表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

諦観コバルト

作者: 鰰人
掲載日:2024/04/13

 その男は人間であった。

 体の中を脈動する桃色の心臓によって、全身に押し出されるそのみずみずしき血流がその証であった。

 しかしそれ以外のことについて彼を説明するには彼はあまりにも何もしていなかったのである。

 冷たいフローリングの上に敷かれた毛玉まみれのカーペットがその男の体重でわずかに沈み込む。それ以上沈むことはとてもとてもできなかった。

 彼は虚ろな眼を上に向け、全身を小さく大の字に開いていた。どうでもよさそうなふうに口から酸素を出し入れしている。

 彼は人間であった。しかし彼にはそれ以上はなかった。

 その部屋は四方が壁に囲まれていた。天井と床もあった。空気というものがふわふわ存在していて、人間である彼はそのうちの約2割ほどが必要であった。

 彼はぼさぼさの髪の毛を乱雑に床に這わせていた。視線の定まらない目で暗い電球と見合わせ、自身と同じように役割のないその中身に深く共感した。眼球の周りは桃色に腫れていた。そして少しばかりしっとりとしている。

 部屋の四隅には角があって3本の直線が交わる点があった。あったからといってその点は目に見えるものではない。その点の周りには埃がぎゅうと吸い込まれていて、とても彼には手が出せないものであった。

 彼の頬はいささか窪んでいた。その青みがかった窪みの陰の内側では彼のカサカサとした皮膚の欠片が助けを求めるように跳ね上がっていた。しかし助けが来るにはそれらはあまりにも醜かった。

 部屋の扉には鍵がかかっていることはなく男はいつでも外に出ることはできた。しかし、男はいつまでもその部屋にいた。

 脳みそがクラクラする。

 開き続けた目の表面から水蒸気が立ち昇る。

 たまに自分が息をしていることに気付く。

 そしてまた暗い部屋の明かりと対峙する。

 無明の電球。

 


 彼は「勝った」とそう思って、重たい瞼をそっと閉じた。

 その部屋には窓があった。

 朝日が青色に乾いた彼を照らしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ