34.Boxing
拳が完璧に顔を捉えた。鼻や頬の骨が折れた。
もう手を伸ばしても、大剣には届かない。
大楯は今アシドに授けている。というわけで無手だ。
レイドはボクシングのような戦う構えを取った。ホウギは嬉々として戦う構えを取る。
レイドの遠慮のない拳をホウギは真正面から受ける。ビクともせず、一切効いている気がしない。
ホウギが左拳を固め、繰り出した。レイドはボクシングのような両腕を合わせた防御の体勢になる。ホウギの拳が防御の上から襲来した。
レイドの体が、地面を噛みながら後ろに下がる。防御をしていた腕には鬼の拳の痕が着いている。殴った右腕が痛く、ホウギは自らの手首を押さえて、ぶらぶらと振っている。
ホウギは少し思うところがありそうな顔をしながら、構えた。おい、まだやるんだろ?
レイドは上半身に纏っていた服を脱ぎ棄てる。
レイドとホウギは確かな足取りで互いに近づく。互いの拳が届く距離になった瞬間、殴り合いが始まった。
ホウギの拳が当たるたびに、レイドの体や首に血管が浮き出る。
レイドの拳が当たるたびに、ホウギの体は火照っていく。
そこでふと気づいた。あれ? なんだか徐々にレイドの攻撃力が増している?
レイドは強い。すでに五分も最上位の鬼と、真正面から殴り合っているのに原形を留めている。通常の人間ではありえない。
額が割れ、頬が切れ、あちらこちらの骨に罅が入っている。それなりに血が流れ出ているため、そろそろ貧血の危機だろう。
しかし、圧されているのはホウギの方だった。物理的な話ではなく、精神的な話だ。
ボロボロに傷つき、壊れそうになっているにもかかわらず、だというのに立ち向かってくる。明確な恐怖を感じてしまう。どうしてここまで立ち向かってくる。
左目が真っ赤に染まっているレイドの気迫に負け、ホウギは拳を上体反らしで躱した。ホウギは上体を反らしたまま、利き腕の左でアッパーをかました。上体を戻しながらこめかみにフックをぶつける。
若干顔が歪んだようだが、それでもまだ終わらない。レイドは立つ。立ち上がる。
両目が赤く染まっており、呼気も赤い霧のようだ。まるで悪魔のよう。
ゆっくりと近づいていたレイドが、いつの間にかもう目の前にいた。
右の拳が飛んでくる。ホウギは再び上体を反らした。しかし、拳は通り過ぎることなく、軌道を変えてきた。拳の軌道は鉄道の軌条ではなく、ジェットコースターの軌条だったのだ。
急転直下してきた拳が、ホウギの顔面に当たった。




