30.街を駆ける
落ちる。落ちる。落ちる。瓦礫とともに落ちる。
マクマーティンのプレスクールは崖に面している。いや、それどころか少しはみ出ている。
壁を突き破ったエンドローゼは、その下に地面はなく、すぐに崖であった。支えを失ったエンドローゼはそのまま落ちていく。
エンドローゼは空中を手で掻くが、何も掴めない。諦めて覚悟を決めたエンドローゼは、両手を頭の上に敷いた。
ドガチャンッッッ!!!! と住宅に突っ込む。
「ぐ、が」
頭を守ったとはいえ、威力が体を貫いてくる。
エンドローゼが口をパクパクさせている。空気が上手く吸えない。しかし、そんな状態でも動かなくてはならない。少女は体を回転させ、瓦礫から転がり落ちた。
その瓦礫の上に、シスタースモアが落ちてきた。
「嗚呼、エンドローゼ、逃げないでおくれ。私は貴方を愛したいだけなのよ」
かか様が笑顔で手を伸ばしてくる。エンドローゼは自分の背と同じくらいある瓦礫を投げつけ、代わりに掴ませている隙に逃げ出した。
勢いよく扉を開けると、戸が壊れて外れた。
エンドローゼが走る。目の前にある横の壁からかか様の左腕が貫いてやってきた。突き破る時の威力のせいで、かか様の左手首はおかしな方向に曲がってしまっている。
エンドローゼは速度を落とすことなく、身を低くして走った。かか様の手を潜り、廊下を走る。曲がり角も気にせず、ぶつかるようにして曲がる。
かか様もぶつかるようにして角を曲がる。左脚を引き摺るようにしているからこそ、追い付かれていないのかもしれない。小回りが利くのも有利に働いているのだろう。
エンドローゼが階段を上る。かか様は体が大きい分、体重が重い。巨人族が使うことを想定していない階段は、かか様が脚を乗せ体重をかけた途端、壊れてしまった。
というより、かか様の身長ならば、背を伸ばせば二階に届くのだ。
エンドローゼはそれが分かっているため、崩れている床に注意しながら、二階も走る。そして、無事であった天窓から屋根に上がる。
そしてエンドローゼは隣の建物に飛び移った。かか様は建物を壊し、外に出てきた。
エンドローゼはそれを目撃することなく疾走し、なるべく距離を取っていく。
町に慣れ親しんでいるスモアは脚を引き摺りながら、エンドローゼが追いかける。
エンドローゼは屋根から飛び降り、着地の瞬間に柔らかく膝を曲げ、前転して威力を殺しつつも、速度は落とさない。
エンドローゼは立ち上がりながらも走り続ける。小路をうまく使いながら、背の高い怪老から逃れる。
「どこに行った?」
スモアは交差点でキョロキョロと辺りを見渡して、エンドローゼを探すが、見つからない。
「仕方ない」
スモアは内ポケットから500ページほどある文庫本サイズのケースを取り出した。二つの摘まみ型のカギを外し、ケースを開ける。中には二つのカプセルが、スポンジ製の緩衝材に嵌まっていた。
一方は空のカプセル。
もう一方には赤い球体が培養液とともに入っていた。赤い球体の表面には、黄色と青色の瞳が描かれている。
スモアは左眼の涙袋に親指を添え、ぐっと押し込んだ。ジュルンと目玉が飛び出してくる。親指と人差し指で挟み取り、同手の小指で空のカプセルを開けて、中に入れる。そして、赤い球体の方を取り出し、空いた眼窩の中に入れた。
ギョロギョロと二つの瞳が動く。エンドローゼが走っているのが見える。
「嗚呼、あそこにいた」
「いたっ! あそこだ!!」
「でけぇから分かりやすいな」
「こっから狙えそうね」
「まだ気付いていないな」
「そりゃあいい。孤児院の壁ぶっ壊しちまったからな」
「あんなに大きな方に追いかけられたら、僕は体が動かないか、冷静さを欠きますね」
「今、闇で用意しているから、火の方でも様子を見てみましょうか」
「ヒッ!?」
「ム!?」
「恐ッ!? 首ってのは、あそこまで回ったっけか?」
「やってみれば? 無理だと思うけど」
「いって!? 無理だわ」
「バカやってんじゃねぇよ。にしても、今、何で気付いた?」
「分かんない、多分火?」
「熱さかな?」
「成る程」




