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【完結済み】メグルユメ  作者: sugar
33.魔大陸
637/683

9.竜鱗の刃

 天之五閃。


 それは約580年前に結成された五人組。その後、400年以上に渡って、メンバーの変更が行われていなかった。


 しかし、160年ほど前、メンバー変更があった。


 <灼熱の遊び人>を倒したことでメンバー入りし、その後も鍛え続けた馬鹿。

 それこそが今、コストイラ達の前で立ち塞がっている敵だった。


 <神速の刃>が速度(スピード)に特化しているとするならば、<竜鱗の刃>は筋力(パワー)に特化していると言っていいだろう。それが察せられるほどの威容威圧を放つ仁王立ちをした姿で、こちらを待っていた。


『エレストの奴を下したらしいじゃねぇか。やるな、ガッハッハ!』


 豪快に笑うそいつは、何かを期待するかのように見ている。


『やったのは誰だ? 一人か? 全員(チーム)か?』


「オレ一人だ」


『ハッ! だろうな!』


 なぜ、この男が予想をつけられたのか分からないが、男のオーラが語っている。さぁ、戦うぞ、と。

 それに応えるようにコストイラは前に出る。


『いいな、お前! アイツとは一対一(サシ)だったんだろ?』


「あぁ」


『あぁ、いいな、それ。ならオレとも一対一(サシ)だぜ! 回復なりなんなり、準備を済ませな! オレは万全で戦うことを望むぜ!』


 なぜか楽しそうにしている男に疑問が出てくるが、準備をしろというのであれば、従っておこう。


『遠慮なんてすんじゃねぇぞ。オレを超えてみせろ。ま、簡単に超えさせる気はねぇがな』


 地面に垂直に刺さっている大剣を引き抜いた。

 しかし、想像を超える大きさだった。何か、3m以上もない?


 大剣を引き抜く際に、地面が割れた。


『さぁ、来い! オレは魔物だ! 殺す気で来い!』


 男が大剣を振り下ろし、剣先をコストイラに向ける。エレストもやっていたが、流行しているのだろうか。


『オレは第十代勇者! <竜鱗の刃>シムバ!』


「オレは勇者の右腕、<駿足長阪>コストイラ!」


 シムバは岩石を砕き、その生じた小石群を野球のシートノックのように打った。石の礫が高密度でコストイラを襲う。

 高速で飛来する礫は、しかし、エレストの神速よりも遅かった。あれについていけていたコストイラなら対処など容易い。コストイラは刀を振り、一つ一つを潰していく。


『愚策! そして悪手!』


 いつの間にかシムバは目の前にいた。エレストに比べると、シムバの剣は遅い。遅すぎると言ってもいい。

 しかし、コストイラの意識のいくらかが礫に向かっている。振るわれる鉄塊に刀を挟むことで防ごうとする。


 エレストの時はこれで防ぎきれた。だが、シムバは違う。力の強さが違う。コストイラの体が軽すぎて飛ばされてしまった。


『ハッハッ! 軽い軽い!』


「オレ、これでも100㎏超えてんぞ!」


『ハハハ! 軽い軽い!』


 コストイラはゴロゴロと転がり、シームレスに立ち上がり、唾を吐いた。


「お前はいくつ何だよ!」


『800!』


「嘘だろっ!?」


 800㎏を超えるなど、体格から見ても無理がある。有り得ないわけではないが、そう見えないのだ。肩幅はあるが、身長は203㎝、800㎏もあるように見えない。

 しかし、800㎏に納得してしまう原因があった。


 シムバの所持している武器だ。250㎝はあろう鉄塊。大剣などと称していたが、どう頑張っても鉄塊にしか見えない。低く見積もっても、2,300㎏はありそうな鉄塊を軽々と振り回すのだ。

 相応の魔力や筋力があったとしても、それなりの体重がなければ、重心が武器の方に移ってしまい、振り回されてしまう。

 800㎏出ないにしても、それに近しい体重をしていることだろう。


 シムバの射程範囲に入った瞬間、コストイラ目掛けて斜めに振る。

 コストイラはそれを屈んで避けた。膝を伸ばしながら、刺突するように疾駆する。


 シムバの右腕はすでに振り切られている。まだ戻ってこれない。しかし、左の拳はすでに硬く固められてる。拳骨がコストイラを襲う。

 殴る空間(スペース)速度(スピード)も足りていなかった。だからこそ、ワンバウンドでコストイラは立ち上がることができたのだ。

 もしすべての条件が満ちていたならば、きっと肉を弾けさ(スプラッシュ)していただろう。


 冷や汗が背筋を凍らせてくる。

 もしも当たっていたならば、一撃死(ワンパン)。それを意識せざるを得ない。


 それほどの強敵。そんなの、ワクワクするしかないじゃねぇか。

 コストイラがサメのような笑みを浮かべた。


『ハッ! あの女が負けるわけだ』


「は?」


『楽しそうにしやがってってことだよ』


 シムバも自然と笑っていた。コストイラに嫉妬してしまう。


 シムバは左手一本で服を破り、上半身を晒した。鍛え抜かれ、イジメ抜かれた肉体美に、感嘆の息が漏れる。


『あのクソババァ(カーミラ)の言う事なんか知らねェ! 恋しやすい乙女(エレスト)の事もどうだっていい! 待ち惚けの姫君(アイケルス)も構ったりしねェ!』


 メキメキと上半身が盛り上がり始める。ただ筋力増強(パンプアップ)ではなく、皮膚の内側から竜の鱗が出現してきた。


『さぁ、オレを見ろ! オレとの戦いだけに集中しろ! オレとの闘争にだけ注目しろ!』


 シムバが吠える。


 その告白に対し、コストイラは炎を纏うことで対応した。

 シムバは凶獣のような笑みを浮かべた。

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