9.竜鱗の刃
天之五閃。
それは約580年前に結成された五人組。その後、400年以上に渡って、メンバーの変更が行われていなかった。
しかし、160年ほど前、メンバー変更があった。
<灼熱の遊び人>を倒したことでメンバー入りし、その後も鍛え続けた馬鹿。
それこそが今、コストイラ達の前で立ち塞がっている敵だった。
<神速の刃>が速度に特化しているとするならば、<竜鱗の刃>は筋力に特化していると言っていいだろう。それが察せられるほどの威容威圧を放つ仁王立ちをした姿で、こちらを待っていた。
『エレストの奴を下したらしいじゃねぇか。やるな、ガッハッハ!』
豪快に笑うそいつは、何かを期待するかのように見ている。
『やったのは誰だ? 一人か? 全員か?』
「オレ一人だ」
『ハッ! だろうな!』
なぜ、この男が予想をつけられたのか分からないが、男のオーラが語っている。さぁ、戦うぞ、と。
それに応えるようにコストイラは前に出る。
『いいな、お前! アイツとは一対一だったんだろ?』
「あぁ」
『あぁ、いいな、それ。ならオレとも一対一だぜ! 回復なりなんなり、準備を済ませな! オレは万全で戦うことを望むぜ!』
なぜか楽しそうにしている男に疑問が出てくるが、準備をしろというのであれば、従っておこう。
『遠慮なんてすんじゃねぇぞ。オレを超えてみせろ。ま、簡単に超えさせる気はねぇがな』
地面に垂直に刺さっている大剣を引き抜いた。
しかし、想像を超える大きさだった。何か、3m以上もない?
大剣を引き抜く際に、地面が割れた。
『さぁ、来い! オレは魔物だ! 殺す気で来い!』
男が大剣を振り下ろし、剣先をコストイラに向ける。エレストもやっていたが、流行しているのだろうか。
『オレは第十代勇者! <竜鱗の刃>シムバ!』
「オレは勇者の右腕、<駿足長阪>コストイラ!」
シムバは岩石を砕き、その生じた小石群を野球のシートノックのように打った。石の礫が高密度でコストイラを襲う。
高速で飛来する礫は、しかし、エレストの神速よりも遅かった。あれについていけていたコストイラなら対処など容易い。コストイラは刀を振り、一つ一つを潰していく。
『愚策! そして悪手!』
いつの間にかシムバは目の前にいた。エレストに比べると、シムバの剣は遅い。遅すぎると言ってもいい。
しかし、コストイラの意識のいくらかが礫に向かっている。振るわれる鉄塊に刀を挟むことで防ごうとする。
エレストの時はこれで防ぎきれた。だが、シムバは違う。力の強さが違う。コストイラの体が軽すぎて飛ばされてしまった。
『ハッハッ! 軽い軽い!』
「オレ、これでも100㎏超えてんぞ!」
『ハハハ! 軽い軽い!』
コストイラはゴロゴロと転がり、シームレスに立ち上がり、唾を吐いた。
「お前はいくつ何だよ!」
『800!』
「嘘だろっ!?」
800㎏を超えるなど、体格から見ても無理がある。有り得ないわけではないが、そう見えないのだ。肩幅はあるが、身長は203㎝、800㎏もあるように見えない。
しかし、800㎏に納得してしまう原因があった。
シムバの所持している武器だ。250㎝はあろう鉄塊。大剣などと称していたが、どう頑張っても鉄塊にしか見えない。低く見積もっても、2,300㎏はありそうな鉄塊を軽々と振り回すのだ。
相応の魔力や筋力があったとしても、それなりの体重がなければ、重心が武器の方に移ってしまい、振り回されてしまう。
800㎏出ないにしても、それに近しい体重をしていることだろう。
シムバの射程範囲に入った瞬間、コストイラ目掛けて斜めに振る。
コストイラはそれを屈んで避けた。膝を伸ばしながら、刺突するように疾駆する。
シムバの右腕はすでに振り切られている。まだ戻ってこれない。しかし、左の拳はすでに硬く固められてる。拳骨がコストイラを襲う。
殴る空間も速度も足りていなかった。だからこそ、ワンバウンドでコストイラは立ち上がることができたのだ。
もしすべての条件が満ちていたならば、きっと肉を弾けさしていただろう。
冷や汗が背筋を凍らせてくる。
もしも当たっていたならば、一撃死。それを意識せざるを得ない。
それほどの強敵。そんなの、ワクワクするしかないじゃねぇか。
コストイラがサメのような笑みを浮かべた。
『ハッ! あの女が負けるわけだ』
「は?」
『楽しそうにしやがってってことだよ』
シムバも自然と笑っていた。コストイラに嫉妬してしまう。
シムバは左手一本で服を破り、上半身を晒した。鍛え抜かれ、イジメ抜かれた肉体美に、感嘆の息が漏れる。
『あのクソババァの言う事なんか知らねェ! 恋しやすい乙女の事もどうだっていい! 待ち惚けの姫君も構ったりしねェ!』
メキメキと上半身が盛り上がり始める。ただ筋力増強ではなく、皮膚の内側から竜の鱗が出現してきた。
『さぁ、オレを見ろ! オレとの戦いだけに集中しろ! オレとの闘争にだけ注目しろ!』
シムバが吠える。
その告白に対し、コストイラは炎を纏うことで対応した。
シムバは凶獣のような笑みを浮かべた。




