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ハイイロ ノ カナタ  作者: mild
第一部
30/281

空回り


「こんな場面、前にもあったなぁ。お前憑かれてんじゃないの?」


こちらにむき出しの殺気を飛ばしてくるドラゴンからは決して目を放さずに言った。


「…………私じゃない。ハルユキのせい。」


まあ、俺もそう思うけど。




「とりあえず、俺があれの相手をしてるからお前はあいつらを避難させてくれ。多分、全員気絶してるだけだ。」


俺はぐちゃぐちゃになったステージ前を顎で指しながらフェンにそういった。


さすがはトップチームというべきか、ふらふらになりながらももう立って周りの奴らを起こそうとしている奴もいる。


しかしもう戦える状態じゃないだろう。それは一目見ただけで明らかだった。


フェンは何も言わずに頷くと、ステージ前に走って行こうとする。


それを少しだけ呼び止めて俺は言った。




「明日、依頼に行くってさ。Gランクだけど。……4人で行こうな。」


「……うんっ」


一言で、それでもどこか嬉しそうに返事をして今度こそ走って行った。




「さて、と……」


俺も気分を切り替え、ドラゴンに向き直る。


ドラゴンは先程俺がユキネを連れて行ったのを覚えているのか俺をじっと見つめて低く唸っている。


黒ずんだ鎧を全身に纏っているその姿は確かな威厳を放っている。


見たところ相当分厚いようだ。剣も魔法も銃弾も、ただではその鉄壁に傷を作ることも出来ないだろう。


しかしいつまでも膠着しているわけにもいかない。万が一にもフェンのほうに注意を引かせることは許されない。




とび出す。最初の5歩目ほどで一気に最高速まで到達して接近した。およそ15メートル離れたドラゴンまで走るのにほんの一息。



ドラゴンは未だ微動だにしていない。



目が合って分かった。こいつは動けていない訳ではない。動かないのだ。



その装甲はおそらく今までどんな攻撃も防いできたのだろう。ましてや目の前にいるのは、無手の人間が一匹だけ。



攻撃を受け止めてから、技後硬直の間に爪でも尻尾でも牙ででも攻撃を確実に直撃させれば、いとも簡単に勝負はつく。




種族としての差、そのことをよく知っている目だった。



メチャクチャ……気に、障った。




「なめてんじゃねえぞ 蛇もどき」


それなら、その考えを覆してやるまで。


堂々と張られたその胸に。全力をたたきつけた。


ドラゴンの紅の目に驚愕の色。右上から叩きつけるようにはなった拳の衝撃に、ドラゴンは一度地面に叩きつけられ、その巨大な体が弾み宙に浮く。


十メートルほど転がった所で勢いがなくなり、ドラゴンが再び立ち上がる。


「人間が弱いから、俺も弱いってか? そんなもんわかるわけないだろ。俺とお前は今、はじめて会ったんだから。」



俺はお前を殺せるんだから。



「本気で来いよ。俺は"敵"だぜ?」



人間の言葉が通じているかは分からないがその言葉に答えるように咆哮を放つ。その胸の鉄板には拳の痕が深く刻まれている。


立ち上がったドラゴンは今度はこちらをしっかり警戒している。


ドラゴンは体を低く前屈気味に構え、戦闘態勢を整える。


この距離なら炎でも吐いてくるかと思いきや、翼をたたみ始めた。翼は器用に折りたたまれ、鎧の中に素早く収納されていく。



「なんかカッコいいな、それ・・・・・・」



目が乾きを覚え一度だけ軽く瞬きをする。




次の瞬間、後ろから殺気。目の前に既にドラゴンはいない。背筋を寒気が通り抜ける。




経験か、運か、直感か、咄嗟に身をかがめるとその上を轟音を立てながら鉄の爪が通過する。


そのままドラゴンは一回転して今度は尻尾を見舞ってくる。体を地に伏せた体勢から腕と足の力で跳び上がりながら尻尾をかわす。


「結構速いじゃねえか・・・・・・!」


再び今度は俺が距離をとる。視線を戻すとドラゴンは既に先程の前屈体勢、隙を見せでもしたら即座に襲い掛かってくるだろう。



瞬く間に両者に緊張が満ちていく。



先程の攻防で分かったことがいくつか。こいつは分厚い鎧を纏っている、がそれでも動きは以前の火龍よりも上だ。おそらくそのスピードを生み出すためにパワーも相当なものだろう。



しかしこいつはその代わり遠距離攻撃手段を持っていない。そもそもこれだけ動きが速ければ確かにそれは必要ではない。



つまり、超近距離戦特化のドラゴン。地上戦では邪魔な翼を収納できるようになっているのも証拠の一つだろう。


しかし、それは俺の土俵でもある。




ところが、何故かドラゴンはもう戦意を収め始めていた。


先程収納したばかりの翼を広げ、一気に空に舞い上がる。


(逃げる……のか?)


逃げるのならばそれを追う必要はない。しかしもしかすると遠距離攻撃が可能かも知れない。警戒しながら上空を飛び続けるドラゴンを睨み付ける。


が、そのまま山のある方向へと向かい始めた。


どうやら、本当に逃げるらしい。身体から力を抜きドラゴンを見つめていると、ドラゴンが広場の端の辺りで下降し始めているのが目に入った。




ドラゴンの向かう先には、金髪の少女。




「あの、馬鹿!!!」




────────────────────────────────





ハルやフェンの何か助けになれないかと私は入り口を開けっ放しで逃げてしまった武器屋から剣を拝借し広場に向かっていた。


助けられてばかりなのはもう耐えられなかった。



「私だって、……戦える!」


絞り出した声は後にして思うと、おそらく恐怖に震える身体をどうにかしようとして出したものだったんだと思う。




必死に自分を励ましながら、最後の角を曲がり広場へと付く。そこには既にハルユキとドラゴンが対峙していた。広場に満ちた殺気に思わず後ずさる。


それでも歯を食いしばり一歩踏み出す。



しかし、そこでドラゴンは翼を広げ飛び上った。



いきなりのことで展開についていけず、ただ何も考えないで空のドラゴンを見上げた。


そして見えた。ドラゴンがその血のような紅い眼で此方をいや、私を見ていたことに。


気づいたときには、目の前までドラゴンの爪が迫っていた。




────────────────────────────────




ユキネを見つけたときにはもうハルユキは走り出していた。しかし、間に合うはずもなく、ドラゴンは後ろ足でユキネをつかむと再び空へと舞い上がる。




ドラゴンから一番近い位置にある家の屋根に飛び乗り、ドラゴンまで跳躍しようと足に力をこめる。


まだドラゴンは地上から20メートル程度の位置にいる。まだ余裕で間に合う位置だ。しかし、屋根が木で出来ていたのを失念していたのが致命的だった。




「しまッ………!?」


飛び上った瞬間、強すぎる衝撃で足元が崩れ中途半端な位置までしか飛べず、ドラゴンに届くことなく落下していく。


再び地面に到着したときにはもうどうやっても届かない位置までドラゴンは飛んでいってしまった。


「くそッ!」




自分に悪態をつきながらドラゴンを見つめる。推定で高さ80メートル程度。その高さまでは俺が飛んでこれないと分かったのか、方向転換し荘厳と聳え立つ山へと帰っていった。


すぐに後を追おうとすると、後ろからフェンが声をかけてきた。


「ハルユキ! 今ユキネが……!」


「分かってる。今すぐ行くぞ! 準備は……」





そこまで言いかけたところで目の前の角から男が現れた。



「お手伝いしましょうか? お坊ちゃん方?」



この村には場違いな格好、黒の燕尾服にシルクハット更に手にはステッキを持ち、顔には貼り付けたような感情のない笑顔。




「なんだ? お前は……?」


外見も、話し方も、雰囲気も明らかに普通の村人ではない。


「名乗るほどのものではありませんよ。私はあの鎧龍が守っているものに用があるだけです。」

 

「一人で行けばいいだろう? 何で俺たちにそんなことを頼む。」


露骨に疑われているのを悟ったのか、やれやれといった感じで話し出す。




「見ていた訳ではありませんが、あなた達2人であの龍をやり過ごしたのでしょう? 


 それだけの腕をぜひ私に"利用"させていただき、その代わりにあのドラゴンの居場所を教えましょうと、そういう取引です。


 ああ、私も多少は腕に自信がありますので足手まといにはなりませんよ?」


あまりにも胡散臭すぎる話だが、あの山はかなり大きいし広い。闇雲に探しても見つかる可能性はかなり低い。




罠かもしれないが乗ってみるしかないだろう。今は悩んでいる暇さえありはしない。


「………分かった。連れて行ってくれ。」


俺の苦悶の表情を見て面白そうに男が口を開いた。


「分かりました。フフフ、大丈夫ですよ。私の見立て通りなら彼女はすぐには殺されはしないはずです。


 …まあ、あくまで見立てなので断言は出来ませんが。」


「……今から行けるか?」


「もとよりそのつもりです」




不安の種を抱えて、俺とフェンは山へと向かった。






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