再会はやっぱり涙と喜びで。
────目を覚ますと見知らぬ部屋の見知らぬベッドで見知らぬ天井を眺めていた。
ここは……どこだろうか?
この頃は硬い地面としか面識が無かったからか、柔らかい日差しと暖かい布団の感触に疑問が先立つ。
城ではない。単調な目作りの屋根と壁だ。ベッドから身を起こしながら天井を伝って部屋の様子を見渡していく。
そして、ちょうど腰を浮かせた所で。
ドアのすぐ横の壁に誰かが寄りかかって眠っているのに気がついた。
────時間が止まった。
「んあ……お、よう。起きたのか」
久しぶりに会ったというのに、相変わらず緊張感というものが欠けたしゃべり方だった。
ゆっくりと時間が融解して行くのを感じながら、ハルユキの声があまりにいつも通りで少し気持ちがむくれた。
四年振り。
それなのに、私だけが大騒ぎして、喜んで、声を弾ませるのはなんとなくいやだったので、私もなんでもないように話そうと口を開いた。
──が、喉から声は出ずに、零れたのは目から、何やら妙に熱いものが。
手でぬぐっても、目をこすっても後から後から涙が零れてきて止まらない。
「お、おい……、どこか痛むのか?」
違う、と伝えようとして、また代わりに感情の塊が目から零れた。
顔がぐしゃぐしゃになる前に、ハルに飛びかかって顔を胸に押しつけた。ハルの服は汚れるだろうが、知ったことではない。
汚い顔をハルに見られたくなかったというのもあった。なんとなく。
結構な勢いで突っ込んだからか椅子が倒れ、ハルと一緒に床に転がった。それでもハルの上から顔を押しつけたまま離れなかった。
「痛いんだが……」
「……うるさい」
気恥ずかしくて思わず言ったその言葉が再会の挨拶になってしまった事に気づいて、自分に嫌気が差す。でも回した腕の力は強くなるばかりで、恥じらいを持とうともしない。
そのままいくらか時間が過ぎた後、ハルユキが口を開いた。
「久しぶりだ」
「うん」
「泣いてんのか」
「……ううん」
嘘だけど。嘘だとばれてるけれど。ばれてることも判っていたけど。
「辛かったか」
「………別に」
「寂しかったか」
「………少し」
「背ェ、伸びたな」
「………うん」
「相変わらず、泣き虫だな」
「………うん。ごめん」
「しっかし相変わらず気品ってもんが見あたらないな相変わらずピーピー泣くし微乳だしいきなり飛びつくし嘘つくし精神的にガキだし久しぶりにあったと思ったらぼろぼろだし終いにはなんか殺されそうになってるし、ホントどうしようもねぇなおまえは」
「……………」
この男はどうも空気を読み込む機能が故障しているようだ。直してあげないと。うん、拳で。
「───っ、──、──ッ──っ」
冗談なのだろう。半分自分も笑いながら胸を殴りつける。
「はっはっは。がっ! ごっ!ふがっ!はっは、あ待ってそこみぞおt……」
思い知ったか。
でもまあ、許してやろう。こんな奴でも、私の大切な、友達だ。
「……変わんないなぁ、ユキネ」
「ハルもだ」
いつの間にか涙は止まっていて、いつもの通りに仲直りをしようと顔を上げた。
「よう、やっと顔出したな」
待ち構えていたかのように笑顔で迎えてくれたのが、恥ずかしくて少しだけ悔しくてまたハルユキの胸に顔を伏せる。
宥めるかのように背中を軽く叩かれた後、柔らかく抱きしめられた。
小さく声が漏れたのはその拍子。慌てて顔を上げたのは自分でも驚くほど甘えた声が出てしまったから。
でもそれより何より。
四年前と変わらない顔が目の前にあって、思ったより顔が近かったのがいけなかった。
顔と顔との距離は十㎝ほどしかなくて、みるみる顔が赤くなっていくのが自分でも分かった。それにイヤに優しく頭をなでてくるものだから。
「……だ、大丈夫か? まだどっか痛むか?」
勘違いしてくれているのが幸いだが、心配してくれたのがまた嬉しくて。
「ハ……ル……」
自分でも驚くほどの熱っぽい声が口から漏れた。顔どころか体中が燃えるように熱い。
熱い。熱い。
「ユキネ……?」
何も分かってない朴念仁が私の顔をのぞき込んできて、ハルの灰色の瞳に私の顔が写った。目が潤んで顔が上気している。
あれ。ハルの瞳の色はこんな色だったかな。
かすかな疑問が頭をよぎるがすぐに消えてなくなり、ハルの名前をつぶやきながら、ハルの頬に手を伸ばした。
「ハルユキ。ユキネの具合は…………」
固まった。そして一気に正気に戻った。
「お邪魔しました。……ごゆっくり」
バン、と思ったよりも大きな音で戸を閉めて去っていった。
────フェン?
「ほら。行ってこい。ついでに誤解も解いてこいよ」
その言葉を聞き終える前に廊下に飛び出し、こちらを振り向いたフェンに抱きついた。
後から考えると、私は抱きついてばかりで恥ずかしいが、フェンもハルユキも……そして私もちゃんと体温があったのが感じられて。
とても、とてもとても嬉しかったのだ。