第一章一幕目「鬼武者くノ一は密書を奪いたい」
第一章の一幕目をご覧頂き、ありがとうございます。
こちらはノクターンノベルズに掲載の成人向け小説「ニンカツ! 新米忍者はモンスター娘と妊活したい!」の全年齢版となります。
主人公の石太くんやヒロインたちの『とってもエッチなニンカツの様子』をお楽しみ頂く場合は、ノクターンノベルズ版をご覧頂けますと幸いです。
それではどうかお楽しみ下さいませ。
「喰ぅらいやがれぇッ! 大鉄球ぁーーーーッ!!」
「ぐはああああああっ!!」
怒号と共にぶん投げられた鋼の塊が、逃走中の忍者を一人、吹っ飛ばした。
忍者、である。
照明の多い市街の闇に溶け込みやすい、消炭色の都市迷彩を施された頭巾、忍装束、脚絆、襟元に見えるは鎖帷子。
古来より言い継がれた忍者の姿だ。
何よりビルの屋上を駆け抜け、誰にも見られず宙を飛ぶ様を、忍者と言わずなんと言おう。
ならば、彼らを追う者も忍者か。
然り、と言いたいところであるが。
「待っちやがれえっ! もう一発ぶつけんぞ、この!」
常人の可聴域と異なる忍者の発声法で喚いたのは、ド派手な赤褐色の巨躯で追走する鎧武者だった。
ビル風に逆巻く焔めいた蓬髪、短双角の鉢金が紫電を散らしながら額に輝く。
右目は黒鉄の鍔で覆う隻眼、口元には牙が覗く猛々しさ。
威勢よく突き出した胸当ての下は、黒漆の臍ピアスを施した強靱なこと間違いない腹筋を見せつけて。
肩を護る大袖は右肩のみ、スカートの如き草摺を、こちらも素肌の逞しい大腿が跳ね上げている。
手甲や脛当ては付けるも、頑丈な踝も露わに裸足で駆ける様は野武士か鬼か。
しかも胸が大きい。
胸当てがはったりでなければ、堂々たる爆乳。
そう、忍者を狩る者は、くノ一なのだ。
背に大金棒を背負い、鉄球を投げてコンクリを砕こうとも、野趣溢れ躍動感に満ち、肌も露わなくノ一である!
なぜくノ一が戦うのか?
くノ一は本来、色仕掛けなど女性の武器を用いる工作員のはず。
しかし少子化の影響は裏社会にも及び、さらに深刻な理由があった。
忍者が死にすぎる!
戦って死。秘密を守って死、非情の掟で死、事故死、過労死、ショック死。
忍者募集、明るく楽しいアットホームな職場です。などと求人できる訳もなく、忍者男子が激減!
かくして、くノ一が戦う時代が否応なく到来したのだ!
「逃げるだけかぁ名無しの木っ端ども! それともオレが軒猿怪忍十三妖の一人、霍乱の桜雅と知って怖じ気づいたかよ!」
「怪忍……っ! よくも『マの三八』パイセンを!」
逃走者の一人が、思わず呻く。
軒猿の怪忍と言えば妖怪の血を引き、中でも桜雅は雷気使いの剛力鬼女、霍乱の二つ名も悪名高いくノ一だ。
しかもムキムキマッチョの変態集団、ビルド忍者の一員でもある。
忍者にあるまじき大胆不敵。
己の正体を明かすなどあり得ぬ所業だが、桜雅は量感たっぷりに胸甲を盛り上げる豊満な乳房を跳ね上げ、ニヤリと笑い独りごちる。
遁走に専念していた忍者らが動揺し、たまらず歩を緩めたからだ。
(よしよし、挑発に食いついてきたぜ)
「おのれェ! 言わせておけば!」
屋根から屋根へ飛ぶ四人のうち、『マの四六』と呼ばれる下忍が憤激に頭を巡らす。
睨めつけるは仲間の仇、彼ら甲賀から密書を奪わんとする大鉄球の使い手。
「彼奴は鉢金の放電絡繰りを用い、電波を攪乱しておる様子。通信機は役立たず救援は見込めませぬ。ここは腹をくくって」
「おお、奴を倒すのみ! ここは我らに任せ、小頭と七四はお逃げを!」
今一人『マの四三』も二人で戦う決意を固め、勇む余り芝居がかった口調で進言する。
チラチラと後ろを見て遅れがちな最後尾の『メの七四』が、一拍遅れて挙手した。
「殿なら若輩の僕が!」
「ダメ太は弱すぎて役に立たぬ!」
「そうともバツ太、我らに任せよ!」
「こりゃ四三、四六! 七四をあだ名で呼ぶでないわ。気をつけい」
「「すみません!」」
愛称など本人特定に繋がる個人情報だ。
粗忽な二人を窘めつつ、黒茶の渋い装束を着る年長者の小頭は、今のやりとりに思案を巡らせた。
(安い挑発に乗せられ功を焦るか……青い。青いが、しかし)
敵は鬼にして忍、その戦闘力は強大。
古参の小頭は肌身に染みている。
このままでは逃げ切れず、誰か一人で立ち向かっても足止めにならず。
さりとて全員で迎撃すれば、全滅のリスクが大きい。
三人で戦えば一人は逃がせるが、この先に伏兵があるとしたら、最低でも二人一組は崩すべきではない。
となれば。
戦力の逐次投入になるが止む得ぬと、小頭は断を下した。
「よし七四は拙者に続け。四三、四六は手柄を立てよ! いざとなれば労災申請は任せておけ!」
「「承知!」」
小頭と七四が遁走の脚を早めた。
都内の道路は深夜でも往来がある。速度優先かつ人目を避ける為、在来線が二本、新幹線も併走する線路内へと侵入した。
忍務前の事前確認で、この時間の保守点検は無いと知ってのこと。
後の二人も続いたのは、悪鬼迎撃の地の利を得るため。
殿を任され血気に逸る二人は、拳をガッと打ち合わせて気合いを入れた。
「四六、あれをやるぞ!」
「おう、四三! 二つ名持ちの怪忍を仕留めれば金一封は確実。準備万端、いつでもいいぞ! 臨兵闘者皆陳列在前!」
後方から迫り来る敵に、早九字を切る四三。
その両手にぬるりとした光沢の十字手裏剣を十枚、左右の五指に握りしめるや、桜雅に大音声を放つ。
「我ら名も無き下忍といえど、月給十八万三千七百八十八円、危険手当一件あたり八万円とんで三十二円の意地!」
「世知辛ぇな、お前ら!?」
長引く不況下、忍者も危険を冒さねば手取りが少ない。が、あまりの薄給ぶりに、桜雅は思わず同情した。
「特殊工作の専門職を、なんで安月給でコキ使うかね。おう! 天晴れ口上、かかって来やがれ!」
成果主義が著しい忍者の金一封は桁が違う。少なくとも三桁から四桁万円、正に一攫千金だ。
頭巾に隠された四三の双眸が闘志と欲に燃え上がる。
いよいよ線路が大きく曲がる大コーナーに差し掛かった所で、いざ振り向くや否や四三は、回転しながら横っ飛びに十の凶刃《手裏剣》を撃ち放った。
「思い知れ、高給取りの化け物ッ! 空牙螺旋三連刃!」
まっすぐに追走する敵へと、妬み嫉みを込めた十字の刃が弧を描いて飛ぶ。
一枚一枚が絶妙な軌跡で目標の左右と頭上を押さえ、逃げ道を塞ぐ巧みな投擲。
矢継ぎ早に三回、計三十枚の大編隊となって桜雅に襲いかかった。
この弾幕で、空いているのは前しかない。
「面白ぇ、その手に乗ってやらあ」
桜雅はドンッと地を蹴り、加速した。
左腕に鉄鎖を絡ませた大鉄球を、再び投げようとした矢先に。
「四六、やれいッ!」
さらに追撃の手裏剣を構えつつバク転する四三が飛び越えたのは、立ち止まって投擲姿勢に入っていた四六の頭上。
投手が手に握るのは、大人の脚ほどもある巨大な弾丸ーーいや戦車砲弾!
「JM三三翼安定徹甲弾、見事受けてみろ高給取り! 甲賀忍法火遁の術、明日屠鹵魔貫球ううううっっっ!!!」
――ズァッッ!!
大地を踏みしめ、全身の筋骨を力任せに捻る歪音が轟く。
驚天動地の一投を放たんと、右足を高々と掲げ腕を大きく振りかぶって。
砲から撃ち出さないため爆圧を受ける装弾筒は無く、重硬金属製の研ぎ澄まされた侵徹体を、その豪腕で放つ超絶秘技。
その弾速は戦車砲に匹敵する、毎秒千六百五十米!
追いつ追われつの相対速度も加わり、放てば命中まで一秒かからぬ必殺の間合い!
「これぞ番狂わせの隠し球よ! 鉄球ごと大穴開けて、くだばりゃあ!」
裂帛の気勢を放ちつつ、これこそ忍者の虚言!
本命は、四三の手裏剣である!!
四六の明日屠鹵魔貫球は必殺ゆえ、敵は砲弾を避け、威力の低い手裏剣の群れに飛び込むしかない。
だが四三が放った三十の刃には、象すら即死させる猛毒が仕込まれている。
一枚でも肌を掠れば即死の空飛ぶ罠、それに追い込む必殺の徹甲弾。
いずれも下忍には過ぎた得物だが、二人は爪に火を灯す思いで銭を貯め、この日のために準備してきたのだ!
「これで金星! 金一封! 一攫千金は頂いた! キィエエエエーーッ!!!」
奇声と共に振り下ろす渾身の左腕。
ドゥンッ! と放たれる超絶魔球!
が、しかし投球の瞬間ーー四三の指が徹甲弾から離れた刹那、桜雅は砲弾を避けず真っ直ぐ突っ込む!
「なにぃ!?」「避けぬだと!?」」
「ハッ! 戦車砲たぁ張り込んだな。だが、ちぃと気張りすぎだぜ!」
後ろ手に大金棒を掴む手が、前腕筋をみしりと膨張させる。
鉄針めいた剛毛がざわと生え伸びた、正に鬼の腕!
「軒猿忍法ッ! 殴魂跋騰ォーーーーッ!!」
――グワラガラガキイィィィンンン!!!
重硬金属の鋭い先端が桜雅の分厚い胸板を貫く寸前、大金棒が徹甲弾の横っ面を張り飛ばす!
「バカな!?」「ホームラン!?」
カァンっと鳴り響く快音と共に、弾む鬼女の爆乳!
打球ならぬ侵徹体が夜空へ消える長打コースで。
「斬り払いは防御の基本だろ? 榴弾だったら爆発したのにな。技名でネタバレご苦労さんっと」
装甲貫通が目的の徹甲弾ゆえ、爆薬は装薬されていない。
鋭く点にしか見えぬ重硬金属の矢を払いのけた、鬼の動体視力と反応速度、恐るべし!
しかし本命の、四六の手裏剣は健在。
「チィッ、まだだ! 怒濤蜂囲弾幕刃!」
置き去りにされたと見えて、四三の妙投で後方から桜雅を追尾し続けている。
更に四三は鬼を前後から挟撃せんと、執念深く三十の猛毒手裏剣を追い撃つ。
そして背の忍刀を抜き、桜雅を一突きに仕留めるべく、不退転の決意で迎え撃つ四六。
「かくなる上は労災覚悟で殺るぞ、四六!」
「おうよ四三! 俺、この仕事が終わったら焼き肉食ってサウナで整うんだ!」
「いざ高給取り!」
「死いねえええええええっっ!!」
――ガガガガガキィイイイイイインンンーーーーッッッ!!
「「どぅわぁあああああっっっっ!」」
桜雅の爆走体当たりが、忍者を二人吹っ飛ばした。
「いやだから体重差。大鎧着てる鬼に、正面からぶつかってどーするよ?」
その激突たるやトラックの如し。
憐れ四三、四六の姿は星空に消える。
「それに斬り払いは基本って言ったぜ?」
独りごちる桜雅の左手を軸に、周囲を旋回して手裏剣を弾き散らす大鉄球。
回転防御をくぐり抜けた数枚の刃も、大金棒ではたき落としていた。
「我が身を囮に手裏剣でトドメたぁ、イイ根性だったがお生憎様だ。生まれ変わってチートしろや」
両手が防御で忙しくても、右肩の大袖を盾に体当たりをかませば、敵をぶっ飛ばせるわけで。
積層装甲に執念の一枚が突き立つも惜しいかな、貫通せず。
気化拡散している毒気を吸い込んでも、残念ながら鬼は仕留められない。
「さぁって、おべべに毒の匂いが付いちまう前にっと」
桜雅は一歩も足を止める事なく、手裏剣を大金棒で叩き落とし、今の攻防で僅かな距離を稼いだ残る二人に牙を剥く。
「とっ捕まえて裸にひん剥くぞ、オラぁっ! イヤなら密書を渡しなぁ!」
初めまして。
あるいはお久しぶりです。
井村満月と申します。
第一章の一幕目をお読み頂き、ありがとうございます。
さて、何分『好き』を目一杯詰め込んだら、豪快な鬼娘の桜雅さんがさっそく大暴れしました。
この物語で最初に浮かんだキャラクターです。ええ、主人公より先に。
むしろ桜雅さんが主人公じゃないかな?
蓬髪、大袖大鎧、腹筋バキバキ臍ピアス。ビルド忍者って?
武器も大金棒に大鉄球と、ぜんぜん忍んでません。まるで暴走トラックです。
ぶつかったら異世界へゴー! マの三八、四三、四六はどうなったんでしょうね?
そんな彼女がどうなるのか、二幕目もお読み頂ければ幸いです。
現在、ノクターンノベル版は四章終盤まで連載中、下書きも六章を終えておりまして、増えて暴れるキャラ達にあたふたしながら推敲しつつ。
なんとか六章以降も続けていこうかと思います。
皆様にどうか楽しんで頂けましたら幸いです。
それでは次章でまたお会いしましょう!