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ハイイロ ノ カナタ  作者: mild
第一部
26/281

巡り合わせ


「見つかんねえ・・・・・・。」


この村は思っていたよりもずっと広く、もう日は沈みかけているというのに、おっちゃんは見つからない。


何しろ、手がかりは名前だけだ。


もう何時間も歩きっぱなしだ。それも飲まず食わずで。俺はまだ我慢できるんだが、フェンやユキネたちにも疲れが見え始めている。


・・・・・・どうするか。


これから夜になれば、更に人通りは減り、おっちゃんを見つけるのは更に困難になるだろう。




「・・・・・・どうするかなあ。」


いったん、ベンチで休むことして、四人で並んで座りながら頭を抱える。


しばらくボーっとしていると、フェンがくいくいと俺の服の袖を引っ張っていることに気づいた。


「なんだ? どうした、フェン。」


「・・・・・・・・・・・・あれ。」


フェンの指が指した先には、


「ちょっと、やめ、やめてください!!」


「いいじゃねぇかよぉ。へるもんじゃねぇだろ?」


と、お約束な光景。


助ける→ありがとうございます→いえいえ、当然のことです→お礼をさせてください!→実は泊まるところがなくて、→ならうちに泊まっていってください。


「その手を離せ!!」


ハルユキのデコピンが火を噴いた。








「あ、ありがとうございます。」


少女は目の前のおそらく自分を助けてくれたであろうその人に丁寧にお礼を言った。


おそらくと言うのは少女はそのとき目を瞑ってしまっていて目の前の少年がどうやって助けてくれたのかも分かっていないからだ。



「ええ。実は泊まるところがなくて・・・。」


「・・・・・・はい?」


「一つ早いわ!!」


そこで、いきなり少女が現れて少年の頭をはたいた。金髪で暗がりの中でも端正に整った顔がよく映えている。


(きれいな、人・・・・・・)


「・・・・・・・・・・・・馬鹿。」


そこにもう一人今度は透き通るような青い髪の何だかまだ体に幼さが残るものの、落ち着いた雰囲気でこれまた美少女が近づいてきて少年にツッコんでいた。





「ああっ!! 今度は美少女やった!! またおっさんかと思って躊躇せんやったら・・・・・・! クッソォ!!!」


あっちで、膝を突いて地面を殴りつけている第一印象変態がいたが、少女は無意識的に、危機感的に記憶から消去した。


(へ、変な人達・・・・・・)


未だにギャーギャー騒いでいる目の前の人たちを見ているとどうも先程より、状況は悪くなっているように思える。



(お父さん、早く帰ってきて・・・・・・)


その願いが通じたのか、角から少女の父親が顔を出す。


「お、お父さん・・・・・・!!」


「な、なんだどうした!?」




あれ、でもよく考えたらむしろお礼をするべきなんじゃないのか? と少女は思い直した。しかし、




「もしフラグ立てとったら□□□や、○○○もヤリたい放題やったのにぃ!!!」




「へへへ、変態が!!!」


変態の言葉がそんな思考を消し飛ばし、父に助けを求める。


「な、なんだと!? こンの野郎! 人の娘に何を!!」


父親が娘の声にただならぬものを感じたのか、大声で怒鳴りながら、変態に飛び掛かる。




「ん? あれおっちゃんじゃないか?」


「ああ、そうだな。」


(へ? 知り合い?)


「はっ! ってまたお前か! おっちゃ・・・・んああああああ!!!」


ダイノジに二度目の抱擁タックルを食らいながら、またしてもジェミニの悲鳴が鳴り響いた。







「いやいや、つくづく縁があるなぁ、お前らには!」


今俺たちはおっちゃんの家で飯をご馳走になっている。しかも、何日でも泊まっていってくれということだ。


「本当にすいません。まさか父の命の恩人の方々だとは。」


「ええよ、ええよ。それにしても、イシルちゃんはホンマにおっちゃんの娘かいな? とてもそうは思えへんのやけど。」


「? 何でですか?」


「だってこんなにかわええやないかーーーーー!!!!」


酒を飲みすぎたのか、いつもよりはやめの暴走を起こし、イシルに抱きつこうとしたジェミニに、




「・・・・・・・・・・・・氷塊。」


お約束。という神の鉄槌が下った。そして、意識と身体がさよならしたジェミニをおいて話は進む。



「つまり、せめて明日にならなきゃ仕事がねぇってことか。」


「そうなんだよ。ま、仕事が有り次第ここから出て行くからさ。それまではよろしく頼む。」


「なぁに言ってんだ。お前らにしてもらったことと比べりゃ、一年泊まってってもらったとしてもお釣りがくらぁな。


 ・・・・・・そうだな。まだ、いまいち土地勘もないだろうから、明日イシルに付き添ってもらえ。いいだろイシル?」


「うん、もちろん。私も助けてもらったんだからそれぐらいしないとね。」


そう言って、俺たちに笑いかけてきた。どうやら警戒は完全に解いてくれたようだ。最初のあたりはびくびくしてたからな。


ジェミニ(へんたい)は別だろうが・・・・・・。


「そういうことだ。すまんが、面倒を見させてくれ。こいつはこれでもギルドのトップチームのメンバーなんだぞ?


 しっかし、魔法使いは魔装具がないと途端に無力だからな。いつでも持ち歩けっていってるんだが、なにせドジでな。さっきのようなことになっちまうんだ。」


へぇ、この子も魔法使いなのか。俺には魔力だのなんだのはよく分からないので小声でフェンに話を聞くことにする。


「なあ、この子の実力はどれくらいかってのは分かるのか?」


「・・・・・・・・・ん。」


そう言って右手でイシルの手を指差す。そこには白い手と、その指には紫色の指輪が薄く光を放っている。


そうか。素人でも指輪で魔力の量は分かるんだったな。紫ってことは白の一つ下か。・・・・・よく分からん。





「魔力が、使われていれば、大体分かる・・・・・・私は。」


「俺には分からん・・・・・・。お前とことん、規格外なんじゃないか?」


ぐりぐりと頭をなでながらほめてやる。無表情だが、跳ね除けないのでおそらく嫌じゃない・・・と、思おう。


・・・・・・足、パタパタさせてるし。




そこで、フェンの伸ばされた指にはっと気づいたように、イシルが驚きの声を上げた。


「え?え、え、あーーー! プラチナリング! すごい! フェンさんだったんですね!!」


いすを弾き飛ばしてフェンの手を握り締め、目を輝かせ始めた。


「・・・・・・・・・・・・なにが?」


「今日、ギルド内ですっごく話題になってたんですよ!? 二十年ぶりにプラチナビギナーが出たって! 今日はみんなで探し回ってたんですよ?


 それがこんな、かわいらしい女の子だったなんて・・・。 うわぁホントにプラチナリングだぁ・・・・・・!!」


そう言って、まじまじとフェンの手を覗き込んでいる。しかし、




「そんなにすごいのか、その白い指輪は・・・・・・。」


いきなりキャラが変わったかのように興奮しているイシルに弱冠、引きながら尋ねる。


「すごいに決まってるじゃないですか! 三十年に一人いるかいないかぐらいですよ!? そうだ! 明日ギルドに来るんですよね?


 そのときに紹介したい人がいるんですよ。構いませんか?!」


「・・・・・・・・いい、けど。」


その勢いに押されたのか、フェンは思わず頷いていた。


「それにしてもあれか? だいぶ仲がいいようだが嬢ちゃん達二人ともハルユキの恋人なのか?」


「ぶッ!!! ゲホッ、ゲホ・・・、ち! 違う! 私とハルはただの友達だ! そそそんな恋人とかそういうのじゃ・・・・・。」

 

最後のほうはユキネにしては語調が弱く顔を赤くしてうつむいてしまった。


「あんま、からからかわないでやってくれよ。そんなんじゃないからさ。」


「へぇ、じゃフェンちゃんが本命ってことか。 ・・・・・・犯罪じゃないか?」


ダイノジのその言葉にフェンが反応する。


「私もそんなのじゃない。ハルユキは私の命の恩人だから。私はただのハルユキの・・・・・・奴隷。」


・・・・・・は?


「な! なら私もそうだ! 私もハルのドレーだ! いいだろう!? ハル!」


みんなの冷たい視線が突き刺さる。


「ちょっと待て、フェン! ほら冗談だよな。・・・・・・いい子だから冗談だって言ってくれ。」


小声で隣に座るフェンにだけ聞こえるように頼み込む。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・冗談。」


少しだけ視線がやわらいだ。一安心だ。



「いい子にしたから・・・・・・・ご褒美。ご主人様。」


・・・・・・・・・・・はァ!!!?


視線が再び復活。


「私も! 私もいい子にするからごほーび!」


そう言いながら、机の向こうからユキネが、隣からフェンが顔を近づけてきた。


っていうかさっきから顔が赤いと思ってたら・・・・・・・・・。


「おっちゃん、未成年に酒飲ますなよ!!!!」


「はっはっは! ばれちまったかあ!」


「・・・・・・・・・・・・・キス、しよ。」


ちょっと待てやああ!!! 俺の意思を尊重しようとする気がまったく感じられないぞ!? その台詞!!


「なんや? モテ男の匂いがするで? ああそれは消し去らんとなぁ? そうやろ? ハルユキイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!」

 

今度はジェミニが奇声を上げて襲い掛かってきた。


「・・・・・・・・・・・・・うるしゃい。」


お約束。の絶対的な力により、ジェミニは再び沈んだ。






夜は楽しく更けていく。






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