2.かか様
エンドローゼは何処で生まれたのかを知らない。一番古い記憶でも、あるのはここ、スクールでの記憶だ。
かか様と皆が呼ぶ、本名不明の存在が造った児童養護施設。
大人は皆嘘に塗れた存在で、金を集めてこい、金を生め、と命令してくる。
年長の子供は十二歳、成人すらしていない。エンドローゼはなぜか分からないが、今なら分かる気がする。大人達は、魔物にやられたのではないか、良い買い取り先が見つかったのだ、などと言っていた。
路上とスクールを往復する毎日の中で、痩せ細った手を見下ろしながら、エンドローゼは考えた。何のために生きているのだろうか。
「あ、かかさま」
「ん? 随分と薄汚いおべべだね」
かか様は脚を引き摺っていた。しかし、プライドがあるのか一切杖や手摺を使おうとしない。不規則な歩き方で近づいてくる大柄な女に、エンドローゼはキュッと目を瞑った。怒られると思ったのだ。
「おや、目を閉じちまうのかい? せっかく綺麗なおめめをしているんだ。見せびらかせてやればいいじゃないか」
とても優しい声が聞こえてきた。エンドローゼはおそるおそる目を開けてみる。目の前にはかか様の顔が視界いっぱいに映っていた。
「ほぅら。やっぱり綺麗なおめめだ。そっちの方がいい」
かか様の優しそうな顔がさらに優しそうに歪んだ。
「あぁ、本当に、いい、凄くいい目をしているね」
その発言を聞いたエンドローゼは、なぜか分からないが震え上がった。
それが、エンドローゼとかか様のバトルが始まったのだ。




