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ハイイロ ノ カナタ  作者: mild
第一部
20/281

四人旅

モガルに見送られて町を出た俺たちは主体性もなく、貰った馬車でゆっくりと整えられた道を走っている。


まずは俺、ユキネに、フェン、あとはなぜかジェミニとかいう男が一緒だ。外見は茶髪でがっしりとしていて、身長は俺と同じくらいだ。


馬車を貰ったはいいものの誰も操縦できないことに気づいて途方にくれているところに、


「あ、ワイ操縦できるで。その代わり仲間に入れてくれへん?」


と、なにか軽いノリでついてきたのだ。なぜ仲間になりたいんだ? と聞くと、




「面白そうやから」


だそうだ。


「というか、よく初対面の人間を連れてきたな」


と、ユキネ。ま、それはそうなんだが、馬車を使える人間もいないし歩いていく訳にもいかないだろ?


「初対面やないで?」


え?と3人の顔がジェミニに向く。



「宴会の時必死に、存在をアピールしてたんやけどって言うかフェンちゃん? なんでキミまで覚えてへんの?」

「ん? フェン知り合いか?」


「…………………………知らない人」


「嘘ォ!? そんだけ考えても出てけぇへんかったの!? そんなにワイ印象薄い? ねぇ?」


いやむしろ濃い方だと思うが……。





「……………………………あ。地下牢の。」

「そう、地下牢や! 地下牢のジェミニ!」

「地下牢…の…ジェミニ……」

「……ちょっと待って? 思い出してくれたことはええんやけど、地下牢と関連づけて覚えようとしないで? なんかじめじめしたイメージつくやろ?」

「……覚えた。地下牢」

「そっちメインなんやねぇ……」


地下牢といえばジェミニ、みたいなことで解決したらしい。よかったね。



「ところで、今どこに向かってるんだ?」

「ワイの、ワイの長年培ってきたイメージがっ」



ジェミニは遠い目をして別の世界に行ってしまったので、ユキネに話を振る。



「モガルに貰った地図によると、・・・えーとドンバ村ってところだな」

「ドンバ村?どんなところなんだ?」

「私もよく知らない」

「ドンバ村かー。行くのは久しぶりやなー」


二人してドンバ村なる物を想像して首を捻っていると、こっちの世界に帰ってきたジェミニが会話に加わった。



「行ったことがあるのか?」

「ああ。なかなか賑やかな村やで? いや村ってレベルじゃあれへんかったな、あそこは。広さで言えばさっきの町の半分ぐらいはあるし、ギルドがあるで」

「ギルド?」

「冒険者ギルドはたいていどこにでもあるけどな。あそこは商人ギルドもあるから、人が集まるんや。ハルユキ達は金が無いんやろ?じゃあまずはギルドに行かないとなぁ。」

「ふーん。それは楽しみだね、っと」



 そこで会話を打ち切り、ごろんとその場に大の字に転がる。すると、何の混じりもない群青色が目の前に広がった。あの部屋の天井とは違い、大きく広く、優しい。


 風の匂い。温かい日光。世界に溶けたかのような偉大な開放感が気持ちいい。……そして、何より眠い。


 それを雰囲気で察したのかジェミニが言った。



「3人とも寝てていいで。何かあったら起こすわ」



 言われずとも、もう起きていられる自信がない。すると、こてんとユキネが俺の腕を枕にして横に寝っ転がった。


 ちょっとそれじゃ眠れないだろと言おうとすると今度は逆側の腕にフェンの頭が乗った。



「……えーと」

「羨ましい事してるなぁ。はっはっは、…………勢いあまって死んでまえ」

「代わるか?」

「…………………………………ええの?」

「やっぱだめだ。お前が死ね変態」



危ない。二人の貞操の危機だったようだ。まあ返り討ちに遭うのが落ちだとは思うが。



「変態やないでー。紳士っぷりで有名なジェミ兄さんやでー?」



はいはい、おやすみなさい。



 ◆




 本物のハーレムを目にして都市伝説やなかったのか、とジェミニは嘆息した。


 当たり前のように鈍感だ。普通は気付きそうなものだが普通に当てはめることのほうが不自然ではある。……しかしこうやって見るだけなら至って普通の青年だ。


 しかしアレは。あの灰色の体は。中に詰まった狂気は。……洒落にも使えない。


 真上からの攻撃だったからあの程度の被害で収まったものの、もしそのまま横から殴りつけるようにあの兇器を振るってたら、おそらく町の半分ほどは消し飛んでいただろう


 ……今思い出しても鳥肌が立つ。ただ恐怖が半分、好奇心が半分で。


 口元が上がるのを感じながら前に向き直ると、道の先が夜の帳で見えなくなってきているのに気付いた。この辺りで今日は野宿かと馬車を止めようと腕に力を入れる。



「止めろ……」



 ぞわっと背中に鳥肌が立った。気配すら感じなかったというのに、声は耳の直ぐ近く。心臓にも喉元にも手がかけられる決死の領域。

 


「……って、なんやハルユキか。あんまり驚かさんといてぇな」


 冗談混じりに言葉を濁しながら、後ろの化物に声を掛ける。しかしジェミニには目もくれずにハルユキは夜の帳に目を凝らしている。


「あの坂を越えたところに山賊……か? とにかく10人くらいが殺気むき出しで隠れてる」



 暗がりのせいで坂さえもまだ見えていない。しかし直後に道がせり上がり始めているのが見て取れた。つぶさに教えられる異常さに身が震える。

 

 もちろん、好奇心半分で。



「どうする? 引き返すん?」



 とは言ったものの、自分でも多分一分かからず全員倒せるとは思うが、とジェミニは笑みを保ったまま想像を巡らせる。



「……いや、いい。やっぱりこのまま進んでくれ。俺が適当に片付けるから。」


 

 しかし、この男がやってくれるのなら憂いは無い。


 りょーかいや、とにこやかに言って馬車を止めた。





 ◆ ◆ ◆




 ハルユキのデコピンを食らってまた一人山賊が吹っ飛んでいく。ハルユキは文字通り指一本で山賊達を倒してのけていた。


 わざわざデコピンで倒しているのも、また自分の力が上がっていっているのに気づいたからだ。



(まぁ、手加減すれば大丈夫だとは思うが……)



 デコピンで倒せるのなら構わないだろう、ということだ。



「それにしても変な奴らやなぁ。」



山賊達の格好は所謂、世紀末的な格好で地面にのびている。



「まあ、こういう体張ったボケができる人材は貴重だろ?」


 

 馬鹿にされたと思って突っ込んできた最後の山賊をまたしてもデコピンで迎撃してあっけなく戦闘は終わった。



「よし、それじゃもうちょっと進んでから野宿するか。」



 ここまで実力差があると分かっていれば、もう襲ってくることはないだろうと思ったハルユキは少し離れたところにとめてある眠ったままの二人がいる馬車に向かおうとした。



「ちょい待ち、ハルユキ。」



 山賊達の近くにあった馬車を物色していたジェミニが馬車の中を指さして、ハルユキを引き留めた。何事かと小走りでジェミニに近寄り、ハルユキは馬車の中をのぞき込んだ。



「……なんだこれ」



 馬車の中にはいくつかの木箱と、袋、そして真ん中に大きな革袋があったのだが、その袋がなんというか、じたばたしていた。



「中に誰か入っとるみたいやなあ。開けてみる?」

「そうだな。危険じゃなさそうだし。」



 そう言って袋に手を伸ばそうとすると、何かを思いついたジェミニがハルユキの手を掴んで、袋から手を遠ざけた。





「……なんだよ」

「……これ、中には美少女が入ってる気がするわ。よってワイが助ける! お前にフラグはわたさへんで!!」

「なんじゃそら。……まあいいや。んじゃ任せた」

「任されたー!!!」


 ヒャッホーと袋を開けにかかるジェミニを置いて馬車へと戻る。


 あと馬車まで10メートル程の地点で、後ろからジェミニの悲鳴と、どう考えても50歳ぐらいのおっさんの歓喜の声が聞こえてきた。



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