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ハイイロ ノ カナタ  作者: mild
第一部
19/281

故郷の空

「そうかい。そんなことが・・・。」




モガルの店で食事をとりながらハルユキ達はことの顛末をユキネに話した。


食事の途中にリュートンとダリウスが町人に連れられてすごい勢いでユキネに謝ってきた。その姿は疲弊しきっていてあまりに哀れだった。しかし、ユキネは顔も見たくないと、もう連れて行ってくれと頼んで即座に姿を消した。


ハルユキもユキネが我慢するなら、と手は出さなかった。






この町には実はかなりの数の反乱軍がいて、虎視眈々と機会をまっていたらしい。リーダーはなんとモガルだ。


ハルユキ達が帰ってきたら、混乱に乗じて一気に攻め入ろうとしたらしい。


が、ハルユキ達が王族の二人を捕まえてくるし、城に行ってみれば、城があったところにできていた巨大な穴と、戦意喪失している兵士達しかそこにはなく、しょうがなく兵士を捕らえて、


それで反乱はあっけなく成功したらしい。



「本当にすまない。利用するようなことしちまって・・・・・・。」



そのことをハルユキとフェンに話した後、膝に頭が着きそうな勢いでモガルはハルユキ達に謝ってきた。


おそらく、苦渋の選択だったのだろう。しかしリーダーである以上安全でなおかつ成功の可能性が高い手段を選ばなければならなかったのだ。



「モガル、私は・・・・・・。」


「な、なんだい?」



責められると思ったのか、ハルユキを殴るときには想像もつかない表情だった。



「ユキネが起きたら、おいしいご飯を二人分・・・お願い。」


「俺はメニューのここからここまで3つずつな。約束は守れよ、ババァ。」



モガルはしばし呆けた後、大声で豪快に笑った。


(敵わないね、全く・・・・・・。)


「・・・・・・よし。分かった。気合い入れて作るからね! 残したら許さないよ?!」

「はっはっはっ。誰にものを言ってるんだ、ババァめ。一欠片も残さん。」






大宴会になった。



「はっはー! このイサド様に勝てる奴はいないのかぁ!?」

「よっしゃ。鍛冶屋のエドガーがそのけんか買った!!」

「3番、ジェミニ! "俺のリビドーはノンストップ" 歌うで~!」



ハルユキが大量に食べたり飲んだりしていくうちに、まわりで食べ始める人たちが出てきて、どこかで飲み比べが始まり、力比べが始まり、


誰かが歌い始め、そしてみんな笑っていた。


私はハルユキの横で初めて飲むお酒と格闘していたのだが、一口目を飲もうとしたところで、食材が切れるまで料理を作りきったのか、手の空いたモガルが話しかけてきた。



「ユキネ・・・。ちょっといいかい?」



そう言って店の外まで連れて行かれた。外に出ると夜空に星が広がっていて思わず息をのむ。


モガルは店先に設けたテラス席に腰を下ろすと、言いにくそうに話し始めた。




「ユキネ……。こう…いうのは言いづらいんだが。」

「私はもう必要ない…だろう?」




モガルの顔が驚きに染まり、目が見開かれた。しかし自嘲的に笑うと、続けた。



「そりゃ分かるか。王女だもんな。……そうだ。私たちはお前の父親が無実だって思っているが、この国の人全員がそうではないし、本当のところは誰にも分からない。だから、国民みんなで国を作ろうという意見が多い。いや、ほとんどだ。いやこういう言い方は卑怯だね。私も、そう思ってる。」

「……国とは人だ。人とは国だ。王とは従える者でも束ねる者でもなく、ただ支える物だ。」

「……?」




「父上が一緒に食事をする度に言っていた言葉だ。私もそう…思う。王がいなくても、人々がお互いを支え合っているのなら、王はいる必要がない。」


「……本当に、すまない。」



しょうがない。それにこんなこと言う方が辛いに決まっている。


ほら、あんなに強そうなモガルが泣きそうじゃないか。



「でも、ここは私の故郷だから。時々、戻ってきてもいいか?」



モガルは私の顔を見てまた自嘲して、本当に敵わないなとつぶやいた。



「ああ。すごいご馳走を食べさせてやる。ここを故郷にする者は皆、家族なんだからな。・・・忘れないでくれ。」

「ああ、じゃあ戻ろうか。」



また、ああと短く返事をしてモガルは先に賑やかなところへと戻っていった。




私は綺麗な星をもう一度だけ眺めて扉をくぐった。



いつの間にそこにいたのか、ハルユキが扉のすぐそばに立っていた。恥ずかしいのか、顔は騒ぐ人たちを向いている。


「泣きたいときぐらいは、胸貸してやるよ。」




泣く? 誰が?



「あ・・・れ・・・・・?」



いつの間にか頬が涙で濡れていた。


故郷から出て行かなくてはならなくて悲しいのか、家族だと言ってもらって嬉しいのか、父上を思い出して哀しいのか。使用人達の後を追えずに申し訳ないのか。


涙の理由は分からないが、理由も分からない涙は止めようが無くて。




「少し、だけ・・・・・・。」


またハルユキの胸に顔を埋めハルユキの胸を濡らす。


私はハルユキの前だと泣いてばっかりだ。


私はまだまだ子供で弱い。それでも、それでもいつの日か。


─────強く。



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