素敵な世界の掌返し
「オウチ……カエリタイ……」
一度目の人生にはいい事など何も無いと思っていた。
何事にも自信が持てず挑戦する事を諦めただ日常を怒られない様にやり過ごしていたんだと思う。
ただ今になって思い出すのは真冬の帰り道コンビニに立ち寄り食べた肉まんが暖かくて……暖かくておいしかったなという事である。
◆
車に跳ね飛ばされて意識を失った僕は異世界のイケメンに転生していた。
凡ゆる物事が一度目の人生とは違っている。
まず全てを恨んでいた性格は影を潜め友人関係も広がり自己研鑽にも特に反発する事無く取り組む事ができる様になった。
できる自分を皆が褒めてくれるのだ。
その事が自信に繋がり更に努力を重ねていく事になる。
ここまでの二度目の人生は全てが順調に進んでいた。
そうここまでは……
貴族が学び友情を築く魔術学園へ入学した僕は凡ゆる物事で最高の結果を出していた。
女子からの人気もある。
取っ替え引っ替え遊ぶ事は無かったがそれでも体験した数は多かった。
持て囃されることにも慣れてきた頃に事件が起こる。
とある女子生徒から渡された焼き菓子に呪いが込められていたのだ。
呪術師の解呪が終わるまで全身に電流が流される様な痛みが襲い続けた。
女子生徒が僕を呪った理由は告白を袖にされた事であった。
その時付き合っていた女子生徒を悲しませる訳にはいかず僕は丁寧にそして誠意を持って告白してきた女子生徒に対応したつもりであった。
理不尽な話である。
怒りが自分を支配していくのが分かるが捕縛されていた女子生徒は既に会う事もない場所に送られていた。
行き場のない怒りを噛み殺しながら僕は日常に戻っていった。
この事が全ての始まりだった。
今では朝起きて侍女から差し出される水にまで呪いが込められている。
口に含む物には遅効性の物も多く安全を確認するまで食べる事ができない。
自分で扉を開ける事すらできず赤子の様に世話を焼かれなければ生きていく事が困難になった。
全ての人物が信用できない。
呪いの痛みで顏は歪み精神的に追い詰められ髪が抜け醜い姿に変わっていく。
そして遂に唯一信用していた毒味役に裏切られた。
調理されてから時間が経ち既に冷たくなった朝食に呪いを仕掛けられた。
恐らく家族でも人質に取られたのだろう。
謝罪の言葉を繰り返しながら泣き崩れる彼女を責める事はできない。
恐らくここまで歯を食い縛りながら耐えてくれたのだ。
直ぐに吐き出せば痛みは和らぐかも知れないと喉に指を突っ込み胃の内容物を床に吐き出す。
しかし痛みが和らぐ事は無く頽れる。
◆
「オウチ……カエリタイ……」
ふと漏れてしまった声はこの世界を恨み自分が過ごしてきた館を否定する言葉だった。
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