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願わくば、幾千万のスキルを  作者: 追々タマネギ
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第一話 大森林にて 一

 

 目を開くと、そこは森の中であった。


(確かに人が少ない場所がいいとは言ったが、まさか森の中とは。もっと詳細に希望を伝えるべきだった。俺の失態だな)


 反省を済ませた後に、すぐさま周囲の状況を観察する。


(時間は日が真上にあるから正午ごろか?この世界にもちゃんと恒星があって安心した。まぁ何にしろ、日が出ていて少し蒸し暑いな。背広は脱ぐか)


 背広は包丁で刺されて穴が空いていたはずだが、女神が直してくれたようで、新品同様になっていた。もちろん、刺されたはずの脇腹も何もなかったかのように塞がっていた。




 一際大きな樹木を背にし、木陰で涼みながら周囲の地形を確認する。


(樹木が鬱蒼と茂っている。かなり深い森のようだ。一日彷徨っても、到底抜け出せるとは思えない。とりあえず水場と安全な住居を見つける必要があるな)


 背広を脇に抱え、移動を開始しようとした瞬間、


 《スキル『身体能力上昇』『自己再生』を取得しました》


 と、脳内にアナウンスが鳴り響いた。


「うおっ!なんだ今の?」


(二つのスキルを取得してしまった……。こんなことできるのは女神しかいないだろう。別れの餞別か?あの女神もいいところあるじゃないか。)


 楓の中で女神への評価がかなり上がった。


(どうやらスキルは取得していても発動させないと効果がないようだ。スキルのオンオフの切り替えができるということは、誤ってデメリットのあるスキルを取得してもオフにしておけば支障はないということか)


 試しに『身体能力上昇』の発動を意識すると、その瞬間、世界が一変した。


(っ!これはすごいなぁ…。何もかもが鮮明に見える。風に揺れる葉の葉脈も、生えている樹木の木目の一層一層までもはっきりと見える。それだけじゃない。さっきまで聞こえなかった小動物の鳴き声や水が流れる音まで聞こえる)


 先程までとは比べ物にならないほどの情報量が楓に流れ込む。


(ただ、森特有の鼻をつんざくような生臭い匂いが中々きついな。肌の感覚も敏感になり、風が少し吹くだけでも少し気になる。慣れるまで大変そうだな)


 楓はいつの間にか後ろの樹木へともたれ掛かっていたが、すぐに立ち直り、水が流れる音のする方向へと歩みを進める。


(まさか、最初に『身体能力上昇』の恩恵を受けるのが五感だとは思わなかったな。次は本命の検証をするか)


 その場に立ち止まり、ストレッチをする。十分な準備が済むと、そのまま進行方向に走り出す。


(蜘蛛に噛まれて、超人的な力を得た某蜘蛛男のような気分だ。想像通りに身体が動く。最高だ。今なら手首から糸を出せるかもしれない)


 風を切りながら森の中を爆進する。通った道には、力強い踏み込みによって足跡がくっきりと残っていた。


(あと分かったことといえば、ビジネスシューズで森の中を走るべきではないということだ。足の力が伝わりにくく、非常に走りずらい)


 そうこうしていると、森が開けていき、川が見えてきた。スピードを徐々に落とし、川に近づく。


(流れの速さを見るにこの川は上流だろう。水の透明度は高く、嫌な匂いも特にない。本来は煮沸してから飲むべきだろうが、今は森で遭難している非常事態だ。そんなことしてる余裕はない)


 川から水を掬って少し舐めて、変な味がしないことを確かめた後、喉の渇きを潤すためにゴクゴクと飲む。




 十分に水を飲み、近くの樹木の下で休憩していると、対岸の森から何者かの歩く音がした。楓はすぐさま樹木の後ろに隠れ、対岸をよく観察する。


(あれは…、犬?いや、狼か?毛の色が迷彩っぽいな。何より大きいな。全長三mくらいありそうだな。多分魔物だよな?)


 鋭い眼光をした狼は周囲を入念に確認した後、屈み込み、川の水を飲み始める。


(どうやら一匹狼のようだ。僥倖だ。生きていくためには食糧をどうにかして入手しなければならない。気乗りはしないが、やるか。っと、その前に保険として『自己再生』を発動しておくか)


 『自己再生』を発動しても特に変化はなかった。そのため、気にせずに楓は周辺でできるだけ大きな石を探す。すると、バスケットボールほどの大きさの石を二つ見つけることができた。両手に石を持ち、できるだけ音を立てずに川へと走る。


(石が軽いな。やっぱり握力も腕力もイカれたほど上がってるな。……よし!狼がこっちに気づく前にやるか)


 森を抜け、川辺に出ると、上半身を捻り、腕をしならせて全身の力を右手に集中させて投石を放つ。


「おりゃあ゛ぁ!」


 狼は対岸からの音に気付き、川から顔を上げるが、その時すでに石は眼前まで迫っていた。


 ぐちゃりと音を立てながら、狼は後方へと吹き飛ぶ。勢いそのままに川辺を転がる。


(クリーンヒットだな。狼に動きは…、ないな。いくら魔物でもあんなのを喰らったら即死か。流石に追い討ちの二発目はいらなかったか)


 楓は左手の石を投げ捨て、走り幅跳びの要領で幅10m以上はある川を飛び越える。


(やっぱり頭潰れてるわ、えぐいな。狼の解体なんてしたことないけど、やれるだけやってみるか)


 投げた石はバラバラに砕けていた。その中から持ちやすいサイズの欠片を探し、ナイフ代わりに使いながら狼の腹を切り裂き、臓器を取り出していく。すると、楓は心臓の辺りに黄色に光る小石を見つけた。それに手が触れると、光る小石は一瞬にして砕け、消えていった。


 《スキルポイントを25ポイント取得しました》


「えっ?」

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