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ハイイロ ノ カナタ  作者: mild
第一部
11/281

魔法、剣、拳


「全く何なんだい。あいつは……」


 俺を文字どうりボロ雑巾にしたあと、モガルはフェンにあらためてお金が入った布袋を手渡した。


「私の恩人。大丈夫、……悪い人じゃない、多分」

「まぁ、それはまぁ何となく分かるけどさ」

「大丈夫、信頼出来ると思う」

「……そうかい。あんたがそう言うならそうなんだろうね。小狡い事出来るようにも見えないし」


 そう言ってため息をつくと、つかつかと俺の方に歩いてきた。


「ほら、受け取りな」


 ポン、と胸の上に布袋を放り投げた。中には少なくないお金。


「いいのか?」

「あんたよく見りゃ、靴も服もぼろぼろじゃないか。ん?そりゃ血かい? 何処かに怪我でもしてんのかい?」

「見ての通り健康そのものだ。怪我なんてどこにもない」

「まぁいいけどね。そんなことよりそれはただでやる金じゃないよ。それは報酬だ。フェンを手助けしてやってくれ。」


 フェンとモガルはおそらく家族関係ではない。フェンがモガルを呼び捨てにしているので間違いないだろう。


 俺にそんなことはほとんど分からないけど。でもフェンのことを心配してる目には、家族を想う気持ちがあふれていて。


 少しだけ、昔を思い出して、そしてやっぱり少しだけ、心が揺れた気がした。



「ほら、さっさと行った行った。ささっと救い出して、ほとぼり冷めたら王女サマもつれてまたここにきな。そん時は豪華な飯をごちそうしてやるから。とびっきりのやつをね」

「タダで?」

「働き次第だね」

「よーし、後悔すんなよ」


 不敵に笑って見せてから、ハルユキは立ち上がった。


「じゃ、張り切っていってみますか……」


 俺が立ち上がると、フェンがトコトコとそばに寄ってくる。


「まずは、武器屋にいく」

「りょーかい。じゃーな、ヤンババ。飯、おいしかった。」


 振り向いた瞬間、包丁が飛んできた。もうババァと呼ぶのはやめよ。身が持たん。




「……まったく。変なやつだったわね。最後までババァ呼ばわりしやがって……」


 今度来たときには挨拶代わりに伝説といわれた左ストレートをぶち込もうと心に決めた。



「あ……皿洗いしないで行きやがった。……ま、今度来たときにさせるか」


 そうつぶやきながらキッチンにつながる戸を開けた。


「なっ……」


 キッチンにはいると直ぐに目に入る物があった。

 これでもかと言うくらいに積み上がった大中小の大きさそれぞれの皿。

 昨日の分の皿のほとんど、しかも昨日は団体客が入ったから軽く500枚はあったはずだ。


 それが、綺麗に洗われて積まれている。


「あれだけの時間でこれを全部やったのかい……!」


 天井に届きそうなほどに積み上げられた皿を前にただ呆然とする。


「……やっぱり、とことん変なやつだったねぇ」


 こんな凄いのか無駄なのか分からない特技を見せられても安心できないが思わず、苦笑はこぼれた。



    ◆




 店を出て一時間ほど歩いているが未だにお目当ての武器屋に到達できていない。この町は城下町だけあって、城の周りに半径10キロメートル以上の巨大な街として機能している。


 まだ朝だが、少なくない数の人が往来を闊歩していて、昼に近づくにつれて、まだまだ人数は増えていくだろう。



「中々にぎやかな街だな」

「うん、変わってない。でも町並みは少し、かわってる」

「四年ほど捕まってたんだったな」


 一時間ほど歩いている内に、だいたいの事情は聞いていた。魔法の腕を認められ、王族の近衛に決まったその日にクーデターに巻き込まれ、王女様の世話係として一緒に閉じこめられていたらしい。



「……着いた、武器屋」


 そうこうするうちに武器屋に到着したようだ。剣と斧が交差した絵に板が乗って看板になっている。


 武器屋だそうだが俺にはなんて書いてあるかも分からない。この街の到着して気づいたのだが、俺はこの時代の字を読むことができない。


 しかしどういう訳か話している言葉は分かるのだ。何とも変な感じだが、まあ話している言葉が分かるのだけよしとしている。



「いらっしゃい」


 武器屋にはいると人の良さそうな声が聞こえてきて、それと同時に奥の方から、年齢は50歳ほどのこれまた人の良さそうな顔したおっちゃんが顔を出した。



「……魔装具を一つ欲しい。お金はあんまりないので、指輪型のものを」

「へぇ、お嬢ちゃん魔術師なのかい。まだ若いのにたいしたもんだ。そっちのお兄さんはどうする?」

「……俺は魔法なんて使えないからいらない」


 おっちゃんはそうなのかという顔をして、奥に注文の品を取りに行った。高価なものは裏に置いてあるらしい。それはともかく,


「何でお前が驚いてんだよ」


 フェンがびっくりした顔でこちらを見ていた。


「……ハルユキ、魔法使えるって言ってた」


 あーそう言えば、丘で火つけたときにそんなことを言ってたな。でもまさか魔法があると思っていなかったから、冗談だったんだけど。


「いやいや、俺が使ってるところ見たことないだろ?」

「でも……じゃあ、"その左手は、どうやって?"」

「まぁ、体質なんだよ。昔からな、今ほどひどくはなかったが、普通のやつより力が強くて、怪我なんかも直ぐに治るんだ」


 会話をそこまで終えたとき、奥からおっちゃんが出てきた。




「うちにあるのはこれだけだね、えー、と銀貨5枚だね」

「……高い」

「しょうがないだろ。このところ税が高くて、うちも火の車なんだ。必要経費だって国は言うけど、ホントのところはどうなんだろうね。私は昔の国王の方がよかったと思うんだけどね」


 その話を聞いて普段はポーカーフェイスなフェンの表情がほんの少しだけ曇った。


 真正面から戦うわけではないにしろ。これから挑むのは国王つまり、国なのだ。それを再認識して不安になっているのが伝わってくる。


「大丈夫だよ。俺がいるだろ」


 できるだけやさしく頭をなでてやった。実際俺もそこまで自信があるわけでもないが、この少女の前では少なくとも王女を救いだすまでは拠り所であってやりたいのだ。


 と、元気づけるためにやったのだが、今度は顔が真っ赤でうつむいている。あ、あれ?怒ってんのか?


 そっか、子供扱いは嫌だったのか。


「あ、すまん」


 さっと手をどける。


「あっ……」

「ん?…どうした?」

「……なんでもない」


 ああ、やっぱりご機嫌斜めだ。


「やれやれ、兄ちゃん、ずいぶん女泣かせだねぇ」


 泣かせてはいない。怒らせたけど。


 おっちゃんが、非常に憐れんだ目で俺を見つめてため息をついている。小さいことに気が回らないのは昔からだ。ほっとけ。


「さてフェン、そろそろ行くか。次は宿でも探そうぜ」


 しばらく店の中を見て回り、もう見る物もなくなってきたので、フェンの機嫌も取り直そうとフェンに明るく声かけてみる。


 しかしフェンは俺が手を離した後、顔を真っ赤にしたまま、ふらふらと鎧とかがあるコーナーに行っていたので、声が届かなかったようだ。

……何で鎧なんだ?




 不思議に思いながら、一心に鎧を見つめているフェンに近寄った。


 近くに来てみると鎧を見ているというより、ぼーっとしているようだ。ときおり、自分の頭に手を載せ何か確かめるようなしぐさをしている。


「フェン…? 聞いてるか?」


 声をかけると同時に右手で肩に触った。


「ひゃっ」

「うおっ!」


 な、なんだ?俺何かしたか?



「ハ、ハルユキ。な、なに…?」

「い、いや、そろそろ次に行こうって言おうとしたんだ」

「わ、分かった。行く」


 フェンには珍しいくらいのあわてっぷりに俺の方もなんだか落ち着かなかった。


「よし。じゃあ行くか。もうそろそろ宿も取ったりしたほうがいいだろ」


 時間はまだ昼ごろだが、明日のことも話し合わなければならないし、宿をとってから動いたほうが何かと都合がいいだろう。


「うん。…あ、ちょっと待って」


 いつものクール&ビューティにもどったフェンが出て行こうとする俺を呼び止めた。



「ハルユキは武器、いらないの?」

「………いや、俺は素手で十分だ。戦争する訳じゃなし」


 一瞬、剣を持って戦う昔のおれが脳裏によみがえる。剣は使わない。それはもう決めた事だ。

 武器は己の拳で十分なんだ。そのために鍛え上げたのだから。


「………そう」


 俺に何か含むところを見つけたのか、フェンは少しだけ、間を開けたが、何も言わなかった。


 まぁわざわざ言うことでもないので、助かった。



「よし、じゃ行くぞ」


 武器屋のドアを開けて外に出た。


「うおっ。まーた人が増えてんなあ」

「もっとこれから増える」


 まだ増えんのか?もう人の海みたいになってるんだが。


「こりゃ、はぐれたら一大事だなぁ」

「そう」


 しょうがないので、はぐれないようにフェンの手を掴んで歩き出す。


「あっ……」


 ハルユキはフェンの顔がほんのり赤く上気していたことには気づかなかった。




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