ギルド
「いらっしゃいませ。依頼ですか。それとも受託ですか?」
先ほどジェミニが言っていたカウンターまで行き、見事な営業スマイルを回りに振りまくお姉さんに話しかけると、そう言ってきた。
「………いや、俺と、あとこの二人を登録したいんだけど。」
「登録ですか? ではお名前の提示と、一人ずつこの水晶玉を思い切り握り締めてください。」
そう言われて、一つ水晶玉をカウンターの下から出してきて一番近くにいたフェンに渡した。
渡されたフェンは俺を見上げてきた。
「……先に頼む。俺は最後で。」
こくんと頷くと、小さな両手で包み込むように握り締めた。
ぼうっと、水晶が淡い光を発した。最初はオレンジ、次に黄色、青、緑、紫、赤、と続いて光の色が変化していき最後に白い光に変わると変化が落ち着いた。
「……白! すごい! 白まで行く人はめったにいませんよ? すごいですねえ。しかも、その歳で。これは引っ張りだこになりますよー。」
「これは何を測ってるんだ? 魔力とかか?」
「はい。それもあるんですけど、ほら、って、おまけにイビルスタンプですか!」
フェンから受け取った水晶球には、「混」の文字。
なるほど。魔力とどんな文字を持っているかを見るってことか。
「この水晶が代わって言った順に魔力が高いってことです。オレンジが一番弱くて、白が一番上ですね。白以上の人はまだ確認されていません。
大体平均で青ぐらいですかね。」
・・・・・・こいつはやっぱりすごいやつだったんだな。
一人感心していると、ユキネが一歩前に出た。
「よし。なら次は私だ。その水晶玉を貸してくれ。」
内心は嫌なのだろうが、自分からそう言ってユキネが水晶玉を受け取る。
力をこめて、握り締めるが、色の変化は薄いオレンジで止まる。
「あーっ、とオレンジですか。……これはこれでめずらしいですね。あ、す、すみません………!」
「いや、いいんだ。かまわない。」
そう言って、水晶玉を受付に返した。
「あれ? 故障ですかね。文字が・・・・・・。」
「あ、大丈夫だ。故障じゃないぞ。私は最初から文字がないんだ」
「も、文字がない? そ、そんな人はじめてみました・・・・・・。あ! す、すみません、また・・・・・・!」
いいんだいいんだと、ユキネが手を振りながら一歩下がる。
次は俺の番。受付さんは、良くも悪くも、珍しい結果が続いたことで、俺の結果に目を皿にして注目している。
(プレッシャー・・・・・)
前から強い視線を感じながら水晶玉を受け取る。
更に強くなった視線を無視しながら、覚悟を決めて握り締めた。目、瞑ってだけど。
数秒たった後、恐る恐る目を開ける。
水晶球には………変化なし。文字はおろか、色も透明のまま、まったく反応していない。
「これまた、珍しい・・・・・・。」
もう一度握り締める。が、やっぱり変化なし。・・・・・・よおし、いい度胸だ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・フン!!」
バァンと音がして、手のひらの水晶球が粉々になった。
「どうやら、俺の絶大な魔力に耐え切れずに壊れ・・・・・・・。」
「はい。予備です。これ壊したら弁償になります。」
「すんませんでした。」
結果は、言わずもがな。
「はい。これで登録完了ですね。フェン・ラーヴェル様はクラスCから開始できますが・・・・・・。」
「・・・・・・・・・いい。」
「かしこまりました。では、こちらを、契約の指輪ですね。それを見せれば、どこの町のギルドでも、受注ができますよ。
すみませんがユキネ様、ハルユキ様は魔力が規定値以下なのでGランクからになります。フェン様はFからですね。」
そう言ってフェンに白の、俺とユキネにはオレンジ色のそれぞれGとFの文字が入った指輪を渡された。
「それでは、説明に入りますね。えっとまずギルドの中の登録者、依頼、チームにはランクが存在します。
ランクは全て低い順にGからSSSまでありまして、登録者のランクに合わせて仕事を行います。登録者は自分のランク以下の依頼しか受けられません。」
「つまりCランクの奴はB以上の依頼は受けられないということか・・・・・・。」
「そうですね。しかし、例外が存在します。それがチームです。チームにもランクがあって個人のときと同じようにチームランク以下の依頼は受けられません。
しかし、低いランクの人が高いランクのチームにいるならそのチームランクの依頼を受けることができます。」
「どういうことだ?」
「例えば、Fランクの人がいて、その人がBランクチームの人間として依頼を受ければB以下のランクまでの依頼なら受けることができるってことです。」
なるほど。よく分からんことは分かった。
「チームをお作りする事もできますが、どうしますか?」
「いきなり言われても、よく分からねないからなぁ」
「蛇足ですが、チームから発展して国を作ったチームもあります。それだけ効率的になりますので作っても損は無いかと思いますが」
「……どうする?」
俺の一存では決められず、後ろの二人にも意見を求める。
「・・・・・・・・・・任せる。」
「ハルの好きにしていいぞ。」
まったく、主体性のない奴らめ。
「んー、いや。よくわかんないから止めとくわ。」
「かしこまりました。説明は以上になります。何かご質問は?」
「大丈夫だ。細かいことはやっていけば分かるだろ。」
「ほかに何かご用件はありますか?」
「今から仕事できるか?」
「はいそちらのリクエストボードに張ってあるものはいつでも受注できますよ。あ、でも今はGランクの依頼はリクエストボードにはないようですね。
珍しいですね。いつもは余ってる位なのですが。すみませんまた後日、お越しください。」
つまり今日は働けないってことか。フェンだけならできるだろうが、それも申し訳ないかな。
「じゃ、今日は帰るか。」
「宿はどうするんだ?」
「おっちゃんに頼ろうぜ。一日だけなら構わないだろ。」
ジェミニはどこかと探すと、先ほどとは別の女と頬を緩ませて話し込んでいる。
首根っこを引っつかんで、引きずりながらギルドを後にした。