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ハイイロ ノ カナタ  作者: mild
第一部
13/281

侵入

「・・・・・・おいおい」


今俺がいる部屋の中には膨大な量の兵器が転がっている。


あのライターが兄貴の部屋で見た覚えがあったのを思い出して、兄貴が持っているであろうものを想像して作ってみたのだ。


そう、兵器である。


兄貴は兵器だけではなく、ありとあらゆる物をだだっ広い部屋に、足の踏み場もないほど散らかしていた。


おそらくあの辺の物を参考にナノマシンは記憶していると見た。


そこで、襲撃に備えて武器を作ってみると出るわ出るわ。名前まではよく知らないが、ハンドガンを始め、アサルトライフル、サブマシンガン、スナイパーライフルにロケットランチャー、TNT火薬や、作ってはいないがあの部屋には戦車もあった気がする。


作ってから一時間ほど経つが、武器の類はまだ消滅する気配を見せない。おそらく、先のライターと比べて、慎重に作ったせいだろう。


半永久的には無理そうだが、2,3時間は持ってくれるだろう。


ふいにドアがノックされる。


おそらく、情報収集と食料調達に行っていたフェンだろう。


とりあえず、武器をすべて分解して消し去る。


そして、ドアにナノマシンを送り疑似神経を使って、3メートルほど離れたドアを開けた。


ドアの向こうでフェンが片手に食べ物を持ってキョトンとしている。まぁ、自動ドアなんてないだろうしな。



「やっぱり、ハルユキは魔法使い?」


「違うって。ま、それはいいから座れ。飯食いながら作戦会議だ。」







「そうかやっぱり明日処刑なのか、その王女は」



フェンは、無言でこくんとうなずく。その眼には不安はなく、宿っているのはただ覚悟。ただ怯えているよりはずっといい。



「じゃ、やっぱり今夜忍び込んで助けるか。」



当然のことを言ったつもりだったが、眼の中の意志が緩み、フェンは意外そうな顔をしている。



「・・・・・・どうした?なんか変か?」


「ハルユキは正面から突っ込むと思ってた。」



・・・・・・・・・こいつ俺のことをどういう目で見てんだ。



「そんな訳あるか。城だぞ?一人で突っ込めるかそんなモン。」



あの武器と、新しい身体能力があればまったく不可能ではないと思うが、効率が悪いし、人質とかとられたら面倒だ。


こっそりとやるに限る。



「お前もそのリュートン?ってやつに目に物見せてやりたい気持ちも分かるが、時間がない。まずは救出が優先だろ?」



またしても無言でうなずく。



「だがまぁ、そうだな。正面から突っ込むか・・・・・・。そうだな、それでもいいかもな。」



いろいろ忙しかったので昼飯は食べられなかったので、腹の虫が作戦会議の中断を告げる。


窓の外を見ればちょうど暗くなってきた頃だ。もう晩飯を食べてもいい頃合いだろう。


実はさっきからフェンが持ってきた食べ物が気になってしょうがないのだ。


フェンに飯を食べようと切り出し、袋の中から現れたそれに手を伸ばした。







「いやー、それにしてもおいしかったな、ありゃ。」


先程食べたフェンのおすすめとやらの料理が収まっている腹をなでながら感服しながら城の門を見上げる。空の真ん中では中途半端な形の月がこちらを見下ろしている。


門番が二人ほどいたが、今は気絶している。




「さて、行こうか。」



持っていたろうそくが燃え尽きる。フェンは俺と一緒に下準備をしたあと、別行動をしている。このろうそくが燃え尽きたら行動開始だ。フェンも動き出しているだろう。


とにかく俺の役目は、目立って暴れることだ。


ゆっくりと門のまえに近づき、手を触れる。



硬い門だ。



それなりに古いが、この城を長年守ってきた歴史が感じられる。



少しだけ気が咎めたが、息を思い切り吸い込み、拳を振りかぶる。




「せい!!!!」




全力で、拳を扉に叩きつけた。


ものすごい轟音に空気が揺れる。


一瞬遅れて、高さ15メートル横幅10メートルほどの巨大な扉が、その重さを感じさせない、まるでミサイルの直撃を受けたかのように吹き飛んだ。


扉は城の入り口の辺りまで吹き飛び、数人の兵士を巻き込み停止した。


ちらほら兵士がいるが、一番俺に近い兵士で3メートルほどしか距離がないのに、口をぽかんと開けたまま動かない。


・・・おっといけない。




「お邪魔しまーす。」




紳士のマナーを忘れてた。


そこでようやくその兵士が反応した。




「し、侵入者だあぁーーーーー!!」









城中に響き渡った轟音を合図に、フェンはハルユキに開けてもらった進入用の穴をくぐって城内に入り込んだ。


この壁は魔法干渉がやりにくいように作られているのにハルユキは苦もなく必要なだけの穴を開けた。


いったいハルユキは何者なんだろうか、という疑問がフェンの頭によぎるが、直ぐに思考を切り替え、ユキネのいるはずの軟禁用の部屋に向かう。


位置は把握できているので、直ぐにいけるだろう。そう遠くもない。


幸運にも兵士の一人にも会わずに到着することができた。


もともとそんな大きな国ではない上にクーデターの時に半分ほどの国王派の兵士を殺し、さらにそれを隣国に悟らせないために町や国境に兵を集中させているので、実際この城には200人ほどしか兵はいないということだった。


それも欲にくらんだリュートンにつれられた惰弱な兵ばかりだ。


それを見越した上での陽動作戦。


しかしそうそう思いどうりに進むものでもなかった。




(門番が・・・・・・、いない?)



さすがに敵襲で、夜中を狙ったとはいえ門番さえいないのはおかしい。扉に近づいても中から人の気配もしない。扉を開けて中に飛び込むが、


人っ子一人いない。




「・・・・・・どこ。」




部屋を何度も見渡すがユキネの姿は見えない。


ここにいないとなれば、おそらく、



「・・・・・・牢、地下牢。」



人を捉えるところと言えばもうそこしか思いつかない。本当にそこにいるかは可能性としては微妙だが、とにかく行ってみるしかないだろう。



踵を返して、部屋を飛び出した。







「………せっ!」


首筋に手刀を叩きつけ6人目の兵士の意識を奪う。


ハルユキの役目は時間稼ぎなので、派手にふるまう必要はない。かかってきた敵を無力化するだけで十分だ。


曲がりなりにも兵士なのか俺の動きを見た兵士たちは無暗に襲いかからずハルユキを囲んでじりじりと間合いを詰めてきている。


その間にも次々と兵士が出てきている。…が、せいぜい30人ほどだ。相手が一人しかいないのを見て城に戻って行った兵士もいた。




(やっぱり一人だけじゃ囮にもならんか……。)


「何をやっている!そんな奴は囮に決まっているだろうが!」


「副長!しかしこいつなかなか腕がたちます!」


「それでもこんなに人手はいらんだろう。魔術兵3人を残してその他の兵は城の見回りに戻れ!」



指示役の人間が出てきたことで、ますます人数が減っていく。だがこれくらいは想定内だ。



「はっ、もう遅いんだよ。」


「なん……」




兵の副長の言葉を遮って再び轟音が城の敷地内に響き渡った。




それは、俺が扉を突き破ったときの音をも超える轟音だったため、周りの兵士たちも俺への警戒を忘れ、周りを見渡している。


その隙に一瞬でハルユキは兵士達の視界から消えた。



「何が起こった!? 報告しろ!」



いち早く我に返った副長が声を荒げる。まだハルユキが消えたことには気付いていない。


その後はゴニョゴニョと一人で呟いている。


どうやら離れた人間と連絡を取る術が存在するようだ。




・・・・・・それをハルユキは遠く離れた城の2階の壁から眺めていた。


報告を受け終わったのか、俺を見ていた時の何倍も緊張を含んだ目で叫んだ。




「全兵に告ぐ!!敵襲だ。敵の数は詳しくは不明。場所は城の塀沿いに合計6カ所!それぞれの場所にそれなりの数の敵がいると予想される!

 兵は2班ずつに分かれ、敵の応対に回れ!!……おい、さっきの奴はどうした。」


「すみません。いつの間にか…。」


「くそっ!やはり囮だったか。お前らはさっきの奴を探せ。私は直接上に報告してくる。」


「はっ!」



おーおー結構何とかなるもんだな。


視覚神経、触覚神経やその他もろもろ、つまり最低限の自律神経をつけた銃器たちが崩れた壁の向こう側で奮闘していた。


一か所の壁の穴につき7機のガトリング銃を配置してある。


同時にスモークを大量に使ったので崩壊した壁の土煙と相まって、相手は何と戦っているかもわかっていないだろう。


また一人ガトリングガンをまともに受けて吹っ飛んだ。


まぁ結構分厚い鎧を着ているので死にはしないだろう。



つまり、作戦とは二重の囮だった。



単純な手だが、俺が囮だとも分からなかった連中がほとんどなら、銃器達の襲撃もまた囮だとは思いもしないだろう。


今日は風もないので、後20分ほどは時間稼ぎができるはずだ。


この後は俺もフェンのように、城を歩き回って姫を捜さなければならない。



この時間になっても合図がないということはおそらく元いた部屋にはいなかったのだろう。



まだ兵士の何人かは城の中に残っているだろうが、見る限り十分の一以下だろう。


いったん目立たないように地面に降りて、窓から城の一階に飛び込んだ。



ひとまず周りを見渡そうとするが、そんな余裕はなかった。




「え?」




右から土の、左からは水の槍が俺に向かってきていた。




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