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ハイイロ ノ カナタ  作者: mild
第三部
261/281

閑話 一

二日に一度更新していきます。




「漸く話が出来るな」


 俺が寝静まってから、そいつは俺に話しかけてきた。

 まあ自分には目がないものだから相手が誰かも分からないし、口もないから返答できない。


 おや、しかし、俺は耳もなかったはずだが。

 

「ああ、聞こえているし、聞こえさせている。私は志貴野冬夜だ。君には少し頼みがあってな。こうした場を設けさせてもらった」


 驚いた。

 話とか、会話とか、声とか。俺はそんな類のものではないぞ。砂糖に呼吸を強いるようなちぐはぐさに匹敵する。


「君が春雪の中に居たのは、気付いていたからな」


 そりゃあ、凄い。本当に、凄い。


「しかし何だろうな。私が知っている物とはまるで似付かないし、志貴野に宿る魔性とも縁がないものだ」


 そりゃあそうだ。

 海賊が冒険している裏では死神が活躍しているかもしれないし、グルメ界と暗黒大陸は地続きかもしれない。

 神秘の形は一つじゃない。そういう事もある。……グルメ界に暗黒大陸? なんだっけ、それ。


「まだ春雪との記憶が混同しているようだな。君もまた、これから自我無き眠りに就く事になるだろう」


 そうなのか。


「なに。まだ時間はある。もう少し話そう。君は実に興味深い」


 そうか。冬夜、よろしくな。


「名が必要だな。そうする事で個として確立するかもしれない」


 任せる。


「では君の存在の定義にあやかって、九十九。そう呼ぶ事にしよう」


 つくも──……。


「あの時だろう。生まれて間もない春雪が無理に成長した時に、君は中に紛れ込んだ」


 じゃあ、俺の方が先に生まれていたのか。


「ああ。しかし弟がもう一人いたとはな。随分おかしな気分だ」


 俺はお前の弟ではないだろう。


「そうか? ならばそれはいい。それはいいから頼みたい事がある。最初に話した件だが、ふむ、それにしても……」


 どうした。


「いや、ふと疑問があってな。君と春雪は──……」


──馬鹿野郎、そんなもの決まってる。

 俺だ。俺が──。







   ◆






 ざり、ざり、と穴を掘った。

 土が硬い。

 こんな中で眠る事が、本当に供養に繋がるのか考えると涙が出そうになった。


 手が痛い。

 皮が剥けてじんわりと血が滲んでいる。


 誰か手伝ってくれないだろうかと、振り返る。

 村がある。生まれ育った村だ。まだ両親がいるし、結婚してはいたが元々恋人だった女もいるし、嫌いな奴もいる。


 欠けたのは、兄と言う存在だけ。

 それは自分にとって大きい存在だったが、皆にしてみればそうでもなかったのか。



「────……」



 世界にはオレの兄が物言わぬ亡骸になった事を知らない人間すら居るのかと思うと、吐き気がした。

 龍が襲ってきたらしい。

 兄は強い戦士だったので戦って死んだらしい。敵も殺したらしい。上等だ。


 ただ、だからきっともう今度龍が襲ってきたら抵抗も出来ないだろう。


 元々大嫌いな街だった。

 憧れだった兄が死んで、嫌いな奴に恋人だった女にそれを寝取られた俺、いつか殺してやると憤慨した怒りも風化している。


 ただ、彼女は。かつて恋人だった彼女には。

 一目でもいいから会って、だから俺は帰って来て、そして──。


「……はは」


 ああ、くそ。見事にゴミの掃き溜めだ。壊れてしまえ。


「はぁ……」


 両親も村の人達も外は危ないと家の中に閉じこもっている。

 あんな薄い木の壁が、岩のような龍の爪や牙から守ってくれるわけもないのに。


 空を見る。

 青くて、広くて、でもやはり兄の死もお前のこれからも知った事ではないとばかりに流れていて、吐き気がした。


 土が硬い。なのに脆い。

 また、最初に掘った辺りが渇いて崩れて穴を埋めた。

 嫌になって、木のスコップを放り捨てた。


 今年で35になる。

 戦士としての才が無く俺は、街に行って職人に弟子入りした。とは言ってもそこにも俺の才能はなかったが。

 おまけに既に首になった。

 龍のせいで店をたたむ事になったらしい。


 そこへ兄が死んだと連絡があり、十数年ぶりにここに戻って来て、玄関口でスコップを渡された。

 冷たい態度は、俺のせいで村八分のような目にあったかららしいが。


「はぁ……」


 一体何をしているんだか。


 ずる、と身を引きずるように穴を這い出た。深さはもうこれでいいだろう。

 今日の寄合で村を出るように言おう。俺の言葉がどれだけ通じるか知らんが。


 はぁ、とこれ見よがしに息を吐いて、スコップ引き摺りながら穴を離れた。


 溜息の様な欠伸のような声が混じり出た。




──ああ、きっと、何一つ変わらない空模様が錯覚させていたのだと思う。



 何かを無理やり砕いている音だった。

 木を斧で削り、最後に木を倒して伐採する時にこんな音がする。


 ただ今日の場合、斧は牙で、木は父の大腿骨だった。


「え」


 大きい龍だった。

 いともたやすく家の壁を剥がして、長い首をその中に突っ込んでいる。

 ボキボキ、ニチャニチャと音がした。時々ごくりと、その喉が動いて何かを飲み下す。


 辺りには、近所の人間の骸がそれぞれ一齧りされて捨ててある。


 その一つに村長の息子がいた。

 胸から下が無い。

 オレから恋人を奪って無理やり結婚した男だ。

 目がまん丸だ。

 いつか殺してやると思っていた。

 死んだと気付いていないのだろうか。


 なんだ、くそ。お前がそんな簡単に死ぬんなら、俺が殺してやりたかったのに。


(混乱。混乱している)


 頭が、思考が、ぐるんぐるんと眩暈のように回っている。自分が混乱しているという事しか判らない。


 無意識に後ずさって、踵が砂利を蹴った。

 その音で我に返る。男も、そして目の前の餌に夢中になって龍も首をもたげた。


 紅色の双眼がこちらを見て瞳孔を細めた。


「古龍……?」


 馬鹿な。冒険者のホラ話にしかきかない存在が何故こんな所にいるのだ。


「あ」


 戦士の様な闘争心も、商人の様な知恵廻りも生まれなかった。

 それどころか人間らしい生き汚さをだすわけでもなく。俺と言う命は早々に生を諦めたらしい。

 震える事もなく、ただ身体が力を入れようとせず、動かない。


 しょうもない。泣きたくなる。なのに口元は疲れた様に笑った。


「────……っ!」


名前を呼ばれた気がして、振り向いた。

 

「……あ?」


 そして見つけた。


 もう一頭の龍。まるで同じ形をしたもう一頭。それが、何かを噛み砕いた所だった。

 ぐにゃぐにゃに折れ曲がって引き裂かれて、それは壊れたカカシのように地面に落ちた。


「あ」


 好きだった女だった。


「あ、あ、あ、あ……」


 ごり、と斜に構えて蓋をしていた感情の蓋が、力任せに開かれていくのを感じる。

 体が震える。喉が痙攣する。熱くて寒くて、寒くて、熱い。


「あ、あ、あ、ああ、ああああああああああああッ!」


 確か、こちらを見ていなかったか。

 確か、手を伸ばしていなかったか。

 ああ、足が転がっている。間違いない。あれが履いている靴は、俺が随分前に贈ったものだ。なんで、まだ。


「……貴、様等……ッ!」


 これは走馬灯だろうか。

 次々と遠い昔の事が頭を過ぎ去っていく。ああそうだ、ありがとうと彼女は言ってくれたっけ。


 駆けていた。

 二人をそれぞれ咀嚼している龍共はそれをミンチにするのに夢中なのか、追って来ない。


 今更になって、自分はまだ彼女を愛していた事に気が付いた。


「──殺してやる、殺してやるッ! 殺してやるぞ蛇共がァッ!!」


 逃げている訳ではなかった。

 殺す為に走っていた。

 手段がある。歴史だけは深いこの集落。守人である村長の一家しかしらない武器がある。

 自分は知っている。馬鹿な七光りが見せびらかしたあれ。


 長の家。

 やはり壁は壊されて中には死体が転がっている。


「あった……」


 神棚より少し大きな社が壁に備え付けられている。

 供え物やご神体を叩き落とすようにどけると、その先に小さな扉があった。


 拳大のそれに腕を突っ込むと、それが指先に当たった。

 引っ掴んで、引き抜いた。


 白鞘の剣──いや刀。業物、銘は"鬼刀・九十九別つ"。

 鼻息荒いまま踵を返す。


「──っ」


 ぬ、と壊れた屋根の隙間から鱗の首が見えた。

 こちらには気づいていない。匂いが届かないのは、体中が既に血塗れであるからか。


 驚く事に、奴等は任意で音を消せるらしい。そう言う能力だ、なぜああも近づくまで気付けなかったか不思議だったが納得した。


 同時に刃を抜き放った。とある蛇の神を九十九に切り裂いたと言う刃は鈍く光って艶めかしい。

 殺せる。何故かそう確信した。


 叫びながら突進し、刃を突き立てる。


──その為に、大きく息を吸った時だった。

 ごとりと背後で何かが動いた。


「……ッ!」


 龍が潜んでいたかと弾かれるように振り返る。

 しかしそこにいたのは人間だった。しかも──。


「こど、も……?」


 掠れた声が出た。

 そこにいたのが子供だったからではない。

 震えながら短刀を構えていたからでも、ボロボロと泣いていたからでもない。


 その顔が、あまりに彼女に似ていたからだ。


「あいつの──」


 ずん、と揺れた地面が男の言葉を遮った。

 同時に、何か肉を潰したような音。あいつ等が、死体を踏み砕いた音。


 脳内に奔流するのは記憶。

 噛み砕かれて四散した彼女。靴、言葉。それに泣き喚く顔、照れた顔。初めて会った日までが。


 怒涛のように、感情に注ぎ込まれた。

 総毛立つ。怒りが血に乗って巡り、髪の先まで行き届いたようだった。


 高ぶる感情が憎しみがあまりに新鮮で、心地よくすらあったのかもしれない。

 奴等の血を浴びる想像をして、口元が曲がった。


「っひ……」


 しかしそれにまた、目の前の子供が水を差した。

 怯えていた。龍ではなく目の前の自分にだ。獣のような顔をしている事を否定はしない。


 あがっていた口元に手を当てる。


「────……」


 ぐり、と爪を立てるようにして、表情を元の物に固めた。


「あんた……」


 不用意だった。

 彼女をどう思っていようが、彼女にとっての俺は外敵だった。

 声に驚いた彼女は後ずさり、そしてその肘が飾ってあった花瓶に当たった。


 ふ、と花瓶が宙に浮く。


「───ッ……」


 走って、飛びついた。

 花瓶は床に落ち、けたたましい音を立てて砕け散った。


 次の瞬間、巨大な何かが横合いから振るわれて、四方の壁が一斉に吹き飛ばされた。


 全身に激痛が走る。

 同時に能天気な陽が差した。


 家は倒壊している。

 瓦礫に埋もれ、視界は暗い。


 朦朧とした意識の中で、腕の中を確かめた。

 咄嗟に床に引き下ろした女はピクリとも動かない。ただ呼吸は穏やかだ、気を失っているのだろう。


──がしゃん、と瓦礫の屋根になにかが落ちた。


 何だ──?

 瓦礫の隙間をそれは覆った。そこからなにかが滴る。


 赤く鉄の臭いがする液体。

 

 それと、目があった。人だった。人だったものだった。

 とりあえず父でも、彼女でもないが──。


(遊んでやがる……)


 だけど彼女達の亡骸だけは特別で弄ばれていない、と。そんな都合の良いな想像はできなかった。


 適当な大きさにかじられた彼女が、ボールか何かのように放られている。

 そんな光景を思った。


「────……ッ」


 目の前が赤く染まった。

 赤く、赤く、一色に染まっていく。


 だから絶対に目の前の少女から視線を切らさないようにして。

 歯を食いしばって、全身を震わせて、そこに隠れている事を選んだ。



──どれぐらい時間が経っただろうか。

 ずっと意識は保っていたつもりではあったが、いつの間にか外は暗い。


「ぐ……」


 疲れ切った体に鞭を入れて、"土"の魔法を発動する。

 出来上がった土の壁が、頭上の瓦礫を押し退けた。


 どうしても音が鳴って、そのまま数秒身を潜めてから外に出た。


 月が高い。小山のような影があった。ぬぅ、とそれが起き上がった。



「畜生め……」



 変わらずそこに古の龍がいた。

 まさか待っていたのか、──いや、腹一杯になって眠る事にしたのだろう。

 俺の故郷の亡骸をねぐらにして。


 鋭い尾が振るわれた。それは男のすぐ傍の地面に叩きつけられ、破片を撒き散らす。


「ぐっ……!」


 致命傷ではない。古龍の顔が見える。明らかに嘲笑していた。獣にはありえない知性と悪意がそこにあった。

 龍はおもむろに立ち上がる。バキバキとその下に敷かれていた人骸が潰されて音を立てる。


 再び、尾が振られた。

 やはり男には見えず、ただ顔を庇うように腕を上げてそこで奇跡が一つ。


「な」


 手に持っていた刀の刃が、ちょうど垂直に尾と重なった。するりと通り抜けるように刃が通る。


「……え、は?」


 切り離された尾が男を打った。吹き飛ばされるが、それだけだ。直ぐに体を起こして、竜の悲鳴と尾が地面に転がる音を聞いた。


(嘘だろ……)


 一体どんな刀だ。

 抵抗すらなかった。刀身に血すら付いておらず、斬られた尻尾は思い出したように今更血を流し出す。

 それも切ったのは鋼鉄をも弾く古龍の鱗だぞ。


 業物なんて言葉じゃ甚だ生温い類のものではないのか。


(しかし……)


 これなら、殺せる。


 龍の様子はどうだ。

 尾を半ばから斬り落とされて、地面でのたうっている。

 今しかない。


「お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」


 死線に飛び込むのに雄叫びを要した。

 血と臓物の川に足を踏み入れるのに躊躇は許されない気がした。


 自分は戦いの素人だ。

 目まぐるしい戦いの過程はない。ただ一閃の元に、龍の首を切り落とした。


 またも抵抗すらない。

 ぼとりと龍の首が地面に転がる。


 でろりと舌を出して、目は遠くを見たまま死んでいた。

 ぶるりと、体と喉が震えた。


「……あ、あああああああああああああああああああああ!!!!」


 飛び出した雄叫びは、様々な感情が入り混じった吐瀉物だ。

 喉が痛くなって、涙が滲んで、膝をついて、消え入るようにそれ等は腹の中からすべて外に出た。


 からからになった口の中で、何とか一度唾をのむ。


 とたんに、凍えてしまうような静寂が戻った。

 生きている者がない。

 死人の沈黙が足元に沈殿していた。


 死体の丘の上に、へたりこむ。

 見覚えのある靴があった。

 喉が、目が、手が震えた。


 手を伸ばす事はしなかった。強張った表情で顔を背けた。


 這いずるように死人の丘から離れた。


 きっと父の亡骸があっただろう。

 母の体もあったはずだ。自分が贈った彼女の靴も転がっている事だろう。


 ただ見付けてしまえばそこに蹲ってかき抱いて、そして動けなくなるようで、怖くて、一心に進んだ。


 ガアガアと、鳥が鳴いている。

 触れずとも体温を感じる。

 全身から痛みがぶり返し、ドッと疲れが体を重くする。


 いつの間にかぼろぼろと泣いていた。

 自分が一体どんな感情で泣いているのか分からない。


 悲しいのも、悔しいのも、許せないのも。安心も、喜びもあった。


 ただその足取りは一切迷わなかった。

 行き着いたのは、先程出てきた穴。

 一つずつ瓦礫を退かして、彼女を引き上げる。気を失っているせいで難儀だったが何とかなるものだ。


 ぐったりとしていて、ピクリとも動かない。

 ただ、小さく寝息を立てていた。


「……生きてる」


 遠慮がちに肌に触れた。

 温かい。小さく脈が触れている。


「生きてる……っ」


 どうしてか、こちらが感謝したいほどにその寝息が嬉しかった。

 すべて吐き出したはずの衝動がつぎつぎに沸いては、涙や嗚咽となってこぼれ出る。


 感情が入り混じって嬉しいのかも分からない。

 ただ、最悪ではない。


 それだけを噛み締めて、ただ男は泣いた。



「ぇ……」


 ぽつりと、彼女の口から音が漏れた。はっと涙と鼻水だらけの顔を上げる。


「……っ起きたか」

「あ、あ……」


 ぱくぱくと口を動かすばかりで言葉にならない。

 只ならぬ様子だった。彼女の視線は俺の背後を向いている。寒気がまたも背を撫でて、男もそれに気づいた。


 何頭、いや何十頭の何かが空を飛んでいた。

 直接は見ずとも、地面にその巨大で膨大な数の影が浮いている。

 振り向くまでもなく、空一面が彼等で覆われていた。


「────……」


 ぎ、と歯を噛み締める音がして。

 獣の様な喉を鳴らす音がして。

 純然に殺意を剥き出しにした吐息が聞こえて。


──それが、全て自分のものだと気付いた時、立ち上がって刀を抜いていた。


「隠れてろ──!」


 少女を穴の中に押し込めて姿が消えた瞬間、獣の様な雄叫びが自分の喉から飛び出した。

 竜が何だ、龍がどうした。


「舐めるなよ蛇共がぁあッ!」


 偉そうに頭上に坐すその羽を引き裂いてやる。あの赤い目を刳り貫いてやる。

 怒りを知れ。無念を知れ。

 殺してみろ。

 殺されるまでに、貴様等が何を壊したのかを刻み付けて殺しやる。



「──なぁ」



 ──突然。自分の物でも、彼女の物でもない。第三者の声が背後から鼓膜を揺らした。

 揺らして、そいつは龍達の影を踏み抜くようにそこに立った。


「──あ……?」


 なんだ。目の間に、一体何が立っている。

 巨大。とにかく巨大な何かだ。

 龍だろうか。今の声は人のものにも聞こえたし、見える姿は普通の人間のものだが。


 背後にいる無数の古龍の群れを意にも介さず、暢気にこちらを見るそいつは、しかし確かに何か狂っている。


「あんた、ここの人間?」

「お前は……?」


 意を決して、口を開いた。


 人を真似る龍が大顎を広げているのかと。はたまた鬼がほくそ笑んでいるに違いないとそう思った。

 ただ目に入ったのは人間の姿。

 印象的なのは夜より暗い黒の髪。


「あれどうにかしたら、飯と宿くらいは貰っていいんだよな」

「は?」

「じゃあ、ほら」


 どしゃ、と男は傍らに何かを置いた。

 首だった。引き千切られた龍の首が、ぞんざいに積み上げられた。


 どこから持ってきたのかと、一瞬はそう思った。

 ところが、すぐに背後でどしゃどしゃと何かが墜落するような音が聞こえた。


 見れば、地面いっぱいに広がっていた龍の影たちが次々に落ちていく。

 それで悟った。


 目の前に、怪物がいる。



「腹減るって、結構耐え難いなぁ」



 でも信じられない事に、自分はそれを見て恐怖を覚えなかった。

 怪物と言うより、そう。


「俺は九十九。お前、名前は?」


 全身に返り血を浴びて微笑む様は、初めて泥遊びをする子供かと思ったのだ。



九十九の話書くの忘れてて今必死に書いているのは内緒。

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