43.冬来たりなば春遠からじ
「その話を一旦信じ、いや、ちょっと情報量多すぎて理解とか処理とか、何かそういうのは追い付いてねぇけど、一旦飲み込むわ」
『あ、ありがとうございます』
コストイラが絶妙な中途顔のまま腕を後頭部に持っていこうとした状態で止まった。考えることが多すぎて動きに集中力が発揮できていない。
「結局、今500年経ってどれくらいエネルギーが溜まってんだ? もう結構いってんのか?」
『……実は全然。皆さんが魔素の有用性に気付きまして、こちらにまでエネルギーがやってこないのです』
「とっとと撤退することね。利益が出ないなら手放すべきよ」
エネルギーの収入状況を聞き、アストロはズバリと切り捨てた。損切しろ。
ブサウは両手で顔を覆った。もうライフはゼロだ。
『500年前にも言っただろ。この世界は君が思っている以上に莫迦で阿呆だ。そのうえで天才だ。結果救いようがない。切り捨て時を考えるべきだって』
『そ、そうですね』
フォンにチクチクと言われ、ブサウが縮こまるが、フォンの格好のせいで微妙な顔となっている。
フォンはディーノイに捕まってしまい、首根っこを掴まれていた。猫のように見える。
ディーノイが現れた瞬間、フォンはエンドローゼを抱え上げ、警戒を始めた。淡い紫色と白色の髪に鼻を突っ込み、項をチュパチュパと吸っている。
エンドローゼは一切抵抗せず、為すがままだ。腕がだらんとしており、もう諦めている。もはやフォンからエッチなお誘いがあっても無抵抗に付いて行ってしまいそうだ。
しかし、その抵抗と協力虚しく、フォンは捕まってしまった。
そして、ブサウへのアドバイスという最後の使命を終えたフォンは、月へと帰っていった。
「さて、フォンの言っていた通り、切り時は考えるべきね。というか、今が切り時、早めに帰るべきよ」
『……ちなみに私が帰れば、魔素もともに帰ることになります。つまり、その後は魔力や魔術、魔法が使えなくなります。それでも?』
ブサウは上目遣いでアストロを見る。勇者一行の中でも魔素をより扱っているのはアストロとエンドローゼ、そしてシキだろう。
シキはおそらく魔素がなくなっても適応するだろう。それこそ神力を扱うようになるかもしれない。
エンドローゼは回復魔法を扱っているが、あまり魔素を使っていない。エンドローゼ自身は魔素を使っているつもりなのだが、その裏でフォンが神力を貸している。
そのため、一番被害を受けるのはアストロになる。
そのアストロは組むことのできない右腕を中途半端に上げた状態で漂わせている。しばらくすると、アストロは後頭部を掻いた。
「いいわ。何かあったらフォンにでも神力の使い方を教えてもらうわ」
アストロは右手をひらひらさせながらブサウを見る。
「しかも、魔素は放っておけば、死者がまた多く増えてしまうのでしょう? なら私は魔法を捨てるわ」
『……それなら』
アストロの覚悟を聞き、ブサウも意を決した。
帰ろう。もうこの世界にはいられない。
『待て』
ブサウがお茶会を片付け撤退しようとした時、横槍が入った。
身長3m、仮面をつけた大男が立っていた。どこか見覚えのある姿だ。そう、具体的には魔王インサーニアとの戦いでの時だ。
『魔素がなくなってしまうのは、困ることだ。我々は魔素によって生きている。いや、生かされていると言ってもいい』
仮面の巨漢はブサウを指差す。
『その女性がこの世界に魔素を齎し、発展させたことは<異世界人>ゴートの手記にも記されていた。ここで帰すわけにはいかない』
だから、と仮面の巨漢は続ける。
『この世界を去るというのであれば、捕縛させてもらおう』
「それなら」
「私達はブサウを送り出す」
勇者一行はブサウと巨漢の間に割って入った。
ごめん。少し更新があく。




