表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済み】メグルユメ  作者: sugar
33.魔大陸
635/683

7.神速の刃

 天之五閃。


 それは魔法や拳打ではなく、剣術のみで天剣へと至ったもの。その五人の総称。

 五人いるからこそ、五閃なのだが、そこに決まったメンバーはいない。


 書物によって、その面子は変わる。勇者のみで構成されているもの、剣術の開祖のみで構成されているもの、騎士団長のみで構成されているものなど、様々だ。


          (テスロメル著 天之五閃 冒頭より抜粋)





 天之五閃の説明は、前述した通りでおおむね間違っていないだろう。

 どこかに偽りが含まれるというのであれば、それは決まったメンバーがいないということだ。実際はきちんとメンバーが決まっている。


 そのメンバーの一人が、今、コストイラ達の目の前にいる。苛烈を凝縮させたような赤と、白熱を濃縮させたような白を混ぜたような色の髪をした女は、腕を組み、薄い胸を張り、こちらを睥睨していた。


『ふーん。アンタがコストイラ? カーミラの言う通り、結構強そうじゃん。でも、この先に行くのなら、半端な強さは身を滅ぼすだけ。だから、私を倒してから行きなさい!』


 女は細剣を抜き、指揮棒(タクト)のように振って、こちらに剣先を向けてきた。


『私は<神速の刃>エレスト。あの子を護れるかどうか。見極めてやるわ!』


 コストイラは静かに鯉口を切り、刀を構えた。


 エレストは剣先が見えなくなるスピードで細剣を振り、腰を落とした。左膝を伸ばし、右膝を大きく曲げ、細剣を地面と平行になるように構える。


「これはオレのけじめだ。手は出さないでくれ」


 アストロ達の方を振り向かずに前に出る。レイドが反論しようとしたが、アストロが黙って止め、首を振った。


『フーン。七対一でもいいと思ったけど、一対一(サシ)でくるんだ。そこは評価してあげるわ。でも、その勇気だけは何もできない!』


 神速の一撃だった。瞬きさえ許さぬ速さで迫った細剣に、コストイラは刀を挟んだ。

 危なかった。少しでも遅れたなら、首と胴が分かれてしまっただろう。


『さぁ、その強さを示せ!』






 エレストの細剣が振られるたびに桜の花弁が散る。シキの技を思い出すが、エレストの細剣が早すぎて噎ぶほどの桜の花弁が舞っている。

 その花弁が流るる時を示すように落ちている。


 全てに対応していく。その速度には感服する。市場で見かけたあの人に似ている。

 その炎を宿す瞳を見つめていると、ゾクゾクする。


 桜の花弁しかないというのに、桜の花の匂いがしてきそうなほど、花弁で埋め尽くされている。


 エレストがその神速でもって懐に潜り込み、蹴りを腹に入れた。ゴプとコストイラの口から謎の液体が出てきた。爆散は免れたが、内臓はめちゃくちゃだ。

 エレストは足裏から伝わるコストイラの熱に、思わず口角が上がってしまう。永く深い眠りも醒めてしまうだろう。


 燃えるような赤い炎の剣筋が、エレストの白い玉肌を炙っている。エレストは自前の動体視力でもって、ギリギリに躱していく。

 対してコストイラは、ギリギリで対応しきれず、細かい傷を増やしていく。


 それは返り血が原因か、高揚が原因かは分からないが、エレストの頬が染まっていく。そこに隠しきれない裏模様に、エレストは内心微笑む。

 あの時、あの人が言っていた赤い糸とはもしやこのことだったのか。目には見えぬ赤い糸は辿ることができなければ、切ることもできない。

 こう攻めるとどう出る? こっちの剣技にはどんな対応してくる?


 攻めの一つ一つにコストイラが焦る。その顔、行動に、エレストが好意の影を探してしまう。

 エレストの好意の半分がコストイラに向いている。もう半分が向いているあの人への好意は嘘ではないし、むしろ本物だ。

 だというのに、今コストイラへと向かっている慕情の方が大きく感じてしまう。


『ハッ!』


 エレストが鼻で笑う。何か可笑しいのか分からない。コストイラは怒りを炎に変え、刀を振っていく。


「コストイラさん」


 アレンが呟く。素人目でもコストイラが押されていることが分かる。これは本当に手を貸さなくていいのか? とアストロに視線を送るが、彼女は大丈夫、出さなくていい、と送り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ