2 主任研究者発狂計画
読んでいただけたら幸いですm(_ _)m
「――ねぇ……エド、ちゃんと戻るからもう降ろしてくれない?」
「この間はそう言って、降りた瞬間に走って逃げたな」
魔操作技士班長エドワード・エインハースは主任研究者ティエラ・ディ・ヨングスの習性を熟知していた。
「逃げないから! 放して! 放してよもう!」
「無理だ。せめて第3試験棟に着くまでは降ろさん」
ティエラは戻る気にはなっていた。しかし降ろして欲しいのには別の理由があった。
「絶対見えてんのよ! 誰かに見られたらどうすんのよ!」
「……お前のスカートの中なんぞ誰も見やしない、安心しろ」
エドワードは平均的な男性よりもだいぶ上背がある。よって肩の位置も高い、高いということは、高いということだ。
「あんたそれちょっとどういう意味よ!」
「暴れるな。大声を出すな」
誰にとって幸いか、2人は結局誰にもすれ違うことなく中央棟メインホールの喫茶スペースから第3試験棟前まで辿り着いた。
「仕方がない、ここまで来れば大丈夫だろう。降ろしてやる」
「あ・り・が・と・う・!」
「ああ、これでケムと遊んでやれる目処がついた」
「ふざけんじゃないわよ! 私のスカートの中が誰かに見られるより犬の方が大事だっての!?」
エドワードは考えるまでもないと言わんばかりに答えた。
「ケムは可愛い、がお前は可愛気がまったくない、比べるまでもないだろう、違うか?」
「あんたいつか覚えてなさいよ! 誰があんたのボスか思い知らせてやるわ!」
エドワードは心底呆れながら答えた。
「なら仕事を終わらせてくれ、それがボスの務めだ」
「ぃやああああああ! 腹立つぅぅうううう!」
【DE】主任研究者ティエラ・ディ・ヨングスは第3試験棟出入口付近にて発狂した。
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――魔操作技士とは何か、それは魔制御基盤を操る者のことである。
魔制御基盤は過去の技術であるPersonalComputer、所謂パソコンを改良し、魔回路を通して大型魔粒子核が供給対象に流す魔粒子量の調整、魔粒子臨界点到達時の暴走抑制等、その動作に関わるシステム全般の制御と多岐に渡る。
また魔制御基盤は通称エテコン、またはECSと呼ばれ、民間でも使用が認められている規格の魔粒子核制御用型もあり、また近年では廃れてきた完全没入型RPG等にもその技術が応用され、新たな体験型ゲームとして流行している(テラフォーミングの進んだ火星の1角を直接舞台とし、生身のアバターやロボットで遊ぶ等、またゲームの為に飼育された魔獣が登場する)。
【IMRO】で主に導入されている魔制御基盤は軍用精密魔法機械最大手バーラー社製魔制御基盤で、魔硝子製の32インチ画面が高さ98cmの台座に搭載されたモデルで、使用者は立ったまま使用する(自前で椅子を用意している者もいる)。
操作自体は台座の上に魔硝子製の球体が成人の平均的な肩幅程度の間隔で埋め込まれており、この球体に直接手を置いて操作する。
これは知識と経験が物を言う装置であり、魔操作士はエリート中のエリートでなければなることが出来ない職業でもある。
正論が人を狂わせることもあるんですね。