表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済み】メグルユメ  作者: sugar
33.魔大陸
681/683

53.九仭の功を―――

 バチン!!


 刀が折れない。刀を折る気で拳を放ったというのに、先程までと同じ結果。


 この拳でも駄目なのか。

 その時、ヲレスタは気付いた。


 あれ? 俺の拳、魔力が通ってない?


 ヲレスタは思わず自身の左拳を見た。

 魔力が通っていないということは、魔術が使えないということだ。ヲレスタの使う、武器を破壊する技は魔術の一つである。そのため、刀が折れない。


 そのことに意識が持っていかれていたため、コストイラの動きを見ていなかった。


 ヲレスタが目の前を見ると、そこにコストイラはいなかった。


「なっ!?」

「フッ!」


 ヲレスタがコストイラを見つけられない間に、侍は屈んだ状態で刀を振り上げた。

 真っ直ぐ上に向いた斬撃はヲレスタの顔面の右側を通った。顔面とはいえ、拳闘士であるヲレスタの底は十分に硬い。

 しかし、それでも柔らかい場所がある。目玉だ。


 ザクッと目が真っ二つ。右側の視界が消える。


 それでもヲレスタは止まらない。


 ヲレスタは速射砲のように右の拳を放った。拳は刀を殴り、コストイラの体を起こさせる。そこに、利き腕の左腕を放った。

 左拳が、コストイラの左肩を抉る。拳闘士の拳はいわば必殺技。無防備に食らえばタダでは済まない。

 骨が砕けた。それどころか肉がぐちゃぐちゃになってしまい、皮を突き破っている。


 左腕が完全に破壊されたか?





 ポラリスが掌を向けた。何かしらの魔術の準備か。


 サーシャはその種族上、魔術に詳しくない。しかし、レイヴェニアのおかげで、常人以上に詳しくなっている。

 そのおかげか、真っ先に異変に気付いた。


 ポラリスが魔術を放てない?


 サーシャが気付かれないように魔力を練る。しかし、体内に魔力が作られる特有の感覚がない。どうしてだ?


「成る程」


 サーシャの鋭い感覚がアレンの言葉を拾った。


「何? その成る程って。何に対してですか?」

「え!? あ、いや、僕は別に何も?」

『何じゃ、アレン。お主何か知っておるのか』


 二人に詰め寄られ、アレンはとある一点に視線を向けた。


「やっぱり」

「何だ」

『何じゃ?』


 いつの間にか二人はかなり近いところまで来ていた。ポラリスに至っては、アレンの体に触れている。止めてくれ、その柔らかいものに慣れていないんだ。


「あれ、なくなったからの、異界からの移動手段(ワープゲート)

「あ、レイヴェニア」


 サーシャが振り返ると、そこにはレイヴェニアがいた。





 ガストロが目を丸くする。


 自分の両足に雷を溜めたはずだった。それが発揮されれば、それこそ本物の雷のように移動で来たはずだ。

 はず、はずと二回重ねる仮定の結果はどうだ? 何も発動していない。ただのエルフの脚力による疾駆だ。


 アシドも目を丸くしている。明らかにパワーダウンしている。

 異常な速度を人工的に作り出すものだと思っていた。しかし、結果はこれだ。


 遅い。先程までの戦いの速さがなくなった。


 アシドが脚に力を込め、一気に距離を消す。そして、前に進みながら一本足を軸に回転した。

 槍撃に対して、斧を楯のようにして防ぐ。


 アシドの攻撃によって、ガストロの体が後ろに下がる。合成体(キメラ)が蒸気の中に消える。


 ん? 蒸気?


 どこから現れたのか分からない蒸気に戸惑ってしまう。本当にアシドの足が止まる。速度が0になってしまった。もしここからまた走り出すのだとしたら、0.5~1秒はかかってしまうだろう。


 そんな状態の時に、蒸気から斧が飛び出して来た。


 躱せ!


 その脳からの指令が急速にやってくる。アシドの脚の筋肉に力が入る。

 この場に血が舞った。






 

「アタっ!」


 肩に痛みを残しながら、キスレが不信そうな声を出した。

 目の前にいる傷だらけの(レイド)のことでも、不壊の楯のことでもない。


 自分の体を巡る魔力が消えたことについて、だ。


 自身の体内を駆け巡っていた、燃え盛る魔力がなくなった。「旭日昇天」も「赤手空拳」も「ロイヤルフレア」も「奮励努力」も「和療瘡癖」も使えない。

 すべてごっそりと抜け落ちてしまったようだ。


 キスレはチラリと社を見た。先程も見た社の姿と何ら変わりない。しかし、明らかに違う点がある。


 渦がないのだ。


 あの禍々しい雰囲気を放っていた大きな渦巻きがなくなっている。

 アレが何だったのか、一切分からん。しかし、アレが力の源であったことは分かる。

 まさか、あれが魔力というものなのだろうか。

 だとするのなら、なぜ消えた。


 そういえば、あの女はどこに行った?

 どうして消えた?


 キスレは馬鹿だ。しかし、阿呆ではない。


 頭の中にあった疑問の答えは回り道をしながらでも辿り着いた。


 あの女こそが魔素を齎した存在であり、魔術の原点であったのだ。おそらくガラエム教の崇めている永遠の巫女とかいうのは、彼女のことなのだろう。


「マジかぁ!」


 キスレは叫んだ。真実に自ら辿り着き、発狂しそうになった。

 そこを隙と見たレイドがキスレに対して楯タックルを繰り出した。


 キスレは弾かれるように刀を振る。


 刀と楯がぶつかり合う。


 キスレのパワーとレイドのパワーに挟まれ、レイドの楯が壊れた。


 砕けた楯の一部を見て、キスレの口角が上がった。





 ガパリと口が開く。

 エンドローゼが警戒する。何が来る?


 しかし、何もやってこない。


 エンドローゼは足を伸ばすように立ち上がり、ネレイトスライの顎を打ち抜いた。エンドローゼの拳は小さい。とはいえ、その威力は無視することができない。

 ネレイトスライの顎の一部が砕けた。

 それもそうなのだが、今、口から何も出てこなかった。


 ネレイトスライは口から毒を吐こうとしたはずだ。だというのに、何も出なかった。


 なぜだ? なぜ魔術が使えない。


 いや、それよりも(・・・・・)体が不調だ。少しずつ、少しずつだが、動かなくなってきている。

 じっと掌を見る。痙攣している。細い骨の指が細かく震えている。


「え? えっと、あ、あ、あの?」


 何かしらの異変を感じ取ったエンドローゼがネレイトスライに近づこうとする。

 しかし、ネレイトスライは力を振り絞り、戦闘態勢(ファイティングポーズ)を取った。


回復術士(ヒーラー)よ。最期に本気を見せてはくれないか?』


 エンドローゼはすべてを察し、涙を呑んだ。同時に覚悟を決める。

 彼は死ぬ気だ。いや、もう死ぬ。確定事項だ。


 ならば手向けを。そして餞をしなければ。


 ネレイトスライの願いを叶えるため、エンドローゼは慣れない格闘技の構えを取った。





 ショカンは目を丸くした。


 回復できない。それどころか主たる能力である身体能力向上さえもできていない。


『そう言う事か!』

「えぇ、魔力が帰ったようですね」

『慌てないのかい?』

「えぇ、そんなものに頼る肉体(からだ)はしておりません故」


 流石だと感心しつつ、らしいとも思った。

 僕の知るコウガイは他者を頼らず、信じることをせず、戦いに身を投じる孤高の漢。


「懐かしいですね。過去にしていた修行を思い出します」

凄い厳し(スパルタ)すぎて即解雇された、あれね。今もずっとちらついているよ。コウガイ、君強すぎ。まだ、全然届きそうにない』

「いえいえ、もう手は届いていますよ」


 ショカンの手がコウガイの腕を掴んだ。コウガイは腕を引くが、ショカンの手は離れない。


「ですが、まだ直情径行の性格だ」


 コウガイはショカンの腕を引きながら身を屈め、大男の懐へ入る。伸ばされたショカンの腕を使って体を回し、地面に投げる。

 変則的な一本背負いを喰らった。ショカンは大きく息をする。


『手を届かせてもらった』

「それも駆け引きですよ」


 両手の痛みを感じながら、ショカンはブレイクダンスのような動きで立ち上がった。

 ショカンが目を見開く。


 目の前にいたのはコウガイではなく、シキだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ