灰色の狂気
城の入り口のところで、なにやら言い合いしていた先程の男と、そばにいた偉そうな男もついでに、ロープを出そうとしたら代わりに出てきたビニールひもでふん縛って
フェンのところまで引っ張っていった。
近くまでいくとフェンも予定より早く治療を終えているようで、周りに転がる気絶した兵士を見渡している。
「・・・・・・もう、驚かないけど、相変わらず・・・・・・むちゃくちゃ。」
近くまで俺が近づいたことに気づくと、そう言った。
「まあ、自覚はしてるよ。で、まだユキネは起きないのか?」
そう声をかけると、ピクンと肩が揺れて、俺の目を見つめてきた。
「ハルユキはユキネのこと、知ってたの?」
「・・・・・・なんで?」
「ユキネはあだ名。本当の名前しかハルユキには言ってない。」
しっかりとユキネと俺の間に体を入れてから、言葉をぶつけてきた。もしかしたら、いや、おそらく警戒したのだろう。よくよく考えれば、俺は怪しすぎる。
「ハルユキ、あなたは・・・・・・。」
「ユキネの友達、だよ。お前と同じようにな。」
説明不足かもしれないが、これ以上言うこともないし、これ以上、上手く伝える方法も思いつかなかった。
しかし、フェンは警戒を解く。
「・・・・・・・・・・・・そう。」
「そうなんだよ。」
これだけで相手を信用するのはどうかと思うが、俺は思ったよりこの小さな魔法の騎士に信頼されているのだろう。
「さて後はこいつが目ェ覚ますのを待つだけなんだが・・・・・・あーあ、団体様がご到着だ。」
ここから城の入り口からは50メートル弱。
そこに今倒した兵士の三倍ほどの数の兵士が集まってきていた。
「城の中の兵もすべて出てこい! ・・・・・・全力で、叩く!」
また先ほどの副長とは別の指揮官ががものすごい大声で指示をとばす。
「た、助けてくれ!助けてくれた者には好きなだけ金と地位をくれてや、ぶッ!」
「うるせぇよ」
そこらに倒れ伏している、兵士を見て、警戒しているのか安易に近寄ってこようとはせずに、二の足を踏んでしまっているが、
準備が整い次第、仕掛けてくるだろう。一刻の猶予もない。
「フェン、こいつらと一緒に下がってろ。」
逃がしたいところだがフェンではユキネ一人連れて行くのも無理だろう。
「・・・・・・・・・いや。」
「フェン。」
「先に、・・・・・・宿に帰ってる。疲れた。」
・・・・・・・・・・・・・・・えー。
「あ、やっぱ行かないで。なんか寂しくなってきた。」
「お疲れ、さま」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えー。
「大丈夫。ちゃんと、帰ってくるまで、待ってるから。」
・・・・・・そう言ったフェンの髪の間からかすかに見えた耳はほんのりと赤く染まっていた。
まったく、恥ずかしいなら言うなよ。
「りょーかい。先行ってろ。」
フェンは小さくうなずいて、つぶやいたかと思うと、ユキネと縛った男二人がふわりと浮き上がった。
おそらく風の魔法だろう。3人とも歩いて去っていくフェンにしっかりとついて行っている。兵士はほとんど全員あちらに集まっているようなので、
後は任せて大丈夫だろう。
「・・・・・・さて。」
こちらの人数が減ったからか、それとも目の前で主が連れ去られたからか、少しだけ兵士達に動きがある。おそらくあと一分もしないうちに
こちらに突っ込んでくるだろう。
正直あの人数はめんどくさい。ま、やるしかないんだけど。
(よう、いろいろ面倒くさいことになってんな。)
突然頭の中に声が響いた。
(九十九か。なんだ起きたのか。まぁ見ての通りだ。お前の力があれば何とかなる。悪いがまた借りるぞ。)
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・はァ? なぁに言ってんだ、おまえは?)
(何って・・・・・・だから・・・)
(お前がいつ! "俺"を使ったんだよ?)
どういう事、だ? あの飛躍的なまでの身体能力の上昇はこいつの仕業じゃないのか?
ならこの力は一体・・・・・・? いや、こいつが言った力ってのは・・・・・・・・・・・・?
(あー勘違いしてんのな。俺が言った強さってのはお前の思ってるのとはまったく別モンだよ。けど確かにな、お前何でこんなに強くなってる?
まあいいや。ついでだから、・・・・・・・・・魅せてやるよ。)
――――――"其れは唯、其処に在る"――――――
・・・・・・・・どこかから声が聞こえた。
瞬間、右肩と額に、激痛が、走り抜けた。
ほんの一瞬だ。もう痛みはなく、代わりに、違和感。それも圧倒的な。
視界の端に怒濤のごとクこちらに走ってくる兵士が見える。駄目だ来るな。これは駄目だ。駄目だ駄目だ駄目だ。
視界の端にもう一つ見える何かがある。なんだこれは?
色がない。まるで色彩を失っている。アあ、俺の・・・腕か。でかい。肘から先だけで五メートルはある。
もう一つの違和感を訴えてくる額に左手を運ぶ。そコには、あり得ない物が存在していた。
――――――角。
驚く暇もなく、今度は、腕の中に何かがいることに気づいた。
腕の中で何かが暴れテいる。つい最近まで感じていた、懐かしい、しかしおぞましい感触。
これをどうにかするには、発散する。それだけだ。だが、殺さない。約束した。
走ってくる兵士たちを見ルと、この腕を思いのまま振り回してやりたい衝動に駆られる。
それもこれは殺意からくるものではない。それだったらまだ良かった。
俺を突き動かそうとしているのは"好奇心"、これを振るったらどうなるのか、それだけの理由で、殺したがっている何かを感じル。
・・・・・・・・・アあ、狂っテイる
しかし、これをそのままにしておくわけにはいかナイ。視界の先に城ガ目に入り、決断を下した。
跳ぶ。易々と兵士達ヲ飛び越え城ノ真上へ。
不思議と意識はシッカりしテいる。上空からしッカりト城を見据えた。耳かラ目カら鼻から肌カラ異常なマデに鋭敏化した情報が城に人はいナイコとヲ教えテクレル。
ソレヲ確認シテ、腕ノ中デ暴レル狂気ゴト、
――――――真上から城に叩きつけた。
轟音。
一瞬遅れて風が衝撃となって、周囲を襲った。兵士達はとっさに近くの者と一塊にになり、吹き飛ぶのをこらえている。
石でできた壁にひびが入る。
結果、城はその下の何十層もの地層ごと、この世から消失した。
ハルユキは兵士達と穴をはさんだ反対側に着地した。
(おいおい・・・・・・。)
反対側にいる兵士達はここから見ても分かるくらい戦意を失っている。呆然と膝をつく者、口を開けて呆けている者、武器を投げ捨てて逃げ出す者。
いろんな奴がいたが、喜色の表情を浮かべている者はいないだろう。
(んー、手加減はしたんだけどなぁ)
(やり過ぎだバカ野郎・・・・・・。)
城のあった場所に堂々と鎮座する大穴をのぞき込む。俺の強化された視力を持ってしても底は見えない。
そうだ。それよりも。
(九十九、説明を・・・・・・。)
(zzz・・・・・・zzz・・・・・・)
「この野郎・・・・・・。」
・・・・・・・・・まあいいや。後で聞くか。今は帰って寝よう。
待ってる奴と待たせてる奴がいる。さっさと帰ってやらないと。
ゆっくりと、帰路についた。