表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済み】メグルユメ  作者: sugar
5.無縁塚
87/683

20.仕える魂

 男は剣奴だった。


 この世に生を受けた時には両親は亡く、すでに孤児であった。力のない少年が奴隷商に捕まり、売られるというのはこの世界においても非日常的ではあったが、その中ではありふれた方の光景だった。たいていの場合は少ない労働力として坑道や公共事業の整備現場で買われた。しかし、労働力の足しにもならないひょろひょろとした少年は男娼か剣奴としてしか買われなかった。


 毎日することは単純。剣の腕を磨くことだけだ。不定期にやってくる試合に勝たなければならなかった。買主を喜ばせることは絶対であり、そもそも男本人が死にたくなかった。喜ぶべきことは買主がこの2つ以外は何も望まなかったことだ。男は戦いに集中できた。


 幼かった少年も考えることはあった。どうすれば剣をうまく扱えるのか。どうすれば体を大きく鍛えられるか。どうすれば相手に勝てるのか。


 その全てが死にたくない一心だった。勝ち続けたある日、男には名がつけられた。孤児であり名を知らず、買われてからも名をつけられず、奴隷の少年やあの剣奴と呼ばれていた少年はようやく固有名を手に入れた。勝ち続けるその姿と黒一色の格好からシュナイトレーゼ、黒衣の死神、と。








 黒のマントが翻り、紅い影を纏う男は再び疾走する。男は、アシド、アストロ、シキ、レイドを峰打ち、一対一の勝負に邪魔をされないようにする。自分と同じ強さの根源を持っていると感じた男との一騎打ち。


「待っていたのか?甘いやつだな」


 コストイラは呆れたように言い放つ。


「今度こそ単騎決戦をと思ってね」


「自分から逃げたくせに」


 二度刃を交えたにもかかわらず、その2回とも、別の戦いを優先させたことを責める。


「場を整えるべきだと思ったんだ」


 適当に言い合う2人は互いに武器を構える。


「おおおおおおおおおっっ!!」


「はぁあああああああっっ!!」


 雄叫びを上げる2人は三度目の交わりを迎える。








 強さとは何か。


 この質問をされたら大抵の人が答えを悩むだろう。しかし、この男は違った。即答で魂の強さだというだろう。男は負けたくない、死にたくないという思いで戦っていたが、いつしか勝ちたいと考え、さらに勝つのは俺だに変わっていた。心から、いや魂から勝ちを望めば、必ず勝てる。そう確信していた。そう考え、それを証明し続けていた。自分の方が強い。魂から信じている。そうすればそうするほど強いのだ。








 刀と剣が交わった。


 行われているのは一般的な剣撃。しかし、その気迫は違った。振り下ろし、横薙ぎ、斬り上げ、刺突。互いに自らの強さを主張する。コストイラの振り下ろしに男は剣を横にし、受けにかかる。


「オレは強い!オレが勝つ!」


 男が叫びを上げる。


「お前は強い!だが!オレが超える!!」


 コストイラが叫ぶ。


 ガキッ!


 罅が入った。刃から。ぽろぽろと毀れている。剣の刃から。ぽろぽろと剥がれていく。己のプライドが。相手の方が魂が強いのか。


 相手は相手を認めた上で、自分は強いと言わず、超えると言っていた。


 その違いか?その違いが武器にも反映したのか?ならばそれは新たに手にした学びだ。忘れないように刻んでもらおう。剣が砕ける。そのままの流れで男は刀で斬られる。


 今日のことは忘れないだろう。次があったら魂を磨く旅に出よう。


 男は満足そうに倒れていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ