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【完結済み】メグルユメ  作者: sugar
33.魔大陸
645/683

17.アタシが来た!

「橋じゃねぇじゃねぇか」


 コストイラが恨めしそうに呟いた。


 別にそれは誰かに向いているということはない。しかし、最初に橋を見つけたアストロは、何とも申し訳ない気持ちになった。

 現在、勇者一行は湖の三分の二まで踏破していた。橋、ではなく手漕ぎボートで。


 まず、コストイラ達は少し古びていて、足元を貫いてしまいそうな橋を渡っていた。約50歩ほど歩いたところで、先頭を歩いていたコストイラは気付く。あれ? ここってもしかして、橋じゃなくて船着き場じゃね?

 古びた板橋の先端付近では、錆びてしまい、もう動かない舟達が置かれていた。


「どれもこれも、使えそうにないな」


「お、使えそうなものあんじゃん」


「……手漕ぎボートじゃん。腕死にそうじゃん。私、片腕しかないけど」


 コストイラが壊れている舟に触れると、そのままゴボゴボと沈んでいった。アシドは木製の手漕ぎボードを見つけ、ユラユラ揺らしている。まさかここでアストロが自虐ネタを入れてくるとは思わなかった。

 一隻目にコストイラとアシド、アストロが乗り込み、二隻目にアレン、エンドローゼ、シキ、レイドが乗る。


「さて、出発するか」


「いや、ちょっと待て」


 レイドがオールを手に力を入れようとした時、その前にいるコストイラが止めた。


「どうした」


「何か来るぞ」


「何? では、逃げた方がよいか?」


「いや、そんなんじゃない。というか、あいつ、知っている奴だな」


 レイドが目を細めると、こちらに走ってくる何者かが見えた。跳ね踊る白髪にピタッとしたシャツ、膝丸出しにしている短パン。


「シーキー!!」


 地下闘技場然のチャンピオンのフウが、全速力でこちらに走ってきていた。


「あれは」


「フウだな」


 アレンは若干名前を忘れていたが、コストイラが名前を出してくれたので助かった。


 フウは船着き場の古びた板橋に足を乗せる前に踏み切った。フウは両腕を広げ、シキに向かっていく。完全に抱き着く流れだ。

 シキは舟の上で、揺れないように飛んで、フウに回転蹴りを繰り出した。


「ポゥ!?」


 蹴られたフウが風の矢と化し、船着き場の板を突き破った。水柱を立てて沈んだフウに、アレンは飛び出さんばかりに目を見開いた。水の中には魔物がいると思うのだが、大丈夫なのだろうか。


「プハァ」


 フウはすぐに湖から戻ってきて、橋に上がった。水に入ったからなのか、痛かったからなのか分からないが、目の周りが特に濡れている。


「シキ、痛いぞ」


「……急に来るから」


 フウは頬に手を添えながら、子供のように頬を膨らませた。シキはどうすればいいのか分からず、目が泳いでいる。


「でも、アタシ強い。ハグで許す! てやろう」


 シキがどうすればいいのか、とアストロとアレンを見た。アレンもどうすればいいのか分かっていない。アストロはしてあげれば、と返した。


「ん」


 シキが両腕を広げると、フウは顔を明るくした。


「やったぜ」


 フウはガッツポーズをして、シキの胸にすっぽりと飛び込んでいった。

 コストイラは半眼を送りつつ、もう大丈夫だろう判断し、出発することにした。


「……じゃあ、行くかぁ」


 コストイラは間延びした声を出しながら、オールを漕ぎ始めた。

 フウに抱き着かれながら、シキは気付いた。この勢いを理由すれば、アレンと密着できるのではないだろうか!?


 ありがとう、フウ。


 シキは感謝を示すようにフウの頭を撫でた。フウは頭を撫でられた嬉しさに舞い上がり、抱き着く力を強め、さらに体を押し付けた。

 シキは抵抗することなく、そのまま体を後ろに倒した。


 ポスン。


「えっと、大丈夫ですか?」


「ん」


「ん? 匂い、甘い?」


 心配するアレンに対し、シキは無表情で答えた。そのちょっと甘い雰囲気にフウが反応し、シキのあるのかないのか分からない胸の谷間の匂いを嗅ぎ始めた。シキに羞恥がないのか、それとも余裕がないのか、これにも無抵抗だ。


 そんなわちゃわちゃをしている間に、湖の三分の二の位置まで進めていた。


 不意にレイドが口を開いた。


「何か、おかしくないか?」


「何がだ?」


「静かすぎる。というか、平和だ」


 アレンが耳を集中させる。波の音や風の音が聞こえる。しかし、異様な音は聞こえてこない。


「いつもだったなら、魔物が襲い掛かってくるはずだろう?」


「その感覚は、世間一般では異常側だと思いますが、確かにそうですね」


「なぜこちらを襲ってこないのだ」


「視てきているし、様子でも窺ってんじゃねぇの?」


 レイドの重い調子の質問に対して、コストイラは軽い調子で答えた。レイドが目を丸くする。


「それ、本当か?」


「本当、あそこで見ている」


 シキが見つめると、水面から目だけを出していた何かは、すぐに水に潜っていった。


「なぜ教えてくれなかった」


「いや、済まん。気付いているとばかり」


 コストイラが冷や汗を掻きながら、目を逸らした。

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