ち着いて答える。


「驚くことではありません。あれは百の世を超えて生きる、『霊龍』です。」


「霊龍……?」


男はこちらに目だけを向けてそこまで説明してる暇はないと伝えるとその霊龍とやらに接近する。


霊龍は男が近づいてくるのを見ると、不思議と穏やかな声で告げた。




「すみませんが、此方は急ぎなのです。早くしないと私は死んでしまうので。────ベイル、ここは頼みます」




その言葉に答えるように、先程の鎧を纏ったドラゴンが、天井の暗闇より躍り出て頭上から男に襲い掛かった。


それを男は舌打ちしながらも綺麗にかわす。




「ふっ、今の言葉で確信しましたよ。確かに私にはこの古龍にも勝てませんが、………その娘があなたの目的だというのならば私はその娘を殺すまで。


 あなたたちとの同盟は意味がないものになりましたが…」




唐突に男の雰囲気が変わり、殺気をむき出しにしてきた。……龍とユキネに向けて。


この瞬間、敵味方だけは全てはっきりした。




────全員敵だ。


龍は自分の命のために、そして男はそれを阻止するために。


俺とフェン以外全員がユキネの命を狙っている。




「出来ませんよ、あなた一人では。」


「誰が私一人だといいましたか? ジェミニ! 出番ですよ!」




飛び出そうとした俺と一緒に隣のフェンまで固まってしまったのが分かった。このタイミングでその名前が出てきた意味が理解できなかったのだ。



ジェミニ、だと?



いつからそこにいたのか男の影からすっと人影が出てきた。


しかし現れたのは俺たちが知っているジェミニとはまったくの別人。それどころか見たところまだ子供だ。


どうやらただの同名人物らしい。


どうにも安心してしまい、思わず胸をなでおろした。




「なるほど。ではこちらも急ぐとしましょうか。」


そう言うと、今度は一瞬で、星のような輝きを保ったまま霊龍が人の形まで圧縮していく。


人の形に収まると、星の輝きは姿を潜め一人の壮年の女性がユキネを抱えて立っていた。そのままさらに奥へと続いてそうな通路に入っていく。




「待て!!」


めまぐるしく変わって行き過ぎていた状況にあっけにとられていたことに気づき、ユキネへと駆け出す。


が、ベイルと呼ばれていた鎧龍が俺の進行方向に爪を突き立て、接近を妨げられる。


その隙にユキネを連れた龍は見えなくなってしまった。




「ハルユキ、私が足止めするからユキネを……。」


フェンの言葉に黙って頷く。


やることだけは変わらない。ユキネを助けるために動くだけだ。








────しかし状況の変化はとどまることを知らなかった。








ポツン、といつのまにか入り口に何かが立っていた。




初めに捉えたのはなんだったか。その姿ではない。気配でも、殺気でもない。嫌悪しながらも以前一番近くにあった感情。


ハルユキが捕らえていたのはただ渦巻く『狂気』。




ザッと砂をかむ音が聞こえた。それは微細な音で本来なら気にも留めないほどのものだったが、誰もがお互いを牽制しあう中、ハルユキだけは洞窟の入り口に釘付けになっていて、その音すらも感じ取っていた。


頭から汚れた白いボロを纏っていて、口だけがその隙間からのぞいている。


不意にその口が動いた。




────見つけた、と。


ゾッと背筋が寒くなるほど、洞窟内の温度が下がった気がして




次の瞬間、目の前まで拳が迫っていた。


「……………え?」


間の抜けた男の声が聞こえる。


視界の端にはたまたま俺とこいつの一直線上にいたために一瞬でばらばらにされた、どこか不敵だった燕尾服の男の姿。何があったか分からないという顔で絶命している。





唸りを上げて顔に向かって来ていたそれをぎりぎりで掌で受け止める。急停止したときの慣性エネルギーが背中へと風となって吹き抜ける。



「何だ……お前は。」



そのあまりに異形な雰囲気に勝手に動いたように俺の口が開いた。


そしてそれはまた、今度は俺に聞こえるように言い放つ。



「そりゃあ、………お前次第だァな。」



頭からボロがはずれその顔が明らかになる。割と整った顔立ちに白髪と白い眼。三日月形に不気味にゆがめられた口。


男の拳を受け止めた左手からは、しきりに痺れが伝わってくる。




「答えろ………。

 

 テメェは、正義の味方か? それとも悪の魔王か?」






しかしそれらよりも深く印象にこびりついてくるのは、不吉な血の匂いと破滅の香り。










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