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ハイイロ ノ カナタ  作者: mild
第一部
149/281

最凶、最狂



 音も無く、ラストの足元の砂が波打ちながら除けられた。


 それは足元からも迸る魔力の奔流を受けて押し流されただけであったが、その魔力のあまりの禍々しさに砂が必死になって逃げ出したかのようにも見えた。

 今までの事は全て御遊戯だったのかと疑いたくなるほど、その光景は常軌を逸していた。


 あの力の元で拳を握れば、それは破城槌となり、体は城壁となり、全ての意思は狂気に変わるだろう。

 技と言う物すら見当たらない。しかしそれは確かに強者の証。



 そして、瞬きをするにも足りない程の時間の中でラストの姿が掻き消えた。

 残っているのは白い魔力の残滓と、蹴り足の勢いで噴火のように空高く吹き上がった砂と砂利だけ。



「──え?」



 気の抜けた声を出したのは遠く離れた客席にいたはずのヴァーゴ。

 闘技場上で繰り広げられていた今までの戦闘は、二人の様子から明らかに小手調べでしかなかったのに、それさえヴァーゴの常識から超越していたものだった。

 だから、怯えながらも、戦慄しながらも、何処か遠くにそのやり取りを見ていた。


 正直に告白すると、ヴァーゴは今もいつ崩れるかわからない足元のほうに注意が行っていた。


 だから。

 目の前にいきなり現れた男にただ呆けた声を上げる事でしか反応を示せなかったのだ。


 とは言え、他の人間もそう変わりはない。レオやスコーピオでさえも突然現れたラストに視線を向けるだけ。



 一二三四五六、と。

 その化物は、ヴァーゴ、アリエス、スコーピオ、レオ、ジェミニ、レイをそれぞれ指差しながら確認していく。




「──あと、七人」




 その言葉を皮切りに、顔に笑顔を貼り付けたままラストの体がゆらりと揺れたようにヴァーゴは錯覚する。


 実際には身に纏った襤褸切れが風に揺れた事と、体中から例の白い魔力が吹き上がり、陽炎のようにラストの体を歪ませた事が原因。


 そしてそこから、衆人の視線を身に受けながらラストがその拳に白い魔力が集約させ、ギシリと指を軋ませるまで一秒の半分の半分の半分ほど。



 当然、ヴァーゴはまだ体を凍らせたまま。


 最初の標的を決めたのか、ヴァーゴに向かって地面を蹴り出そうとラストは体を沈めた。




「──ヤンチャが過ぎるだろう?」




 しかし、また唐突にラストの後ろに影が揺れる。



 ぽん、と。

 ラストに対するには、あまりに緩慢な動作でラストの右肩に左手が乗った。


 無遠慮に乗せられた腕の持ち主は見目麗しい金髪の美丈夫。



 今度は言葉も笑顔も交わす事無く、ただオフィウクスの殺意が魔法となってラストに圧し掛かった。



 一瞬でラストの体は掻き消える。



 ヴァーゴは知っていた。

 いや、知っていると言うよりは以前タウロスが屈服された光景から推察したと言うほうが正しいだろうが、目の前に広げられた光景にその推察は確信に変わる。


 重力。

 オフィウクスはその力を魔を持って手中にしている。


 ラストの姿がヴァーゴの視界から消えたのは、堪えようとしたラストの力にただ客席の地面が持たなかっただけ。

 依然として隠し難い破滅の気配は階下から吹き上がってくるようだ。



「──下がっていろ」



 放り投げたかのようにぞんざいな言葉がヴァーゴに送られる。

 言われるまでも無く、ヴァーゴは足元の影に沈みこんで体を移動させた。




 瞬間。


 ヴァーゴが立っていた場所が。

 いや、オフィウクスが居た場所も。

 否、闘技場の一角そのものが。



 下から襲ってきた巨大な何かに根こそぎ吹き飛ばされた。



「な……!」



 一瞬送れて崩れた客席の破片の影から顔を覗かせたヴァーゴが見たのは、白い腕。


 光る訳でもなく、ただ薄らと透けて見えるそれは光だとも霧だとも喩えることはできない。



 ラストの体を包んでいるあの魔力。今まで見た中であんな物はそれしか見覚えは無い。それが朧気ながらも具現化したものだとヴァーゴは確信する。


 月でも掴んで握り潰そうかと企めるような巨大な掌は、空が厚い灰色で覆われている事に拗ねてしまったかのように薄らいで消えた。



 残るのは巻き上げられた大小さまざまな破片と、いつ身をかわしたのか、その破片の最高到達点の更に一つ上で地上を睥睨する金髪の男。




 灰色の夜を背に、それはまるで魔王のように。上空の風に煽られて乱れる長髪は、まるで地上の何もかもに手を伸ばす強欲さを表しているかのよう。



 その強欲の手に捕まったのか、ぴたりと宙を跳んでいた破片の全てが静止し、そして一斉にオフィウクスの元に集いだす。



 同時に、折り重なった破片の山の中心が吹き飛んで孤高のそれが姿を現す。ただ純粋に殺意のみの視線を空に向ける様はさながら魔獣。



 そして次の瞬間には、魔王の背後の空間が一斉に歪み、そして魔獣は天を衝かんと跳躍するために身を屈ませる。



 その歪みから顔を出し一斉に主の元に集うのは、先程と同じただの石。しかし、今度は一つ二つではなく、大小さまざまな──拳大の石から、果ては直径一メートルほどある岩まで。そしてやはり、その一つ一つには触れる事も躊躇われるような神秘の欠片を内包している。


 その石が、一つ、二つ。いや、十、二十。否、更に今この瞬間にも、石の群れは増殖を繰り返し、その数はもう一桁を超えて二桁を越え三桁に達し、そして恐らく今もう一つ桁を繰り上げた。

 幾千の石が織り成す空は、まるで塗りつぶされた灰色の空に星だけが帰ってきたかのよう。



「──"箒星ランス"」




 そしてその言葉によって、星空はただの凶器に成り下る。



 一番星が斜め上から一直線にラストへと突進する。

 ラストはそれを見極めた挙句首を逸らして"それを避けた"。


 所詮は拳大の石。一筋の線にしか見えないほどの速さを誇ってはいたが、それに反応できるなら僅かに体をずらすだけで避ける事は出来る。


 結果として、石はラストの髪を数本巻き込み、後は地面になけなしの体当たりを叩き込むだけ。





 瞬間。



 ラストの背中に爆風が襲った。


 髪と襤褸が大きくはためき、吹き飛ばされないように足の指で噛んだ地面が軋む。



 ラストの背後に広がっていたのは、放射状に広がった破壊の跡。


 それはただでさえラストに砕かれた闘技場を更に痛めつけ、地面を削り破片を吹き飛ばし更地にしている。


 それぐらいの威力がある事は判っていたのだろう。ヴァーゴとアリエスの攻撃を物ともしなかったラストがわざわざ回避行動をとった事からもそれは伺える。




「──"流星の軍勢(アヌ・ヘタイロイ)"」




 そして、王の指揮が振られ、一切の躊躇いも無くその身を捧げんと星が殺到する。

 一粒で町の一区画は破壊しうるような威力。数は幾千。──そして、敵は一人。



 ただ一方的に暴力に晒されるはずのその一人は、しかし、愉しげに笑いながら地面を蹴りつける。



 不安定な足場。下から上に移動するための重力の弊害。


 降ってくる星達よりも明らかに速く空を上るその姿は、そんな物を一切感じさせず、そもそも空気の抵抗さえ無視しているかのようだった。



 しかし、正面からぶつかり合うとなれば、その速さは寧ろより大きい衝撃を体に負担させる事になるだろう。

 しかし、既に身は空中。速度を緩める事さえ簡単ではない。

 しかし、ラストの頬は相変わらず吊りあがったまま。

 しかし、最早ラストの視界一面が箒星となったオフィウクスの殺意に覆われている。


 ──そして、ラストはただ馬鹿正直に、上肢に下肢にその体躯に、ありったけの力を込める。



 まず、一番先端にあった石を出会い様に蹴り付けた。

 その反動で、ラストはほぼ真横に体を滑らせる。

 そしてそこには二つ目の石。

 また、今度は斜めに蹴り付ける。

 その先には5番目の石。

 また蹴る。

 十五番目。蹴る。

 三十八番目。蹴る。

 七十七番目。蹴る。八十一番目。蹴る。九十九番目。蹴る。百十五番目。蹴る。百四十五番目。百九十九番目。二百十三番目。三百一番。三百八十九番。四百二十三番。五百七十六。六百五十四。八百三十二。

 蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る。


 すり抜け、蹴り上げ、ジグザグに空を上っていく様は正に渓谷を駆け上がる魔獣のよう。



 ──そして、千と二百十八番目。

 蹴り砕いて蹴り落とす。



 ふわりとラストが地面を蹴った力が零になり無重力を覚えた時、オフィウクスはすぐ目の前。

 既に右手は拳を握り、ぎりぎりぎりぎりと音がする。



 そして、オフィウクスに向かってその拳が振り被られた。





「──千と、二百十九だ」




 しかし、王の手の中に最後の伏兵。



 目の前にあったラストの顔面に、オフィウクスは手の中に持っていた最後の石を叩き付けた。


 小さいと言っても最初の石と大きさは同じほど。


 ほぼ零距離からの発射にラストの頭は弾け飛び、体ごと地面まで吹き飛ばされる。




 ──かに思われた。


 ともすれば頭蓋骨ごと粉砕したのではないかと言うほどの勢いで吹き飛ばされたラストは、後ろに折られていた首をぐりっと生々しく元に戻して、オフィウクスに視線を戻した。

 その歯と歯の間に挟み込んだ、箒星を粉々に噛み砕きながら。



 唐突に、オフィウクスのバランスを崩すように足を引っ張る感触。

 見下ろしてみれば、それは白い腕。


 薄く溶けるような色のそれは、生身でも無機物でもなく、しかし決して身に覚えが無いものではない。それがラストの腕から続いているのだから尚更だ。


 足を引く力が強くなったかと思えば、オフィウクスは下にその反動でラストは上に立場を入れ替え、そして既にその右腕に渾身の力を込め、振り被っている。



 避けられない。

 そう判断したオフィウクスは、やはりただ腕をかざす。


 これに反応したのは、背後から生み出された箒星とは別に、舞っていた破片。一瞬でラストの腕に体に顔にまで纏わり付き、動きを止めようと健気に震える。


 

 しかし、とてもではないがそれでは止まらない。止められなどしない。


 更に魔力が増大し、右手も纏わり付く破片を物ともしないように更に引き絞られる。






 そして、獣の牙が王の身に届く。


 その拳の強さは等しく速さとなり、それに打ち抜かれたオフィウクスも、先の箒星のように一筋の線になり地面へと叩き落された。


 しかし、素直に殴られたわけではない。本来なら重力に従い加速していくはずのオフィウクスの体は、まるで重力が何倍もの力で逆に働いたかのように加速度的に落下速度を落としていく。


 それでも勢いはほとんど殺せてはおらず、オフィウクスは地面に叩きつけられ、砂塵を撒き散らす。





「──"木星ジュピタ"」




 しかし、オフィウクスはその膝すら地面に付ける事は無い。


 それどころか、その顔に浮かべていた笑みは猟奇的と言えるほど深く、微笑とはとても呼べないほど凶々しく歪んでいる。




 足から着地してオフィウクスは力尽くで体を支えると、"翳したままだった"右手を振る。


 ふっと、世界が陰った。


 同時にラストがその身に覚えたのは強烈な拘束感。



 その拘束している力が重力で、そのせいで自分の体の落下が止まっていると。そう気付いた時には、それはもうすぐ背後まで迫っていた。



 巨星。


 いや、大きさは星と言うにはまだ程遠い。しかし、今までの石と比べると、思わず一瞬思考が止まってしまう。


 いきなり現れるには余りに巨大で、じっと見ていると遠近感が狂ってしまいそうだ。


 とりあえず、その星の影が闘技場の大半を覆っているとなれば、少なくともその存在を軽んじる人間はいないだろう。


 

 そしてそれは堕ちてくる。

 先程の箒星と勝るとも劣らないほどの速度で落ちてくるそれは、物理的なエネルギーはもちろん、多大な魔力もふんだんに詰め込まれている。


 空中に拘束されたラストは全力で殴りつけた技後硬直もあって、それを無防備に背中で受け、そしてそのまま地面と巨星の間に押し潰された。



 轟音。


 震撼。



 多大なエネルギーは今度こそ跡形も無く闘技場の北側を踏み砕く。

 余ったエネルギーが空気を揺らし、豪風となって土埃や石や岩。更には民家ほどの大きさがある破片さえも、問答無用に吹き飛ばした。


 それは、さながら爆心地。

 邪魔なものを粗方吹き飛ばした、その場所の中心地は見通しが良く、その中心には見上げるほどの魔力の塊が鎮座している。



「────」



 そして、間髪を入れずにそれが始まる。


 ぎりぎりぎりぎりと鋼の弦を掻き鳴らすような耳障りな音を立てながら、地面に落ちてクレーターを作っていたそれが震えだす。



 始まったのは、終わり。


 星はその身を崩しながら収縮を始める。その身体を。纏う重力を。そして、星としての命を。



 最初は赤熱しだして、次に黄色、白。

 その色は膨張し、そして逆に星自身は収縮し、次第に分離していく。


 それらの色は全て炎の色で、体積を犠牲にして徐々にその温度を上げている事を示している。




 ──しかし、そこでオフィウクスが翳していた右手が下りた。


 そして純白に燃え上がっていた炎が一瞬で最初の赤色に戻って行く。再び爆発が起きるが、吹き飛ばすものも無く、ただ空気だけを震わせてクレーターの中を焼き尽くしていく。




   ◆




「あのね、一応今ここに居る事を隠してるって言うのは理解してる?」

「ふむ、出来る限り規模は小さくしたつもりだが」



 いつの間にそこに居たのか、子供──レオが、オフィウクスの背後で燃え盛る炎を眩しげに見つめながらそう言った。

 その声を背中で受け止めたオフィウクスは、そこに居る事が判っていたのか、前を見据えたまま滞る事無く言葉を返す。



「あれでかい? ここを死の大地にするつもりなのかと思ったよ」

「そんな事をしては、私も死んでしまうよ」

「またまた、今の身体じゃ君は死なないでしょ? 死ぬのは僕らだけ」

「いや、きっと名も知らぬ怪物殿も生き残るのだろうさ。攻撃を止めたのはそもそもそれが理由だよ」



 ぴくんと、その言葉にレオの肩が揺れる。辟易したような顔で、視線を炎の中に向け、次に冗談を言っているのではないかとオフィウクスの表情を見て、そしてため息を一つ付いた。



「……それはつまり、……そういう事?」

「そういう事だ」

「ああ、止め止め。僕は逃げます。君達ほど人間止めてはいないんだ。助太刀も出来ないし、そもそも戦うのも好きではないし」



 構わんさ、とオフィウクスが告げると同時に、前方からの光が一瞬で消える。


 瞼の裏には煌々とした白い残光が残っているが、目の前に既に炎は存在しない。

 酷い暴風雨に晒されてもこうは行かないだろうに、まるで平伏してしまったかのように、炎は姿を隠していた。


 平伏させたのは、クレーターの中心で変わらず、──いや、ほんの少しだけ笑みを深くした白い魔獣のような男。



 身に纏う白い魔力は防護する機能もあるのか、そこだけ燃え残ったかのようにゆらゆらと揺れている。

 地を蹴れば、何の助走も無いにもかかわらず一跳びで焼け焦げた地面を飛び越える。


 その身体には傷一つ無く、服の端さえも燃えていない。



「それでは──」



 既にレオの姿は無い。


 闘技場の上にいるのは、相変わらず何がおかしいのか静かに笑い合う男が二人。



「──続きをやろうか」



 愉しげに告げたオフィウクスに対して、生理的に嫌悪感を表すような笑い声をラストも漏らす。


 ラストはゆっくりと右手を上げた。



「……?」



 そして、間髪を入れずにその右手が縄でも引き寄せるかのように引かれる。



「あっ……!」



 背後から声が聞こえて、そこで初めてオフィウクスはラストの右腕から薄く魔力の腕が続いている事に気付く。


 伸縮自在な魔力の腕。


 そして、聞こえた声は恐らくスコーピオの物。自分の玩具を無理矢理大人に奪われた子供の声によく似ている。



「まず一人」



 一瞬後、ピクリともしない着物の女の姿が白い手に鷲づかみに浚われて行った。


 そしてそれを迎えるのは、身体を命を何もかもを、打ち砕かんとする破滅の拳。





  ◆




 ずん、と町ごと地面を揺らすような振動がスコーピオの足元を襲った。


 オフィウクスが放った魔法は闘技場とその下の地面ごと、突然現れた白髪の男を押し潰していく。



「酷いね。化物だ」

「どっちが?」



 そりゃどっちもだよ、とレオは肩を竦めて見せる。



「あーあ、やばいって。結界解けちゃうって」

「そうなの?」

「いや、嘘だけどね」



 けらけらと笑いながらのたまう様を見て、スコーピオは人間にも色々居るのだな、と何処か遠い感想を思う。


 オフィウクスもそうだし、目の前のレオもそう。あの白髪も、一人ひとりがまるで別々の生き物のように多種多様で、理解できないものが多い。



 そして何より、あの黒髪が。


 スコーピオはまた震えそうになる手で、立ち尽くしているレイの手を強く握った。



「終わったかなー?」



 レオは目の上に手を翳して燃え盛りはじめた炎を見ながら、そう呟くと首だけをこちらに向けた。



「じゃ、僕ちょっと様子見てくるから」

「私も行きましょうか? 退屈なの」

「ん~。ま、ここに居てよ。すぐ帰ってくると思うからさ」



 それだけ言うと、その姿が見えなくなる。

 そもそも実体ではなかったのだろう。そしてこれからオフィウクスの元に向かう身体もまた偽物だろう。


 改めて、人間とは難儀だ。

 同族内では気に入っている固体もあったが、その難儀さ、難解さが気に入ったのだろうか。まあ理解できなくも無い。



「ただいま」

「あら、本当に直ぐなのね」



 あっちに行ってからほんの一分かそこらと言った時間で、やっぱりレオの虚像が元居た位置に現れた。

 


「まだ続くんだってさ」

「そう」

「……君。どうかしたのかい?」

「いいえ、どうもしていないと思うけれど……?」



 その言葉が終わって直ぐに、燃え盛っていた炎が立ち消えた。その中心に佇む男は、何処か消え残った白い炎にも見える。


 とん、と何の助走も無しに黒く焼け焦げた地面を飛び越え、ラストはオフィウクスの正面に。


 それを見て更に笑みを深くしたオフィウクスとの距離は二十メートルほど。



「スコーピオ!!」

「え……?」



 突然、レオの鋭い声。

 

 呆けた声を出しながら、レオの顔を見る。


 するとレオが自分の方を指差していたので、暢気に視線を往復させると、そこに白い腕があった。

 え、ともう一度呆けた声を出している間に、強く握っていたはずの手が離れて、レイが連れ去られていた。



「い──」



 ぞくりと喉が震える。

 レイを手放したくない。それもある。しかし、今は誰かに手を握っていてほしかった。



「嫌ぁッ!!」



 我に返り、空中を引きずられていくレイに手を伸ばす。

 そして、再び震え始めている自分の手に気付いた。


 そんな手で何かを捕まえられるはずも無く、震える手は虚しく宙を掻く。



「あ、あ……!」



 震える。

 手が、足も、首も、本能後と何かに脅かされているかのように。



 原因が判る。

 視線を上げる。




 忽然と。




 名も知らぬ白髪と愛しい玩具との間に、黒髪の人間オニが立っていた。


 この場に立つ、その殆どに殺意を向けて。





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