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ふたりの恋  作者: ゆり
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私の彼はキッスがお好き

「さーとーこ」


授業の後始末をしていると呼ばれたので振り返る。

ぎゅっ…と抱きしめられた。

バランスを崩し、少しよろめきそうになった。


「…鈴木くん」


「キスしたい」


返事を待たずに唇が重なった。ちゅっちゅっと音がする。


「振り向きざまに抱きついてきたら危ないよ。私がカッター持ってたらどうするの?」


「出た、ネットでよく見る◯◯だったらどうするの?議論。あれ、なんか意味ある?」


「……………………」


「ってわけでもう一回していい?」


返事をするのも馬鹿馬鹿しくなり、了承、の意味で目を閉じる。

彼の上品な香りがふわっと私を包み、優しいキスが降ってきた。

鈴木くんはどうやらキスするのが好きらしい。


「…ん…」


舌が入ってきた。ゆったりと絡まり、私を支配していく。頭の中がぼーっとしてくる。




鈴木くんのことしか、考えられなくなる。




「…色っぽい」


鈴木くんが唇を離して言った。

頬をむに、とつままれる。


「…なに?」


「聡子が好きすぎて。俺どうしたらいい?」


「……………」


恋愛に対して、こんなに情熱的な人だとは思っていなかった。はじめて会ったときはどちらかと言うと無愛想で、そのつっけんどんな物言いに怖い人という印象を持っていたのだけれど。


くす、と笑いが漏れた。


「もう、なんで笑うの?」


笑いながら頬を軽く引っ張られる。


「痛い…」


「あ、ごめん」


ぱっと手を離してくれた。


「痛かったね、ごめんね」


そう言いながら頬にキスしてきた。もはやキスの口実作りなのではと疑ってしまう。


「今日部活ないから一緒に帰ろう。送るよ」


腕時計を見て言った。


「ふふ、ありがとう」


そうこたえると、またちゅっとキスされた。


「…ねぇ、また聡子の家行きたい」


「彼氏なんだからいつでも来ればいいよ」


「!……いや、その、また…エッチなことしてしまうかも……」


この間送ってもらったとき。

お礼のコーヒーをご馳走した後、押し倒されたことを言っているようだ。


「あ、うん…。あれはびっくりしたけど」


「ごめんね…」


「でも途中でやめてくれたから」


そのかわり?その後たっぷり一時間はキスされ続けた。


「私の方こそごめんね。もったいぶってて、やな奴だね」


鈴木くんがハッとした様子で顔を上げ、私を抱きしめた。


「そんな言い方すんなよ。男と違って女子は色々覚悟いるだろ?あれは俺が悪かった。聡子は謝る必要ない」


はっきりとした口調でそう言われ、なんだかひどく安心した。愛しさが込み上げてきて、鈴木くんの背中にそっと手を回した。

彼がびくっとした。


「……嬉しい。聡子が抱きしめてくれた…!」


「いつもやってるよ…」


「そうだけどさ、あーもー何もかもが嬉しい!!!」


「……………」


こんなに素直な人だったとは。付き合うまでは全然想像していなかった。人には添うてみよ、とはよく言ったものだ。


「よし、帰ろっか」


手を引かれ、手の甲にもキスしてくれる。

本当に情熱的な人だ。正直、引いて…もとい、驚いている。






体育館のそばを通る。

ぽんぽん…とバスケットボールが転がってきた。手に取る。


「すみませーん!」


声がした方を振り向く。男子生徒が小走りでこちらへやってきた。


「ごめん、ありがとう」


ボールを受け取り、にこっと微笑んでまた体育館へ走っていった。


「今の、ミスター医学部だろ」


鈴木くんが言う。


「ああ、あの。背高い人だったね」


『今年のミスターはものすごくかっこいい』と噂になっていた。今のがご本人だったらしい。

確かに女子がきゃーきゃー騒ぐのも理解できる。


「かっこいい人だった」


「…聞き捨てならない」


「ふふ、鈴木くんにはかなわないよ」


「……!聡子、好き」


そんな冗談を言いながら、そっと手をつなぐ。

こんなささやかな幸せがいつまでも続けばいい。

手を引かれてくてく歩きながら、そんなことを考えていた。

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