3 怒髪天衝破壊計画
読んでいただけたら幸いですm(_ _)m
――ティエラは怒りに打ち震えていた。
彼女はドシドシという効果音が付きそうな歩様で、第3試験棟メインホールを抜け、管理室へと続く廊下を突き進む。
「あ、ティエラさん! 今日は早かったですね!」
「今話しかけないで!」
魔機械整備技士班長ベルハルト・ロッソは、他に目もくれず作業に没頭し、その目の前には回路で繋がれ、光沢のある黒い鎧のような物を纒った魔器動作試験士班長クロム・ハヤカワがおり、ティエラが怒る大体の経緯を想像しつつ、静かにその背を見送った。
「クロム、何も言うな。黙ってろ」
「エドワードさんが何かやらかしちゃったんですかね? 僕が言うのもなんですけど、管理室に繋がる廊下で調整作業してるのにお咎め無しですよ?」
「そんなことはどうでもいい、黙って作業に集中しろ」
「は~い、わかりましたよ~ベルハルトさん。それじゃあいきま~す。精霊励起!」
2人を尻目に、ティエラは更に廊下を突き進む。そして見慣れた部屋に到着した。
――シュイーン
自動扉が開くと、少々独特だが聞き慣れた女性の声が出迎えた。
「おう主任、戻ったネ」
「ちょっと聞いてよノア、エドったら酷いのよ!」
「ハイハイ後で聞くからネ。とりあえず試験おわらせちゃうヨ」
「……むぅ、わかったわよ」
ティエラは自分の席にドカリと座り、周囲を見渡すと管理者室内に情報監視官班長ノア・リーン・チャンしかいないことに気付いた。
「て、ノアだけ? 他のみんなは? そういえばクロムとベルハルトはその辺にいたわね」
「主任いないから他は休憩ヨ」
「は~? じゃあもうちょっとサボってればよかったわ~、ていうかその主任て呼ぶのやめてくれる?」
「サボるとか堂々と言ってんじゃないヨ。あんたがいないから進まなかったヨ」
「……はい」
ティエラは自分の迂闊さに閉口するしかなかった。
――シュイーン
ティエラが入ってきた側の対面にある自動扉が開き、研究員達がゾロゾロと戻ってきた。
「やっぱりさっきメインホールでズカズカ歩いてたのはティエラだったか、本当毎回毎回困るんだけど」
「まあまあ、主任にもきっと悩みがあるのよ~、そうねぇ……例えば恋の悩みとか~!?」
「おいケイ、そんなもんティエラにある訳ないだろ、根拠を言え根拠を」
魔回廊技士班長カイン・シュヴァルツ、魔解析技技士班長ケイ・シライシ、魔器製作技士班長グスタフ・ハイスタインの3人が思い思いに口を開く、そしてそのどれもがティエラの神経を逆撫でた。
そして以下の発言を古来より八つ当たりと言う。
「好き勝手言ってんじゃないわよ! 私は今猛烈に怒ってんのよ! 試験さっさと終わらせて帰るわよ!」
この場にいるティエラを除く4人は同じことを考えた。
どの口がそれを言うんだ。
と、それと同時にこうも考えた。いつもの癇癪が始まった。早急に試験を終わらすべく行動してしまおう。と……。
「なんかいつもより若干怒ってません?」
「ケイ、僕に構うな。仕事しろ」
「カインさんひっど~い、帰ったらレイ君にヨシヨシしてもらわなきゃ~」
隠す気が有るのか無いのかわからない微妙な声量でのカインとケイのやり取りに、余計に苛々を募らせるティエラの姿を見兼ね、仕方なくノアが声をかけた。
「ティエラ、イライラしてんならいい方法があるヨ」
「教えてノア。エドったら本当ムカつくの、もう怒りで頭がどうにかなりそうなのよ」
全員がノアの次に発する言葉を待った。様々な想像が各人の脳裏を過ぎり、時間が引き延ばされる感覚が起こった。この場の誰もが息を呑んだ。
「とりあえず倉庫でなんかブッ壊してきたらいいネ、それ一番ヨ」
――誰もが情報監視官班長ノア・リーン・チャンが科学者であることを疑った。
未来ではストレス解消に破壊行為が推奨されているのでしょうか、いや、ノアだけかも知れません。