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国王の思惑と近衛隊長の苦悩

国王の〝お願い〟に、5人の王子たちは、それぞれ驚きを隠すことができない。

言葉にならない声をあげる王子たちの中で、

すぐに冷静さを取り戻して反応を返したのは、アランだった。


「……その姫さんがまだ生きている、って保証は?」


 その不穏な言葉に他の4人の王子たちが一斉にアランの方を向く。


「なっ……!

 君、陛下に失礼ではないですか!」


 リュグドがアランの失言を諫めた。

しかし、アランは、反省の色を見せるどころか、

当然だろうという態度でリュグドを見返す。


「何言ってんだ。死んじまってたら、見つけようにも見つけられねーじゃねぇか。

 一国の姫さんなんだ。

 殺される理由なんて、いくらでもあるだろ」


 返す言葉もないリュグドに代わって、オーレンが口を挟んだ。

 

「……その可能性はないな。

 殺すつもりであれば、わざわざ危険を冒してまで城から連れ去りなどはしない」


 国王は、王子たちのやり取りを眺めながら、ただ成り行きを見守っている。

 はっとした表情で何かを思いついたリュグドが国王を見上げた。


「それでは、何か別の要求をされたりとか……」


 リュグドの問い掛けに、国王は、ゆっくりと首を横に振る。


「今のところ、それはない。

 もし、そのような事があれば、すぐにでも知らせよう」


 リアードが不安そうな顔で国王を見上げた。


「僕達だけで【魔王】を倒せってこと?

 それじゃあ、あまりにも……」


 国王は、先程から自分に向かって非難の眼差しを送っているルカに向かって、笑顔で手を差し伸ばした。


「娘の捜索に関しては、このルカに一任しております。

 まだ若いが、腕は立つ。信頼も出来る。

 必要であれば、彼が隊を動かして援護に駆けつけましょう」


 オーレンが会得した様子で、口角を上げる。


「……なるほど。

 我々を試されるおつもりか」


「ふんっ、おもしろそうじゃねぇか。

 俺は、いいぜ。その【魔王】ってのを倒してきてやるよ。

 ついでに、お姫様も……無事だったら、な」


 アランが自分の胸を力強く叩いて見せると、他の王子たちもそれに賛同した。


「このリュグド=エルバロフ、全力を尽くしてアイリス王女を捜させて頂きます」


「琳 楊賢……承知致した」


「……わ、わかった。

 僕、きっとアイリス姫を救い出してみせるよ」


 5人の王子たちの反応を満足そうに眺めると、国王は、これで安心だとでもいうように笑顔を見せた。


「おお、これは頼もしい。

 では、任せましたぞ。娘をよろしく頼みます」


(アイリスが城を抜け出したと聞いた時は、どうしようかと思ったが……

 うまく事が運んで良かったわい。

 これで、【魔王】が倒せれば、アイリスの婚約相手も決まり、事態は丸く収まる。

 我ながら名案じゃ)


 国王は、自分の思惑が思い通りに進んだことに、一人心の中でほくそ笑んだ。

 だが、その場に一人だけ、納得していない人物がいた。



 謁見の間を出たルカは、石畳の回廊を音を立てながら足早に歩いていた。

彼の表情は堅く、全身から怒りの感情が溢れている。


(【魔王】に浚われただと?

 そんなことがあるものか。この城の警備は、完璧だ。

 自分で逃げ出したに決まっている)


 王子たちを見送った後、同じ言葉を国王に投げかけたが、

アイリスが逃げ出したのに気付けなかったことを指摘され、責任を問われると、

しぶしぶ言葉を飲み込むしかなかった。


 ただ言い訳をさせてもらえていたなら、

ルカたちの警備は、あくまで外部からの侵入者に対する警備であり、

内部から出て行く者がいることを想定としていない。

 普段からよく城を抜け出すアイリスのことはよく知っているルカだったが、

まさかこんな大事な日に城を抜け出すとは思いもよらなかったのだ。 


『国際問題じゃぞ。最悪、戦争になるぞ。

 お前にその責任がとれるのか』


 そう国王に迫られては、ルカも押し黙るしかなかった。


(あのクソ狸めっ、娘が娘なら、父親も父親だ)


 5人の王子たちを前にして、よくもあそこまで堂々と嘘がつけるものだとルカは呆れていた。

もし、誘拐騒ぎが虚言であるとバレたら、それこそ国際問題になるだろう。

これはもう一刻も早くアイリス姫を見つけて、連れ戻さなくてはいけない。


 そこに一人の衛兵がルカの後方から声を上げて駆け寄って来た。


「こ、近衛隊長殿~!

 お待ちくださいっ!」


「私は忙しい。用なら後にしてくれ」


 振り返りもせず足を止めようとしないルカに、

 衛兵は置いて行かれないよう、歩調を合わせながら一歩後ろから付いて歩く。


「一体どちらへ行かれるおつもりなのですか?」


「じゃじゃ馬娘を連れ戻しに行くんだ。

 邪魔をするなっ!」


 衛兵が驚いた顔で聞き返した。


「そ、それは……アイリス姫のことで?

 しかし、【魔王】討伐体の指揮は如何なされるおつもりですか?」


「そんなものは必要ない」


「ぇえっ?!

 そ、そんなぁ、誘拐された姫君はいかがなされるのです」


 アイリスが自分から城を抜け出したことは、国王と近衛兵隊長のルカと、近しい側近一部のみしか知らない。

ルカに追い縋るこの衛兵も、アイリス姫は何者かに誘拐されたという話を信じている。


(……いや、待てよ。

 俺が姫を見つけられるとも限らない。

 ここは、隊を動かした方が早いか……)


 思わず怒りに冷静さを失うところだったが、まずはアイリス姫を見つけ出すことが何よりも最優先だ。

 ルカは、足を止めると、衛兵を振り返った。


「隊には、あの5人の王子達の同行を探るよう指示しろ。

 指揮は、お前に任せる。

 何かあれば、すぐに私に連絡するんだ」


 もし、5人の王子たちが先にアイリス姫を見つけてしまえば、

アイリス姫が誘拐されたのではないと知られる恐れがある。

その前に、何としてでもアイリス姫を見つけ出し、口裏を合わせておく必要があるだろう。


「……わ、私がですか?!」


 衛兵は、突然振られた責任重大な役目に、目を白黒させている。

ルカは、それだけ言うと、再び衛兵を残して、城の外へと向かった。


(あのじゃじゃ馬娘め!

 今度という今度こそは許さないぞ!)


 *


 その頃、城を抜け出したアイリス姫は、一人、城下町を彷徨い歩いていた。


(ふぅ……何とか無事に城を抜け出せたわね。

 いつもより城の警備が厳しくて手間取ってしまったわ)


 今頃、お父様とルカは、カンカンに怒っていることだろう。

想像すると、今にも怒ったルカが道角から飛び出して来そうで、

アイリスは、身震いしながらマント付きのフードを目深に被り直した。


(でも、これで私は、自由の身)


 見上げた空は、どこまでも広く、今なら何でもできそうな気がした。


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