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ふたりの恋  作者: ゆり
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清らかな愛ではないけれど2 〜橘視点〜

「…………………………」


 徐々に意識が覚醒し、ゆっくりと目を開けた。見慣れた天井が目に入ってくる。体を起こして、ぐぐっと伸びをした。カーテンからは薄っすらと光が差し込んでいて、空が白んでくる時間帯なのだとわかった。

 聡子といちゃいちゃする夢を見た。今日はいい1日になりそうだと思った。


 ベッドから降り、キッチンで水を飲む。一服しようとタバコをくわえ、ベランダの方を見やる。ソファが目に入ってぎょっとした。


「聡子」


 ソファの上では、聡子が眠っていた。


(そうだった、家にいろっつったんだったわ)


 タバコを置いて急いでそばに行き、そっと抱き上げた。すぅすぅ眠っている。ベッドに横たえ、顔にかかった髪をはらってやった。


「…………………………」


 そっと頬にキスした。


「……ん」


 と言って眉をしかめたが、起きる気配はなかった。


 胸元にもキスしていくつか跡を残す。聡子はきっと怒るだろう。


(……起きたら一緒に風呂入って、買い物でも行くか)


 髪を優しくなでながら、予定を立てる。


 俺の家に置いておく洋服を買ってやろう。人形みたいに着せ替えしたい。聡子はなんでも似合うから、買ってやり甲斐がある。


(それから食事行って……。あ、あそこ、予約とれっかな)


 たまに行く雰囲気の良いレストランを思い浮かべる。あそこからの風景をみせてやりたい。きっと気に入るだろう。


(んで、またここに帰ってこよう。いつも嫌がってるけど、景色は好きみたいだし)


 ああ、それと。


 ぐぅぐぅ眠る聡子の手を取る。そばに投げていたバッグから指輪を取り出し、きれいな指にはめた。ぴったりだった。カンで買ったにしては上出来だ。


 これで輩に絡まれることも減ればいいのだけれど。


 起きたらどんな顔をするだろうか。99%、怒るだろう。怒り狂って指輪を外して、ゴミ箱に放り投げるかもしれない。

 けれど1%だけ。もしかしたら。もしかしたら。喜んでくれないだろうか。まじまじとみつめて、『素敵。ありがとう』って言ってはくれないだろうか。


ーーねぇな。


 自分の想像に自分でつっこんだ。


 聡子の髪をなでる。ゆるく波打つ髪をひとすくい手に取り、さらさらと落とした。神秘的な光景だった。

頬にキスして、俺ももう一度布団に潜り込んだ。

柔らかい胸を揉みしだいていると、いつのまにか俺も二度寝してしまった。







 そして迎えた朝9時 ーーーー


「こんな、指輪っていうか首輪みたいなのいりません!!!!」


 予想通り、部屋には聡子の怒号が響いていた。


「飼い主がいるってわかっていいじゃねーか。余計な声かけもされねーだろ。暴言も吐かれねーぞ」


「……それは、そうですけど」


 聡子が考えをめぐらせているようだ。


「ってわけでしとけ。いいな」


「…………」


 反論できず、奥歯をギリギリ食いしばっているようだ。まったく、指輪もらってこんな反応する女っている?

予想通りの彼女に苦笑いする。


「おら、飯食って風呂入って出かけんぞ。いつまで寝てんだよ」


「……!」


「体力ねーな。一階のジム、紹介するから通え。トレーナーつけてやる」


「そんなことまでしてもらわなくて結構です!!」


 後ろでキャンキャン言う聡子を放ってキッチンへ向かう。朝食の用意にとりかかった。

聡子が好きなクロワッサンに生ハムやらなんやらはさんでやる。きっと無言でもぐもぐ食べるだろう。それを眺めるのが好きだった。新鮮なオレンジジュースも用意した。


 太陽が眩しい。

お気に入りの女の子と過ごす休日に胸を踊らせながら、俺は聡子を迎えにいった。


「二度寝してねー?抱くぞー?」


「ちゃんと起きてます!!」


うん、こいつはほんとに面白い。










 食事も終わり、テレビを眺めながら聡子の支度を待つ(一緒に風呂に入ろうとしたが拒否され、先に入らされた)。

 洗面所にある化粧品等は聡子のためだと説明したのだけれど、信じていないようだった。ああ俺の労力。


「……お待たせしました」


 そんなことを考えていると、聡子が俺が準備していたワンピースに身を包んで少し恥ずかしそうな様子で現れた。ひゅう、と口笛を吹く。


「かーわいい。よっしゃ、行くぞ。あ、これ俺につくやつ?」


 キスしようとして、自制した。うるうるの唇。あれ、見た目はいいけどキスしたときの感触と、自分に少しつくのが嫌だった。


「あ、はい、つきますよ」


「……お前、嬉しそうに言うなよ。これ俺が用意した化粧品?」


「いえ、自分で持っていたやつです」


 ちょっとムカつく。ばっとスカートを持ち上げた。


「……ちょっと……!」


「うん、下着はちゃんと俺セレクト着てるな。オッケー」


 そのままスカートに潜り込む。下着の上から敏感な場所に何度もキスをする。


「……!?……!?」


 聡子が硬直しているのがわかる。蹴り上げていいものか思案しているのも伝わってきた。内ももに跡をつけ、スカートから出る。

見上げた聡子は、顔を真っ赤にし困惑していた。


「……昨日のお礼?には足りねーか」


「……覚えているんですね」


「うん。すっげー気持ちよかった。またして」


 素直な気持ちを述べれば、聡子からばしっと叩かれた。いてぇ。

そのまま腕をぐいっと引っ張って、家を出た。指輪もちゃんとしてくれていて、内心ほっとした。俺だって、自信がないときはある。








 運転をしながら聡子をちらっと見る。

色白の肌。絹糸のような髪。睡眠不足か少し眠そうだが、長いまつ毛に縁取られた美しい瞳。上品な口元。そして俺しか知らない柔らかな身体ーーーー


(あ、ぼっちゃんがはじめての相手か)


 面識ができて以後、学内で見かけることのあった2人。お互いをみつめるその視線から仲の良さが伝わってきた。


ーーいいなぁ


 ぼっちゃんと笑い合う聡子を見て、目を奪われたことを思い出す。


ーー俺モ、アンナ風ニ、愛サレテミタイナァ


(ま、あんだけ仲いい2人にちょっかい出したらどうなんのかなっていう悪戯心の方が大きかったんだけどね)

 

 そっと聡子の手を握った。すぐ振り払われる。


「ハンドルは両手で握ってください」


「おま……これいい車だから、半分自動運転みたいなもんなんだって」


「………………」


 こっちを見ようともしない聡子の態度になんだか腹が立った。目についた駐車場に車を停める。

聡子が怪訝な顔をし、こちらをちらりと見た。頬を掴んでこちらを向かせる。危険を感じたのか、聡子が俺の腕を掴んだ。


「……あのさ、あんま調子乗んなよ?」


「………………」


 聡子がごくりと喉をならした。しかし目は俺を見据えている。怖いだろうに、肝の座ったお嬢様だ。


「俺の気分次第だってこと、わかってる?」


「…………早く飽きて」


「あ?」


 意外なことを言われ、聞き返す。


「なんで私なの?もう、やめてよ。早く解放して」


「ーーーーーーーーーー」


 涙で潤んだ瞳で見つめられる。

怒りと戸惑いとーー悲しみが、込み上げてきた。


 なんでだよ。ぼっちゃんの前ではあんな風に笑ってたのに。俺にも、見せてくれよ。


 噛み付くようにキスした。


「やっ……」


 抵抗する聡子を力でねじふせる。


「……仮に、俺がお前解放したとして、ぼっちゃんと前みたいに付き合えるとでも思ってんの?」


「!」


 聡子の目から涙がこぼれ落ちた。

泣くなよ。俺以外の男のためになんて。くそっ。


「運動部の横のつながりってあんのよ。俺たちのこと、きっともう耳に入ってるぜ?」


「……いや……」


「いや、じゃねーよ。もう諦めろって……」


 うつむく聡子の髪を手ぐしですいてやる。

髪を耳にかけると、綺麗な泣き顔があらわになった。


「俺の彼女になれよ」


 指で涙をぬぐってやる。


「……いや」


「いやじゃねーよ。なんなんだよさっきから。いやいや言いやがって」


 このやろう、と聡子の頬を軽くつねる。なぜかはわからないが、聡子がはっとした顔をし、ふっと笑った気がした。それを見たら、不思議と怒りの感情が氷解した。


「……ま、いーや。後から彼女にしてくださいって言ってきても知らねーからな」


「……それは、絶対ない」


「わかんねーぜ?」


にやっと笑って、眉をしかめる聡子に軽くキスした。









「…………でございます」


「ありがとう」


「恐れ入ります」


 店員が料理の説明をし、一礼して向こうへ行った。聡子も軽く微笑んで挨拶をしていたのを見て、少し安心した。俺への怒りをお店に向けることはしない。ちゃんとわきまえているようだ。


「……なぁ、怒ってんの?」


「あなたに対してはいつも怒ってます」


「ごめんて。俺も自分がコントロールできねえときもあるんだって」


「……遊び相手が欲しいのなら、私よりもっと適任がいると思いますが」


 もくもくと料理を口に運びながら、聡子が言った。


ーー 駐車場でちょっとした喧嘩になった後、どうにもムラムラがおさまらず、ショッピングもそこそこにホテルに入ってあんあん言わせたのだった(仲直りのセックスって気合い入るだろ?)。俺はまだいけそうだったけど、聡子が気を失ってしまって終了だった ーー


 食べるスピードを見るに、腹が減っていたのかもしれない。

けれど食べ方はきれいで、そこにどうにも隠しきれない育ちの良さを感じ、好感を持った。


「うまいだろ、ここ」


「……話をそらさないでください……」


 聡子が水を飲む。グラスを持つ手も美しかった。薬指には俺が贈った指輪が輝いている。


 その日は2人無言で食事を終えた。






 会計を終え、車に乗り込んだ。


「…………あの」


 聡子が話しかけてきた。珍しい。


「……おいしかったです。ありがとうございました」


 我が耳を疑った。え?聡子が?俺にお礼言った??


「おいくらでしたか?自分の分はお支払いしたいのですが……」


「あ、あぁ……気にしなくていいよ。俺の奢り」


「そういうわけには……」


「いいんだって」


 お礼を言われたのが嬉しくて、なんだか優しい声が出た。そっと聡子の手をとった。


「お姫様にご満足いただけて、俺は嬉しいよ」


「………………何かをしていただいたときは、ありがとうございますとは思ってます」


 聡子が小さな声で早口で言った。また我が耳を疑った。


「え?今日飲んだ?なんか、えらい素直じゃん。怖いんだけど」


「…………私だって人並みに感謝の気持ちは持っています


 なんだか言い訳じみたことを言っていた聡子の唇をキスでふさいだ。


「……帰ろっか」


 エンジンをかけて発進する。


「私のマンショ


「俺の、マンションでいいな?」


 有無を言わさぬ口調でそう言うと、聡子が何か言いたげだったが諦めたようにシートに身を任せた。

了承と受け取る。


 うちに着いて、一緒に風呂に入って、聡子を抱きしめて眠った。1日中一緒にいられて、とてもいい日だった。

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