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【完結済み】メグルユメ  作者: sugar
33.魔大陸
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1.心の住処

ここから最終章が始まります。ほぼ全話数が2,000字を超えています。

 その女は助産師だった。しかし、訪れた村に死者がいないことが多く、医者としての職も担っていた。

 女は旅をしながら、訪れた地で仕事をし、いくらかの路銀を稼いでいた。


 女が旅をしている理由は、定住できる村を探しているからだ。

 今まで訪れた村は最悪だ。大衆浴場に男衆が覗いてきたり、ご近所から嫌がらせを受けたり、村八分にされたり、とにかく最悪だった。


 そして、ある日訪れた村は最高だった。


 まず、若い男が少なく、そして、女は歓迎してくれた。不自然なまでに男がいない。老人か子供しかいない。

 その理由を聞くと、宿の女主人は素直に答えてくれた。


「今、あの人達は戦争に行っているわ」


 夫は不自由の象徴だ。夫に縛られてしまうことで、自身のやりたいことができない。

 最初は男手が必要な仕事が多く、どうしようかと悩んできたらしいが、すでに一年が経過しており、何とかなっているらしい。


 そのため、現在は夫が戻ってくることが怖いらしい。


 そう思っている原因は他にもあった。


 敵国の捕虜だ。


 この村の近くに敵国の捕虜を収監している監獄があった。村の女達はその捕虜と肉体的な関係を持っていた。遠くの夫よりも近くの捕虜ということだ。


 捕虜の男は筋肉が隆々で、その上乱暴であることが多かった。村の女はその乱暴さに虜になった。

 そして、捕虜達は女を女を抱けることで、そのお礼に問題をあまり起こすことなく、なんなら男手を担ってくれた。


 こうなった時、夫は邪魔になる。


 もう少しで戦争が安定する。そうなった時、夫達は戦場から戻ってきてしまう。


 そこで、旅人の女は相談を受けた。


 夫を始末したい、と。


 女はハエトリ紙を取り出した。それを水に漬ける。そこから抽出されたのはヒ素。夫を毒殺させるための毒が用意された。

 ヒ素は自然環境中に広く存在する元素だ。人体に対して非常に有害である。飲み込んだ際の急性症状は消化管の刺激によって、吐き気、嘔吐、下痢、激しい腹痛などが見られ、ショック状態から死亡する。

 しばしば暗殺の道具として使われていたこともある。

 ヒ素は無味無臭なのだ。よって、料理に混ぜても分からないため、疑われることなく殺すことができる。良心も倫理もない行為だ。


 女はヒ素の鱗粉を巻く夫人という姿から、蝶々夫人や、死を振りまく姿から、視死蝶と呼ばれている。


 夫だけでなく、姑や子育て、親の介護など、何もかもが嫌になった者達が、周りを殺し始めた。


 視死蝶はそれを望んだわけではない。しかし、それが心地よかった。

 また、どこか若い男がやってきた。その男は誰かの夫ではない。筋肉がかなりありそうなので、ありそうなので引き込むべきか。





 シキの鼻がピクンと動いた。


「何かおかしい」


「まぁ、おかしい。つーか、変? 本当にここが魔大陸なのか?」


 勇者一行は魔大陸という名前から、どこかおどろおどろしい風景や凶悪な魔物の住処のようなところを想像していた。

 しかし、まったく違う。次元の狭間や地獄など、比べ物にならない程心地よい。ずっとそこにいたくなるような草原が広がっている。爽やかな風が吹き、涼しげな匂いが存在している。


 太陽に照らされ、少し暖かく、しかし、同時にひんやりもしている。かなり過ごしやすい環境だ。澄んだ空気と色とりどりの植物の表情に、とにかく癒される。


「何で魔大陸って名前なんだ?」


 コストイラが首を捻る。魔大陸の名前の由来が分からない。


「それにしても、深呼吸したくなりますね」


 アレンが一度息を吐き、思い切り吸い込もうとする。なぜか真横にシキがいた。深呼吸をする前にシキを見る。何だろう、と思った瞬間、口元を小さな手で覆われた。


「ぶご?」


「空気がざらついている」


「……どういうこと?」


 シキの言うことを理解できず、アストロが聞き返した。


「ここの空気は澄んでいる。ように見えている。でも、一切澄んでいない。ざらついている。何というか、こう。空気の中に粉が撒かれている、というか、何というか。そんな感じ」


 珍しく長文で説明してくれるシキの、その内容がよく分からない。


「粉って、どういう事?」


「何か危ない奴か?」


「何か? そんな。でも、摂取のし過ぎはよくなさそう。毒」


 コストイラが指先に唾をつけて、空中でくるくると回した。何も付いていないように見える。しかし、指を合わせて何かを磨り潰すように動かすと、何かの感触があった。


 これが毒か。


「この毒を撒いている奴がいるのか、それとも、そういう土地なのか」


「そんなの分かるわけ」


「あいつが撒いている」


 撒いている誰かがいるのか土地のせいなのか、など分かるはずがないと思っていたが、シキが指差した。

 そこには妖精女王(ティターニア)が白衣を着た姿で歩いていた。


「あの蝶の鱗粉ってことか」


「倒したら止まる?」


「しばらく滞留すると思う」


「でも倒さないと一生滞留するということね」


「倒しましょう」


『私は貴方達の好きにはされません』


 武器を持ち、敵対の意思を見せる者達を見つけ、こちらに杯を見せつけた。

 気付かれていてもやることは変わらない。シキがナイフを抜き、コストイラは刀に手を掛けた。


『君達は私の敵ではない』


 女は盃の液を煽った。


 身体能力の向上か、新しい能力の発現か。一体何が起こる。

 女の口からゴポリと血が溢れ出てきた。何かの代償によって能力を得るタイプか。


 そんなことを思っていると、女は倒れた。


 シキは素早く女に近づくと、口元の匂いを確認する。


「毒」


「え、死んだの?」


「死んだ」


「え?」


 毒を呷って、死んだの?

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