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ふたりの恋  作者: ゆり
10/26

ミスター医学部

 本日最後の授業も終わり、私は学内にあるカフェでコーヒーを飲みながら、簡単に今日の授業の復習をしていた。

トントン、とテーブルを叩かれ顔をあげる。太陽のような明るい笑顔を浮かべた見知った顔に、挨拶をする。


「よっしー。お疲れ様」


「お疲れ。さっちゃん、もしかして今日の復習とかしてんの?」


 ここいい?ときかれ、どうぞと答えた。


「あ、うん。ドイツ語って結構難しくて」


「あっはっは!真面目だな〜。テスト前頼りにしてるわ」


「ふふ、お礼ははずんでよ?」


 そんな会話をしていると、よっしー(吉田直樹くん)がにやっと笑って言った。


「そうそう、絢斗(けんと)とどう?最近」


 鈴木くんの名が出てきて、顔がにやけてしまう。緩んだ頬を両手で抑えた。2人、にこにこと笑い合う。


「……いいよ、惚気て」


「もーーねーー鈴木くんがかっこよ&かわいすぎてどうしよーーーーって感じなの!今2人でお菓子作るのにハマっててこの間クッキー作ったんだけど計量する姿とか泡立て器で混ぜる姿とかかっこよすぎて……!と思いきや卵が上手に割れなくて『えーん』って言ったりとか作ったクッキー口いっぱいに頬張ってたりとか」


「あっはっはっはっは!!!!!!」


 よっしーが大爆笑する。彼の笑い声は大きく、カフェ中に響き渡り、カフェ内にいた数名がこちらを何事かと言った感じで見やった。私もつい興奮してプレゼンしてしまったので、うるさかったかもしれない。すみません、と頭を下げた。


「もう、笑いすぎだよ」


「や……だって、だって……」


 よっしーはまだテーブルに突っ伏して笑い続けている。


「仲がいいみたいでよかったよかった。俺もつないだ甲斐があったわ」


 あーおっかし…と涙をぬぐいながら言った。


「!そっか、そうだったよね。思えばよっしーがキューピッドだったね」


 まだ入学して日も浅い頃、このカフェで今日みたいに勉強していたら、よっしーが声をかけてくれたんだった。その横には鈴木くんがいて ーーーー


「最初は『こんなに怖い人と2人きりにしないでーーーー!』って感じだったけど」


「はは、あいつ基本無愛想だもんな」


「うん。でも仲良くなったらすごく親切で優しくてびっくりした」


 鈴木くんの朗らかな笑顔が頭をよぎり、思わず頬が緩んだ。


「はっはっは!あー今日は暑いな〜」


 その様子を見たよっしーが、冷やかすように手をパタパタとする。すると、





「ほんと、暑いな」





 後ろから聞きなれない声が聞こえた。振り返ると、





「ーーーーあ、橘さん」


「吉田、お前笑い声でけぇよ」





 面白そうに笑うーーーーものすごい美形がいた。


 橘悠介。医学部医学科3年。バスケ部所属。眉目秀麗・成績優秀と文句のつけようのない存在で、学祭では男女1名ずつ選ばれるミスター&ミスに選ばれていた。(昨今ミスター&ミスコンテストなんてナンセンスだという声もあるが、あくまで学生の遊び、という体で廃止にはなっていなかった)


 頭の中で彼に関する情報を引っ張り出す。管弦楽サークルの先輩達からきいていたとおり、長く見ているとその輝きでこちらの目が潰れてしまいそうな美男子だ。


「あはは、すみません」


 よっしーがぺこっと頭を下げた。私も一緒に頭を下げる。


「ほんと、どこいるかすぐわかるよな」


 橘先輩が笑いながら言った。


「あれ、俺を探しにきてくれたんですか?」


 よっしーが冗談っぽく言う。それに今度は橘先輩が大笑いした。


「あっはっは!ヤローに興味はねぇよ。ま、こんなかわいい子と一緒だったからびっくりした。彼女?」


 橘先輩が私を見る。その視線にとらえられ、身動きがとれなくなった。美形って、怖い。


「いや、違います。絢斗の彼女ですよ。鈴木絢斗。この間会ったでしょ」


「…………あぁ、あの!鈴木病院の鈴木くんね。はいはい」


 橘先輩が合点がいったように頷いている。


「2人ラブラブなんで。聞いてる俺まで嬉しくて」


「あはは、それは羨ましいな。ーーね、名前なんていうの?」


 突然話を向けられ、戸惑った。


「あ、えと、田中です」


「田中ちゃん。下の名前は?」


「聡子です」


「聡子ちゃんか。かわいいね。鈴木くんと別れて俺と付き合わない?」


「橘さーーーーん?やめてーーーー??冗談にきこえなーーーーい」


 先輩の際どい冗談に、よっしーが助け舟を出してくれた。


「これだから女たらしは」


「たらし言うな。俺は俺なりに誠実に付き合ってんだよ」


「あーはいはい」


 仲の良さが伝わってくる会話に、思わず笑ってしまった。橘先輩が私を見てにこっと笑った。


「じゃ聡子ちゃん、いつでも声かけてね」


「わかりました」


「吉田、おめーじゃねーよ」


 くっくっと笑い軽く手を振って、橘先輩は去っていった。







「…………あーーびっくりした」


 よっしーがふぅ、と一息ついた。


「仲いいんだね。橘さんと」


 コーヒーを飲みながら言った。


「あはは、入学したときにバスケ部にめちゃくちゃ勧誘されてさ。そのときからなんか仲良くしてもらってる」


「ふふ、そうなんだ」


「何回か飲みに連れていってもらったんだけどさ。あの人がいると他のグループの女子まで集まってくんの。ここ居酒屋なのに、もう、キャバかよってくらい。動画見る?」


 そういってよっしーが見せてくれた動画には橘さんと彼を囲む……何十人?もの女性達が笑顔で歓談していた。ふざけてキスしあったりしている。モテ方が異次元すぎて声を出して笑ってしまった。


「すごいね。ほんとに居酒屋なの?なんか、橘さんの誕生日のイベントって感じだね」


「だろ?普通の日だったんだけどさ。あまりのモテっぷりに俺も感動して。もう、この酒席に立ち会えただけいい記念になりますぅって感じだった」


「あはは、私も行ってみたい」


 コーヒーの残りを飲み干す。


「別世界を、お店の端からのぞいていたい」


「控えめだなー!」


 よっしーがまた大きな声で笑い、私は周囲へすみません、と頭を下げた。









「ーーーーってことが今日あったの」


「……へぇ……そうなんだ……」


「…………ん…………」


 今日も送り狼になった鈴木くん。ちゅっと胸のあたりを吸われ、跡がついた。『洋服を着るときに困らないように』といつもは配慮してくれるのに、珍しい。


「……鈴木くん……?なんか……怒ってる……?」


「別に……」


 言葉少なく、ぷいっと向こうを向いてしまった。


「……ミスターと話せてよかったね」


 鈴木くんが拗ねたようにぼそっと言った。


 ……あれ、これってもしかして……


「鈴木くん、やきもち焼いてるの……?」


 ぼっと耳が赤くなった。どうやら図星らしい。怒っているらしい本人には申し訳ないけれどーーーーか、かわいい…………!

そんなことを思ってしまった。


「鈴木くん」


「もう寝ましたー」


「メインで話してたのはよっしーだって。私は話のついでに少し話ふられただけだってば。で、嬉しいとかじゃなくて、緊張した」


「……すげーイケメンだもんね」


「ね。あれは見続けられないよ。彼女になる人ってどんな人なんだろうね」


「…………知らねーよそんなの」


 鈴木くんがいよいよ不貞腐れて頭から布団をかぶってしまった。自分の失言を反省した。


「ごめんごめん、鈴木くん。噂で聞いてた人だったからさ、なんかね、芸能人に会ったような気分だったの。ほんと、ただのミーハー心」


 山はまだ動かない。


「そういえば鈴木くんもしゃべったことあるんでしょ?知ってる風だったよ」


 山がごそごそ動き、鈴木くんがぬっと顔だけ出した。目がまだ少し怒っているようだ。


「……吉田と一緒にいるときに何度か。え、俺のこと覚えてた?」


「うん。よっしーが私を鈴木くんの彼女だって紹介してくれて。そしたら『あぁ、あの鈴木くん』って言ってたよ」


「……ふーん……」


 そう言いながら、また布団に潜っていった。


「もーー鈴木くん!機嫌なおしてよーー!」


 ゆさゆさと布団を揺らしながら、これは長期戦になりそうだと覚悟した。とほほ。

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