反転
2話目です
ユキネと言う殻を破って、何かが生まれた。
——そんな錯覚を覚える程に、それは劇的な変化だった。
まず服装が変わった。
ハルユキが用意した変装用の服は消え去り、代わりに現れたのは白いドレス。紐しかない肩口や斜めに裁断された裾は少々扇情的すぎる。
そのあまりに無防備な格好にも関わらず、その姿は究極の戦闘態勢だと確信させるのは、視界一杯を埋める白いクレイモア。
地面に突き刺さった数だけでも50本。
加えて恐らくはそれとは少々造りが違う12本がまるで翼のようにユキネの背に浮いている。
そして何より事も無げに握られている、あんな細腕に扱えるとはとても思えない2mほどはある巨大な剣が、両の手に一本ずつ。
ひょいと小石を投げてみる。
小石はユキネに当たる直前、見えない壁に弾かれた。
レイと出会った桜の森の化物。オウズガルでの乗っ取られた精霊獣。それに、ビッグフットでの金髪美丈夫。
神と人との次元の壁とでも言いたげな小憎たらしい障壁だ。
「いい。もういい」
ぴり、と頬を強い敵意が刺した。
ユキネの今の姿は、本当に神霊の類がこの世に降りて来たかのようだ。
だがハルユキは、彼女が神霊の類になったとはとても思えなかったし、この場にユキネを知る他の誰が居てもそうは思わなかっただろう。
感情の奔流に苦しむ表情は、神霊と言うにはあまりに、なんと言うか。
あまりに、ユキネの表情でユキネの声だった。
「──構えろ、ハルユキ」
再び、ユキネは言った。
「どうして?」
「今ここで、お前を越える」
さて。改めてユキネを見てみる。
俄かに夢物語だと馬鹿にできる程、尋常の気配ではない。恐ろしくなるほどの力と、成長だ。
「……そうか」
白いシーツを脱ぎ捨てて、宙に溶かした。
ごきり、と一度首を鳴らして、半身に構える。
「なら、試してみろ」
恐らくもはやユキネは力を込めるのに筋肉など用いない。
物を捉えるのに目など用いない。音など匂いなど、空気など光など。
故にそれは予備動作などと言う概念をそもそも知らないような動きだった。
少なくとも、不意を付いたその一振りはハルユキに避ける選択肢を無くさせるほどの一撃だった。
(う、お──!?)
何しろ、その"一撃は無数"だった。
確かにユキネは一人しかいないのに、、全方向から斬撃のみが襲い掛かってきていた。
まるで背後から斬りかかってきたような、下から振り上げてきたような、横から薙ぐような、喉元を突くような。ありとあらゆる攻撃が隙間なく。
「ぃよ──ッと」
それを全て叩き落とした。
さて、防御に両手を使ったのはいつ振りか。攻撃に転じられなかったのはいつぶりか。
両手に軽い痺れ。
耐え切れなかった空気は落雷のような音で轟破れ、堅牢であるはずの城壁は衝撃の余波だけで無数の罅が走る。
最初の攻防は、それでもしかし小手調べに過ぎない。
弾きついでにユキネ本体の一振りを掴み取っている。
だが、ユキネの顔に焦りはない。視線はユキネに向けたまま周りに意識を向けると、二人を取り囲むように純白の剣が突き刺さっている。
それが魔法陣になっていることに気づいた。
やべ、と思った瞬間には視界が真っ白に染まって。
視界が開けて、強く冷たい風に気付いた。
「……空間転移か。相変わらず無茶苦茶だな、魔法ってのは」
遥か眼下に街並みが光っていた。
標高何千メートルという程の上空に移動させられていた。雲が並んでいて月が近くて、肌寒く、風が強い。
ユキネはいつの間にか20mほど距離を取っている。
こちらは慌ててナノマシンで足場を作ったのに、当り前の様に飛行しているし、どうやら辺り一帯に結界のような物を張っているようだ。
視界一杯に広がる何千本はありそうな白い大剣の群れに比べれば平和的な光景だったが。
ユキネが遠くで軽く剣を振った。
本来届くはずのない一撃は距離を無視してハルユキを襲う。
それを手の平で受け止める。強い衝撃。手の痺れに思わず舌を巻く。
恐らく自在に動かせるであろう周りの剣も、それぞれ距離を無視して攻撃し、同時にあらゆる可能性を顕現した一撃を自在に放つのだろう。
そして先程気付いたが、どうも感じる重力も増えていて、ちょっと体の反応が遅くも感じる。この辺は結界のせいか。魔力がゴリっと減っているのは白の剣に触れたせいか結界のせいか、両方ではないと思いたい。
「ん? 何してんだ、来いよ」
しげしげと風変わりな光景を眺めていると、ふとユキネが攻撃の手を止めている事に気付いた。
声を掛けると、ぎ、とユキネが歯軋りをしたのが分かった。見ない振りをして、半身に構える。
視界一杯に広がる大剣が一斉に躍動する。
数通りではない攻撃の手数はもはやクリアさせる気のないシューティングゲーの弾幕だ。
ただそれも、手を伸ばして接触する時間をずらせば順番に処理できる。
「はあァ──ッ!」
ほんの刹那の隙にユキネは雷光の様に己が手の剣を奔らせる。
強い一撃だ。不可解なほどの威力。ナノマシンの足場がたやすく崩壊しハルユキの体が吹き飛んだ。
(吹き飛ばされんのも久しぶりだなぁ……)
威力から察するに、恐らく無数に広げられる攻撃を一つに重ねたのだろう。そんな事も出来るのか。
「ははっ」
いかん。楽しくなってきた。
と思った瞬間、ユキネから発せられた白い光が目を焼いた。それは一瞬で収束し、彼女の剣の中に。
「──"白鋼"」
ユキネの呪文と同時に、淡い光の剣として純白のクレイモアが巨大化した。
塔か何かかと見紛う程の巨大な剣が、寸暇もなく薙ぎ払われる。
〈おわッ!? よけろおい兄弟!〉
「ん?」
突如、頭の中で九十九が叫ぶ。避けるのは難しくない。だが、別に自分はそれほどあの攻撃に脅威は感じていない。
印象の差が気になって、避け際にその剣を掴もうとしてみる。
──が、するりと光の巨剣は手のひらをすり抜けて行った。
〈げへぇッ!〉
「む?」
痛みすらない。だが九十九は珍しく悲鳴を上げた。
気付けばまた体内の魔力がごっそり減っている。
なるほど。更に魔力を削る技か。
(んで、何でか知らんが、九十九は俺のボロキレみたいな魔法と融合してる、と)
恐ろしい能力だ。魔法を使う戦闘が主体のこの時代では途轍もない猛威を振るうだろう。ああ、もしかしたら、最強なのかもしれない。
ただ、届かない物はある。
こちらの様子を見て、ユキネは強く奥歯を噛んでいた。
また、彼女に力が収束していく。
◆
ジェミニは窓から顔を引っ込めた。
「流石に見えへんか」
「かなり上空に移動されたようです。声は拾えるようですが」
言いながらサヤは何やら黒い箱のような物を叩いた。そこから聞こえてきた声は今はもう聞こえない。
聞こえるのは空気が弾ける音や剣戟の音。ユキネの必死な掛け声は遠く、ハルユキの楽し気な笑みはすぐ傍から聞こえる。
どうもハルユキが使用している通信機とやらは、こっそりこちらから盗聴する事も出来るらしかった。
「バレなければ良いのです」
「いやいや、怖すぎ」
「小型のスピーカーもありますよ?」
「怖すぎぃ!」
女性の味方を自負するジェミニからしても、男性視点からは恐ろしすぎる所業である。
ただまあ今は功を奏していて、ハルユキとユキネの喧嘩をいち早く察知できたわけだ。渡されたので、一応それを懐に入れる。
「……ジェミニ」
壁に背を預けていたフェンが口を開いた。
「うん、行こか」
「レイは、シアが連れてくるって」
「おっけ」
壁に立てかけていた両手杖を掴んで、外套を羽織るとフェンは杖を構えた。ふわりと魔力が風に乗って部屋の空気をかき乱す。
「では、私は──」
「あ、サヤちゃんは──」
「ここで」
サヤはその場で小さく会釈をした。
「お夜食でも準備させていただきますね」
「……ありがとう」
フェンが小さく言った。
贔屓目にも少し反りが合っていない二人だったので、ジェミニは少し驚いて、サヤは小さく微笑んだ。
「行ってらっしゃいませ。ご武運を」
魔方陣に力が満ちる。小さく呪文を呟くと、魔方陣の上に立っていたジェミニとフェンは瞬間的に空間を移動した。
「──ここは?」
「第一城壁南門」
「便利やねぇ」
街の区画間にある城門だ。平時は開け放されているが、流石に時間が時間だ。駐屯の兵士が様子を見に来ただけで他に人目は無い。
小さく空気が揺れている。敏感な兵は時折空を見上げているようだ。ジェミニもその視線を追って──。
「あ」
「先に行く」
「うん」
既に城門の上に我が物顔で登り、縁に足を投げ出して座って手酌している女がいた。
フェンは魔法で、ジェミニは器用に壁を登ってその傍による。
「来たかの」
「レイ」
「まあ、座れ」
ちょこん、とフェンはレイの斜め後ろに座る。逆の斜め後ろにはシアが、ジェミニはその更にその後ろに、皆で菱形を作るように座った。
「フェン、お前今年で幾つだったか」
「18」
「よし、許す。飲め」
「……レイは、上機嫌だね」
見るからに機嫌よくほろ酔いだったレイは、怪訝な声を出した後、確かに自分が上機嫌な事に気付いて、上機嫌な理由にも気付いて、不機嫌になった。
「まあ、一仕事片付いた後の酒は旨いの」
「片付いたの……?」
フェンは未だ二人が取っ組み合いの大喧嘩をしているはずの空を見つめた。
「何かしらの決着は迎えるだろうさ。奴はそういう"劇物"だ」
フェンは上空にじっと目を凝らす。しかし悲しいかな、フェンの普通の身体能力ではまるで捉える事は出来ない。
しかしだからこそ、誰よりもフェンはユキネの変化に気付いていた。
異様だった。
その神々しい魔力も、解き放たれた力もその一言に尽きる。
明らかに時限を一つ越えた力だ。どうも結界が張ってあるようだが、それも当然だ。
この巨大な都市でさえ、あの力ならば瞬く間に更地にしてしまうほどの力がある。
(だけど)
それでも。それでもまだ遥か遠く届かない。
ハルユキだからと深くは考えてはいなかったが、そもそもがおかしい。その力の源があまりにこの世界の理に外れている。
驚くべきはその強さか、──いや。
そもそも最初は古龍に手傷を負っていた。世界へ出て見聞を広め、あの最初の火龍がおおよそ8000年級の化物であろうと当ては付けているが、それでも今ほど尋常から外れ切っていた訳ではない。
ならば恐ろしいのは、その成長速度か。
(いや)
そうではない。ハルユキは増していく力を不思議に思っている風は無かった。
ならばそう。例えば、衰えていた力が戻っているのだとか。──もしくは。
どぉん。
と、何だか馬鹿みたいな轟音が響いて、びくりと肩を揺らしてフェンは思考の海から顔を上げて息をした。
その音のあまりの巨大さに、町中が竦んで一瞬静まり返っている。小さく地面も揺れていて、見上げれば辺りの雲が霧散している。
「今のは、なに?」
「何じゃ、見ていなかったのか」
「……そもそも私は、あんな遠くのものは見えない」
当り前の様に言うレイに、むっとしてフェンは言う。ジェミニも見ていたようで、その顔からは笑みが消えている。
「殴ったんじゃろ。ただの拳の一振り」
不思議はなかった。それぐらいやるだろう。何しろハルユキだ。
しかし、ユキネの魔力が直上の空から街の外壁の遥か遠くの平原の向こうまで一瞬で吹き飛んでいる事に気付くと、流石にごくりと喉がなった。
人をやめて神を越え、鬼となり英雄となり、友を捨て矜持を掲げ、それでもなお、それを一笑に付すのが彼なのだ。
◆
それをとりあえず名付けるのならば、"近傍多元世界枝折重"、と言ったところか。
髪一本の位置の違いで世界は分岐する。
限りなく近く枝分かれた世界を折り重ねて人智を超えた一撃を放つ。
ただ、彼女は──愛する人を守る権利を欲した魔女は、これに"破空"と名を付けた。
彼女はざっくばらんとした人格で、そも武道や剣技には疎く、技名などという物を付ける事は恥ずかしく、嫌った。
それでも、彼女が短いながらも技名などという物を付けたのは、彼女自身が至ったと思ったからだ。
柄にもなく愚直に力を求め、やがて極め、限界と呼べるものを突破し尽くし、そして、遂に手が届くところに来たからだ。
だから願いを込めて、万物の外の"空"まで破ってみせると、名前を付けた。
「──で?」
──ハルユキは、それを肘のちょっと上の辺りで受け止めた。
「次はないのか?」
驚きも、呆れも、絶望すらも通り越した感情を、一体どうしたらいいのかとユキネは途方に暮れた。
「と言うか、こんな町消し飛ばしそうな一撃を、生身に繰り出すなよ」
「皮肉を……ッ!」
「後で自己嫌悪で落ち込むだろうが、お前」
「────っ!」
事ここに置いて。"彼女"が辿り着いた神聖さなどは、とっくにユキネから消え失せていた。
「ぅ、」
「う?」
「あ、ぁああああああ──ッ!」
どうして、とそんな子供の駄々のような叫びを心内で叫びながら、ユキネは力の限り剣を振った。
その威光は地に落ちようと、おおよそ8万飛んで218ほどの斬撃を顕現させる。
距離を無視した8万の斬撃は、結界が無ければ地平の果ての山々まで破壊の爪痕で埋め尽くすほどのもので──。
「これさ」
しかし、8万の斬撃が結界内をかきまぜた後、何故かハルユキはユキネの背後の空中に立っている。
こんこん、と硬さを確かめるように、神と人の身に顕れる次元の壁をノックした。
「──強めに殴れるからいいよな」
次の瞬間。
ユキネはどこぞの草の上で夜空を見上げていた。
「は……?」
衝撃は無かった。
この"壁"はそもそもどういう物なのか自分でもわからないが、衝撃も殺してくれるようだ。
恐らく。
恐らくだが、自分はこの壁ごと殴り付けられ、地平まで続くと言われる広大なメロディアの街を跨ぎ、その周辺にある畑と草原を超えた辺りに叩きつけられ、そのままここまで転がされた。
もうもうと火山の噴煙の様に土煙を上げる着弾点と、吹き飛ばされたらしい丘と、抉られて出来たのであろう谷のような地面の抉れを見る限り、そうなのだろう。
目前の次元の壁が拳の形にひび割れている。
ハルユキがその少し向こうに佇んでいた。
恐ろしい。これまで蹂躙されてきた敵達に心から同情してしまう。だけど、奥歯を噛む。剣を握り締め、膝に力を入れて立ち上がる。
「まだ、だ」
「そっか」
今度は街の方向に吹き飛ばされる。吹き飛ばされながら今度は意識を保ち、剣を突き立て、しかし止まらない勢いに指が離れそうになる。だけど絶対に離さない。
「──ま、だ」
今度は街の外縁を沿うように。
一々、"この障壁に綺麗にヒビが入る程度"に調整した、人智を越え神威を砕く一撃を放ってくる。
そのお蔭で体には傷一つなく、だがその分悔しさが止めどなくあふれて、途方もない徒労感と絶望感と諦観だけで膝が折れそうだ。
「全く……」
それがもう何度か繰り返された後、それでも立ち上がるユキネに、ハルユキが呆れてため息を吐いた。
「煽った俺が言うのも何だが、頑張り過ぎだなお前は」
「……っ」
覚えていたのか。と、ユキネの頭に浮かんだのは、まずその言葉だった。
──"頑張れ。お前が頑張ってるのは知ってる。けどそれでも言う。もっと頑張れ。まだまだ頑張れ"
この言葉がユキネを縛り付けていたかと言えばそうではない。
そうではないが、ふと一息ついて体の重さを自覚するような時に、思い出してしまうような言葉だった。
思い出して、少し頬が綻んで、体に少し力を戻してくれる、そんな意味を持つ言葉だったのだ。
ハルユキはゆっくりと歩を進めて間を詰めてくる。
「お前にあんなこと言ったのは、間違いだったな」
「──そんな事!」
衝動的に剣をハルユキに向けた。
ハルユキにだけは否定して欲しくなかった。泣き叫ぶような声が自分でも情けない。
かしゃんと、音がした。気が付けば、腕から力が抜け、剣先が地面に落ちていた。
ぐらぐらと視界が揺れている。
「ハルユキ……」
「何だ?」
ハルユキを強く見つめた。睨み付けているようにも、懇願しているようにも取れる表情だった。
(もう一度でいいから、絶対、間違いだったなんて、言わせないから、だから──)
ユキネは言い掛けた言葉を飲み込んだ。
皮肉たっぷりに笑みを携える。
やり方は知っている。この二年で随分慣れた。
「は。間違ったのはこちらだ。お前みたいなチンピラ崩れに何を任せられる──!」
調子外れな大声は、広い草原に良く響いた。
指の骨が砕けんばかりに剣の柄を握り込む。驚き、こちらを見つめるハルユキをハルユキを睨み付ける。
(嫌だ)
何か溢してしまいそうな心を、ぎゅうぎゅうの洋服箱みたいに無理矢理蓋をする。くしゃり、と歪みそうに表情を唇を噛み切って耐える。
「思い上がるな。お前、自分だけは特別だと思っているのか。お前になら、私が、簡単に寄り掛かるだろうと──?」
ハルユキは何も言わない。
「たかが! たかが、昔友人だったからと、たかが、昔私が信頼していらからと! 誰より古い付き合いだからと──!」
(ああ、見た事が無い、表情だ)
ひどい女だ。力では全く敵わないからと、人の好意を逆手にとって、ひどい言葉を並べ立てる。
「よしんば、よしんば。お前に全て任せたとして、全部上手くいったとして、それが何だというんだ!」
だけど、止めない。
初めてではない。フェンに今まで何を言ったか。ジェミニにどんな表情を向けたか。シアをどう扱ったか。レイに何をしたか。思い出せ。
「それで、世界が平和になって、みんなが笑ってて、それでっ……?」
今まで何度もやって来たことだ。同じ事。
止まるな。
表情を壊すな。
そんな言葉で脳内を埋め尽くす。
「……それ、で……!」
あれ、と思った。
景色が変わった。ああ、どうやら座り込んでしまったらしい。
「そうしたら──」
思った時にはもう遅く。
言いたい事と、話したい事がくるりと綺麗に裏返って。
「また、いなくなっちゃうの……?」
くしゃくしゃの顔で、そんな事を口にしていた。
(あ)
ぷつん、と張りつめていた物が切れた。
剣が手を離れて、からんからんと虚しく地面に転がっていく。