お勉強タイム
鈴木絢斗くんは水泳部に所属しています。
「……でさ、これがこうなるだろ?そしたら答え出る」
「あっほんとだ!すごい!!」
麗らかな土曜日の午後。聡子を腕の中に包み、俺たちは線形代数の勉強をしていた。
すっかり来慣れつつある聡子の部屋。
最初はソファにそわそわ座っているのが精一杯だったのに、今やこんなにいちゃいちゃするようになっていた。嬉しい。
「ありがとう、よくわかった。ほんとにわからなくて困ってたの」
「聡子って数学ちょっと苦手だよね。よく通ったね、うちの大学」
くすくす笑いながら言えば、むっとしたのか俺の手をつねってきた。生意気な。本当にプライドの高いお姫様だ。
「てか、数学苦手なのになんで線形代数なんてとったの?」
「きかないで…!入学当初でやる気に満ちあふれてたの…!!なんでもできる気がしたの…!!」
あああと頭を抱える聡子がかわいらしい。
「なにも一般教養科目にそんなに全力投球しなくても…」
ごすっと肘打ちされた。痛い。
「俺がとっててよかったね」
初回の講義のとき。不安げな顔をした聡子が俺を見つけてほっとした様子だったのを思い出す。ちゅ、と首筋にキスを落とすと、くすぐったいのかきゅっと身を縮めた。
「…鈴木くんこそ、なんでとってるの?」
「実は俺、数学好きなんだよね」
「!」
信じられない、といった表情で俺を見た。
笑顔で続ける。
「わかりやすいから」
「…できる人はみんなそう言うよね…」
また腕をつねられた。八つ当たりだろ。
「そんなことする人は、胸揉むよ?」
耳元で囁くと一瞬で赤くなった。かわいい。
「…なーんて。冗談だよ、冗談。聡子が嫌なことはしないよ」
ぎゅっと抱きしめる。柔らかな温もりが心地よかった。しばらくそうしていると、聡子が口を開いた。
「じゃあ私が鈴木くんの胸に触ろうかな?」
「………はい??」
今、なんと??え、俺の何???
聡子が俺に向き直って、少し恥ずかしそうに言った。
「触っていい?…鈴木くんの胸板…っていうのかな?前から触ってみたいなぁって思ってたの」
「あ、い、いいけど…」
思ってもいなかった展開に戸惑い、舌がもつれる。
「ほんとに?ありがとう!」
とろけるような笑顔で言われ、胸が高鳴った。
聡子、触ってもいいけど、その後のことは保証できない。伝えるべきか迷った。
(…って服の上からかーい)
すごいねー!かたーい!どんなトレーニングしてるの?
さわさわと触りながら無邪気に質問してくる聡子を見ると、つーと涙が頬を伝いそうになった。
「水泳部でトレーニング室あるから。そこでやってる」
「そうなんだ。設備充実してるね」
「うーん…ランニングマシーンとか腹筋するやつとか、基本のやつがちょこっとあるだけだぜ?でも、他の奴らと勝負したりして、楽しいっちゃあ楽しい」
「あはは、男の子って仲良くていいね」
わっ、二の腕もすごいね!
何かのスイッチが入ったのか、さわさわと俺の体を触りまくる聡子。
人の気も知らないで、真面目にやってるからタチが悪い。
「…も〜〜それ以上触ったらお金取るよ?」
「彼女相手に商売しないで」
くすくす笑う聡子がかわいい。立膝になってて丁度彼女の柔らかそうな胸が目の前にあった。…飛び込みたい。
と考えるより先に体が動き、聡子を抱き寄せていた。
「…す、鈴木くん…」
「彼氏だから、許して」
すりすりしながら懇願する。はぁ。気持ちいい。
「だめ?」
上目遣いでおねだりすると、聡子が戸惑いながら目をそらした。
「だめじゃない…けど…」
「けど?」
「ちょっとくすぐったいかな?」
「俺もくすぐったかったから、お返し」
そう言いながらキスした。何度もついばむ。聡子とのキスは本当に気持ちいい。
ゆっくり押し倒した。
聡子の体が強張るのがわかった。
「…大丈夫、キスだけ。いい?」
こくん、と小さく頷いたのを確認してゆったりと唇を重ねた。ちゅ…ちゅ…と音が響く。
途中、はた、と聡子の背中が痛いかもと思い至り、抱きかかえてベッドに運んだ。
「あ、あの……」
「ん?背中痛いかなって思って」
そう言うとほっと安心した表情になった。
…そんなに安心されると、ちょっと複雑だ。
「鈴木くん、いつもいい香りするよね」
ちゅ、ちゅ、と聡子の唇を堪能していると、聡子が言った。
「香水?」
「あ、うん。え、もしかして俺つけすぎてる?」
思わぬ指摘になんだかへこむ。
「ううん、そうじゃなくて」
聡子が俺の頬に手を添え、ちゅっとキスしてくれる。
「鈴木くんに包まれてる感じがして、嬉しいなぁって言いたかったの」
そう言ってにこっとされ、一瞬で自分の顔が赤くなったのがわかった。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
がばっと抱きつく。聡子がまた俺にキスしてくれた。
「…聡子、好き。大好き」
「私も。鈴木くん、大好きだよ」
そう言って笑う彼女の唇を、噛み付くように貪った。
「ん……んっ……」
舌を入れると聡子もおずおずと応えてくれた。
嬉しかった。
角度をかえて何度も聡子の唇を味わう。
今日のお勉強の予定はあと少し残っているのに。
どうしよう、まだ当分、再開できそうもない。
テーブルに置いてあるグラスの氷が、カランとなったのが聞こえた。




