13.闇を背負う者
天之五閃。
その五名の中に、精霊がいる。
精霊が近接戦闘を鍛えるなどあり得ない、というのが精霊界隈では常識だ。
だというのに、その精霊は近接戦闘、特に剣術を鍛えた。
その精霊の司っている精霊は、”闇”。同じく”闇”を司っている精霊はおらず、急成長の要因となった。
しかし、珍しいというのは時にマイナスと働く。
自己と違う者は排除したがるものだ。ゆえに、その精霊は孤独となった。
一人は寂しい。その寂しさを払拭するように剣を振るった。その結果手に入ったのは強さのみだ。
強くなればなるほどに闇は広がった。
そんな時に出会ったのがカーミラだった。
人の営みを知り、人の温度を知り、人という生き物を知った。
人と在り、人と成った精霊は弱くなった。
人を喰えなくなったのだ。
人を喰えない闇の精霊は、闇の制御ができなくなり、餓死しそうになってしまった。
その時、フラメテが相対してきた。
「……何、あれ?」
アストロが戦慄きながら、小さく呟いた。
目の前にあるのは大地を覆い、天を食い破ろうとする闇の半球。そこを中心とし、禍々しい風が吹いていた。
「あれは……アイケルス」
「これが? どう見ても化け物じゃない」
「それを、止めてやらなきゃいけねェ」
コストイラはゆっくりと歩を進める。
草木が溶ける闇の中、ベチャベチャと足音とともに、本命が現れた。
『あら? 誰かと思ったら、コストイラだったのね?』
優しい笑みを浮かべるアイケルスに、コストイラは目を伏せた。
『大きくなったわね、コストイラ』
アイケルスは涙を止めるように、己の眼球を手で押さえた。
『本当に……本当に会いたかった。だって』
その瞬間、コストイラの体を、闇の手が貫いた。
グチャリとアイケルスの口が開く。多すぎる唾液がボタタと落ちた。
『また、美味しいお肉が食べられるのね』
あははと狂気的な笑みを浮かべ大笑する。
しかし、笑みが止む。コストイラに反応がないのだ。
不審に思うアイケルスが、真剣な眼差しでコストイラを見つめると、青年の体は爆発した。炎を巧みに操り、自分とよく似た人形を創り出したのだろう。
アイケルスはつまらなさそうな顔をし、足元の影を伸ばして楯とした。
コストイラが背後から出現し、刀を振るう。アイケルスは振り返りながら、影で対処した。
『あらら、そう簡単にいかないわね』
「……」
アイケルスの言葉に、コストイラは一瞬、返すべきか迷った。
「あんだけ敵意剥き出しできたら、嫌でも警戒するだろ」
アイケルスの影が刀を弾く。コストイラはその威力を利用し、バク宙してさらに距離をとった。
「お前をぶっ飛ばしてやる。覚悟しろよ、アイケルス」
刀の切っ先を向いてくるコストイラに、アイケルスは半眼を送る。そして、ドロドロと粘りつくような闇から一般的に多く流通しているロングソードを取り出した。
『覚悟、覚悟ね。むしろ、コストイラ。貴方は覚悟があるの?』
「何?」
アイケルスがロングソードを地面に突き立てると、大地から闇が溢れ出し、脈動し始めた。
『私はこの闇を解く気がないわ。あら、困ったわね、コストイラ。これを止める方法は一つしかなくなってしまうわ』
アイケルスがロングソードをゆっくりと天へと掲げる。
『さぁ、コストイラ』
銀剣が一度目線を隠した直後、アイケルスの眼球は、白目が黒目、黒目が赤目に変化していた。
『貴方に、私が殺せるかしら?』
アレン達の前に闇が落ちてきた。
「な、何ですか!?」
闇は液体のように姿を変え、アイケルスのような形となった。
レイドが楯を構える。
影アイケルスはその楯を構わず、後ろへ行った。
「何!?」
その速度についていけない。レイドは何も掴めぬ腕を伸ばすしかできない。
シキがナイフを振るい、影アイケルスを殺す。続くように、アシドが槍を突き出すが、簡単に回避されてしまった。
「ナッ!?」
アシドの頭目掛けて剣が振られる。




