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ハイイロ ノ カナタ  作者: mild
第一部
10/281

 重苦しい音と共に、ドラゴンがその巨大な体を地面に沈ませた。



 見た目ではわからないが、間違いなく絶命しているだろう。体の内部は見るも無惨な状態になっているはずだ。


 その起因、命を奪うきっかけになった右手を睨め付け、握りしめる。


 何の感慨もわかなかった。人ではないにしろこれだけ大きい命を奪ったのに、だ。

 だが、人は必要とあらば命を奪うのに抵抗すらないということを、俺は知っている。俺もその例外ではない。


(さてと……)


 気をとりなおして、フェンと合流する事にする。


 フェンはさっきの魔法っぽい何かを放ったところにそのまま横たわっていた。


 ちょっと心配になり駆け寄るが、その顔に深刻なものは見つからない。


「なーにやってんだ、ロリっ娘」


 ハルユキの軽口にむっとしながらも、簡単に説明してくれる。


「魔装具がなかった。魔力が全部外に出たから、回復するまでは動けない」

「ふーん。んじゃ、またおんぶだな」

「ん……。っ…それ……!」


 フェンの視線を追い自分の左腕に目をやる。

 ズッタズタにスプラッタだった。痛みが麻痺していたので忘れていた。


「ああ、まぁたいしたことねぇよ」


 俺に限りこの程度の怪我は、そのままの意味でたいしたことはない。

 だが、血がボタボタと滴っているのはちょっと後々面倒なので、止血だけはする事にした。

 ズタボロになったパーカーの袖をちぎり、上腕部に巻き付ける。


 黙々と止血をする俺を横目で見ているフェンに思ったことを告げた。


「お前さ、死ぬためにここに来たんだろ」

「……どうして?」

「いや、ちょっとしたことなんだけど、なんつーか、お前は生きようと抵抗することより、諦めることを優先してるように見えたって感じかな。……そう言う奴は見慣れててな。割とすぐにわかったよ」

「……生きていても、できることがないなら……しょうがない」

「死んだら、何かあるのか?」

「友人が、死なないかもしれない」


 拳骨。


「っ!?」

「諦めたふりすんなよ。お前が諦めなかったからアレを倒せたんだ」

「……」

「陳腐な台詞だがな。人生の秘訣は最後まで諦めないことだぜ?」


 ほとんど適当に巻きつけただけだが、何とか血は止まったようなので最後に歯で結んで止血を完了する。


 そこまで終えた所で、ハルユキは己の言葉を思い返して顔を顰めた。


「説教臭くて悪いな。これでも年寄りでな、聞いてやってくれ」

「年寄り……?」

「んで、お節介ついでだ。お前はあと何を諦めてんだ?」

「何、を……?」

「できることがないって言っても、やりたいことはあるって事だろう」


 そう言うと、フェンは考え込むように顔を伏せた。

 葛藤するように目を泳がせて、最後に見定める様にこちらの表情を見据えた。

 そして、にわかに目の色が変わった。


「貴方の、その、気紛れでも、善意でも、企みでも。何でもいい。それに縋る事を許して貰えるのなら」

「許す」


 フェンが戸惑うように肩を揺らした。

 どうして、と目が語っていたがすぐにそんな事を問う事に意味がない事に気付いた。

 ハルユキとしても、彼女が納得するような答えを持っていないからだ。


「……助けたい人が、いる」


 どんだけ時間が経っても変わらない。やりたいことをやるだけだ。結局それが一番楽しいんだと、そう言っても彼女は分かってくれないだろう。



    ◆



「で、出たぁ~~。っておい」


 人の苦労も知らずに眠り込んでいるフェンを上に放り投げる。


 悲鳴も上げやがらない。落ちてきたフェンを無視するわけもいかず、キャッチして地面に立たせる。


 そこからフェンは一息ついて、周りを見渡して、最後に俺を見て、もう一呼吸おいてやっと一言、


「……何?ハルユキ」

「……もういいよ」


 再びマイペースモードである。まったく最近の若いもんは。


「ともかく、お前が来た町ってのはあれだな?」

「……そう、あれ」

「あそこに行って、スノウ・フィールド・・・何タラ王女を助ければいいんだな?」

「スノウ・フィラルド・ボレアン・メリストエニス・ド・メロディア王女」

「そいつな」

「そいつ」


それはともかく、とりあえず。とりあえずはだ。

むくむくと目を覚まし出したあれが問題だ。


くー、と食欲と言う名のそいつが腹の虫を通して意思表示をする。


「飯食おう。腹減ってるだろ?」

「……さほど」

「もっと食えよ、若人。育たんぞ!」


ひょいと、あまりに軽いフェンの体を小脇に抱えてハルユキは走り出した。

飯飯飯飯──! 一億年ぶりの!






「ば、馬鹿な……め、飯」


 実に一億年ぶりの飯は残念なことに食えなかった。実に切実な問題が立ちはだかったのだ。


「金がねぇよぉ……」


 あの部屋ではなぜか食う必要がなかったし、食う物もなかったので、外の世界に出たときに一番期待していた物の一つが食事である。


「たのむぅ、少しだけぇ……」


 街のはずれにあった酒場らしき店のカウンターにしがみついて店の店主であろういい年のおばさんに拝み倒す。


「だめだね。金がない客は客じゃないんだ。帰って働いて金ができたらまた来な」


 このクソババァ!少しはひもじい人間を助けようとぐらい思わねぇのか!! ヤンキー上がり見たいな顔しやがって、手前みたいな奴がいるから襟足長い子供が増えるんだよ、と叫び散らしたくなるが、そこは必死に飲み込む。


諦めるな。先ほど偉そうに説教かましたばっかりだ。投げ出さずに観察し思考を回せ。


「──あ、小じわ発見」

「このクソガキ。マナーってもんがあるだろう」

「お願いします。うら若いお嬢さん……」

「そういう事さね。モアル貝のリゾットと特製野菜スープだ。残さず食べな」

「おお!」

 

 顔を突っ込むように皿の中身をかっ込むハルユキの背後から、小さな影が一歩婆に歩み寄った。


「……あいかわらず……モガル」


 飯にがっつく隣を通り、ヤンババにフェンが親しげに話しかけた。ヤン(キー)ババ(ア)が目を見開く。


「あんた、フェン……かい……?」

「うん。……久しぶり」

「生きてたのかい……? あたしはお上から4年前に戦いに巻き込まれて死んだって聞いてたから、てっきり、もう……」

「ごめん……とにかく、ただいま」

「あ、……ああ!お帰り!! 腹へってるだろう? ちょっと待ってな、今何「ババァ、おかわり!! ダッシュな!」か……」

「………」

「おかわり。早く」


 すいっと首筋に薄ら寒い空気を感じた。


「……一つ、あんたは金を持ってないんだからおかわりなんてしゃれたモンはない。食った分もしっかり働いてもらう。二つ、私はまだ花の30代であり決して、決してババァではない。これだけでも(特に二つめ)十分有罪だ。だがあと一つ……」


 今にも爆発しそうな声でヤンババが続ける。あれ? だれこの悪鬼羅刹。


「空気は積極的に読もうぜ?」


 その怒号と共に罰の一撃は俺の意識を奪い、代わりに精神的な傷を置いていった。






「なるほど、リュートンにねぇ……」


 今フェンが昔世話になったというモガルという、ババァにいきさつを話している。


 俺もついでに聞きたいところなんだが、今俺は絶賛皿洗い中。


「…………チッ、糞ババァ」


 ぼそっと悪態をつく。ホントにぼそっとだ。隣にいても聞こえないぐらいだろう。がしかし、それでも俺の頭を何かが鷲掴む。


「………痛いです。お姉さん」

「はい。お姉さんだよ。手が止まってるけど、つまらないかい? 皿洗いは」


 言いながらヤンババの右手が俺の頭を砕かんばかりに力を増していく。


「とんでもありません。ここで食器類を洗っていると、まるで自分の心まで洗われていくようです」

「そうかい。ならこれも追加だ。これだけ洗えばあんたの心もずいぶんと綺麗になるだろうよ。」

「おまっ……! 今洗った分の十倍はあるじゃねぇか!ふざけんなクソババァ!!」

「ババァ……?」


 言葉は要らない。再び俺の頭蓋骨が悲鳴を上げ始めるのならば。


「よぉし!じゃんじゃん皿持ってこい!!ありったけだ!片っ端から俺がかた付けてやるよ!!」

「それでいいんだ」


 俺の憎しみの視線を軽く流してモガルはフェンの元に歩いていった。


「それじゃ、直ぐに王女様を助けに行くんだね」

「……うん」

「なら急ぎな。確か明日が処刑日のはずだ。もうあまり時間はないだろう。……ほらこれ使いな。少ないけど必要だろ?」


 小さな布袋をフェンに差し出した。金属がじゃらつく音がする。

 この時代のお金が何かはわからないが、タイミング的にはおそらく中身はお金だろう。


 俺はその袋をしっかりと受け取った。横からさっと。


「ありがとう、ババァ。このご恩は三時間もすれば忘れるよ」

「…………折って、刻んで、潰して、それから埋める」

「……完全犯罪?」


 悪鬼、再び。




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