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【完結済み】メグルユメ  作者: sugar
33.魔大陸
655/683

27.死の寵愛

 アストロの足取りが少し軽くなっている。憑き物が取れたかのような顔をしている。

 父を送ることができた。全てのことを終わらせることができたわけではない。しかし、一番終わらせたかったことを終わらせることができた。


「よかったな、アストロ」

「えぇ、そうね」


 アストロの笑顔を見れて、コストイラ達も嬉しそうに口角を上げた。


 しかし、中でもエンドローゼだけが靉靆とした笑みをしている。

 この場所やこの空気、この雰囲気。それらすべてが心理的な圧迫をしてくる。

 整備されている石畳、暗闇を照らす白瓏石の街灯、技術を詰め込まれた石材の家壁。整理整頓された列をなす(らい)や水瓶が、この地の治安を示す。

 人々の慶祝が聞こえる。人々の楽胥が届いてくる。対して恚怒は伝わってこないのに加え、哀慟も感じない。

 平和そのもの。魔大陸にあるとは思えない程の平穏がここにある。


「さっきはオレ、シキ、アストロと続いていたが、今度はエンドローゼの狙い撃ちか?」

「え?」


 突然、何かを言い出すコストイラに、エンドローゼが顔を向けた。


「いや、さっきから丘の上の方を見ているからよ。何を見ているんだ?」


 コストイラに質問されて、改めてエンドローゼは丘の上の建物を見つめた。


 あの部分の壁は破壊したはず。だというのに、壁が新品同様だ。高レベルだからこそ為せる視力で、建物の壁を観察する。


「あ、あ、あの建物は、孤児ー院、です」

「成る程」


 コストイラはエンドローゼの一言で納得した。そうか、あれがエンドローゼの育った孤児院か。

 しかし、アレンとシキはよく分からなかった。シキがアストロの袖を引く。


「どういうこと?」

「多分だけど、アレがエンドローゼの育った場所よ」

「……なんかちょっと前に、親、会わなかった?」

「え、えっと、あれは」


 少し答えづらそうに目を逸らし、エンドローゼを見た。エンドローゼは気付いていないのか、こちらを見ずに丘の上の建物を見ている。余所見をしていたエンドローゼは、少し捲れていた石畳に足を躓かせて転んだ。


「ゴール家は孤児院からエンドローゼを買ったのよ。おそらくエンドローゼの性格は孤児院(あそこ)で形成されたのね」

「フゥン」


 シキが周りに興味を持ち、自分から発言している。成長が嬉しくなる。アストロはシキの頭を撫でた。シキはキョトンとしている。


「寄るか?」

「は、はい」

「……そうか」


 コストイラはエンドローゼの瞳に瞋恚を見た。





 丘の上には二、三十軒の建物が建っていた。孤児院だけではないようだ。


「孤児院はこの先ねって、ん?」


 アストロが道の先を指差すと、腕のない方の袖をエンドローゼがギュッと力強く掴んでいる。

 エンドローゼの体表を大量の脂汗が流れている。目を見れば、眩暈をしていることも分かり、さらに激しい動機に襲われていることも分かった。


 休憩した方がいいだろう。


 しかし、エンドローゼは口を開く。


「行きましょう」


 跳ねることのない力強い言葉。それを受けて、アストロは口を噤んだ。


 一歩踏み出すごとに重圧がやってくる。胃に穴が空きそうだ。目尻に涙が浮かんでくる。動悸が激しい。眩暈もする。脂汗も止まらない。あれ? 呼吸ってどうするんだっけ?


 パチンと叩くようにして頬を挟まれた。アストロが真っ直ぐにエンドローゼの目を見る。


「行くって、決めたんでしょ?」


「ふぁ、ふぁい」


 そして、孤児院の前に来たエンドローゼは、ゆっくりと扉を開けた。大丈夫。今回仲間(みんな)がいる。

 二人すれ違う程の幅しかない廊下を歩く。


「この孤児院、妙に小さくねぇか?」

「そうか?」


 コストイラが廊下の壁に触れる。アシドはコストイラの言っていることが分からず、眉を顰めてしまう。


「外観に比べてって話だよ」

「外観覚えてねぇや」

「……隠し扉とかありそう」

「あ、あ、ありますよ」


 小さいと感じた理由を話すコストイラと後頭部を掻くアシドに、シキが確信して話す。エンドローゼも確信をもって断言した。かつて見た景色を思い出しながら、エンドローゼは目の前に部屋を睨んだ。

 その部屋は大部屋だった。明らかに隠し通路のスイッチがありそうな部屋だ。


「どっかにありそうだな」

「あ、ありますよ。お、おお、覚えていませんが」

「過去にそんなことが?」

「あーり、ま、ますよ」

「面白そうだし、探すか」


 コストイラは言うと、早速暖炉の中を調べ始めた。何か手慣れているが、過去にそんなことをしていたのだろうか。アシドは棚の上に置かれている調度品を触ってみた。アストロは壁にかけられているいる絵画の裏を見る。シキは床を這ってタイルを掻いている。アレンは棚や抽斗(ひきだし)を調査している。レイドは机や椅子の下を探索している。


「何もねぇな」

「こっちもだ」

「絵画の裏にも何もないわ」

「机も、平板なものだ」

「ない」

「棚も抽斗も整理されています。何もなさそうですね」

「どうするんだ~、エンドロー……ゼ?」


 互いが報告し合うが、何も成果がない。助けを求めるようにエンドローゼを呼ぶが、そこにエンドローゼはいなかった。

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