2.グランセマイユ
ガシャン。
酒の入った瓶が破砕された。
のそりと何も言わずに少女が動き始める。
容れ物だったものを小さな指で集め、同じく小さな掌に溜めていく。
ピッと指先が切れたが、気にせずに袋に詰める。
ボロ布同然である服を身に纏い、素足で薄汚い通りに立って道行く人達に無視されたり、わざとぶつかられたり、泥や水を掛けられたりしながら、ゴミ捨て場に袋を置く。
「うわ、ゴミがゴミを捨ててやがる」
「臭っせ~」
「何であんな奴がうちの町にいるのよ」
心無い言葉が少女を叩く。少女は目から光をなくし、項垂れながら、多くの人の目に止まらないように縮こまりながら歩き始める。
帰り道での少女の視界の中は、行き交う人々の脚と、整備された街の石畳、そして、少女自身の手が映っている。
少女は帰り道において、魔力を練る練習をしている。小さな両手の中で綺麗な魔力が集約され、そして弾けた。
それを見て、少女が微笑んだ。
「なんじゃ、まだ制御がよくいっておらんな」
「……レイヴェニア」
薄紫の髪を一房垂らし、端麗な顔をした女が少女の顔を覗いてきた。
「レイヴェニアには関係ない。邪魔しないで」
「邪魔しているつもりはないのじゃが、仕方あるまい。……その調子じゃぞ、小娘」
レイヴェニアは乱雑に少女の頭を撫で、去って行ってしまった。
「……ただいま」
「遅ェぞ!」
帰った時、酒に吞まれていた男が怒鳴った。少女はビクリと肩を震わせ、涙目となる。
男は持っていた新しく空になった酒の容器を少女に投げつけた。容器は直線的な軌道を描き、少女の頭に直撃した。容器は意外と固く、少女の頭から血が出てきた。
パタタと血が落ちる。マズイ、床を汚してしまった。
「テメェ、何汚してんだ!」
男は流動的に指を動かし、魔力を放った。
その動きや魔力の美しさに目を奪われ、まともに食らってしまった。
涙と血を流しながら、破片を集めて捨てに行く。
「この者に癒しを」
「え」
キュワンとよく分からないSEとともに少女の傷が治った。
「……グラッセ」
「グラッセさん、な。まぁ、アイツも今はかなり荒れちゃいるが、昔はもうちょっとだけまじめだったんだ。レンオニオールさえ生きていれば、な」
「レンオニ?」
少女がグラッセに素直に質問する。グラッセは首を横に振った。
「アイツは俺達グランセマイユの中一の良心だった。あの潤滑油が死んでから、全員が狂った。俺も含めて、な。まぁ、レイヴェニアは最初から狂ってたけどな」
「何で死んだの?」
「ん? ただの寿命だよ」
そう言うと、グラッセはジャラジャラと金属を擦りながら去ってしまった。
私は一体どうすればいいの?




