1.レイヴェニア
「暑いのじゃ」
レイヴェニアはわざとらしく顔を手で煽ぎ、主張する。
同じく暑くて敵わないサーシャは、犬のように舌を出し、参っている。
「我儘を言うな、娘。我等は全員キツイのだ。あまり言っていると叩き潰すぞ」
気炎を吐くのは、大槌担いだ大男だ。この魔大陸へと続く道で出会った者である。
服を着ていない上半身が異常なほど汗だくだ。それを見せつけるように広げられた腕が鬱陶しい。
「ええい、邪魔じゃ。その腕を退けよ」
ぶっきらぼうにそう言うと、大男はわざと見せつけるように腕を広げた。
レイヴェニアは溜息を吐いた。手で額を覆い、顔を振る。
「そんなゴリマッチョな達磨筋肉など求めておらんわ」
「何を言っている。男とは筋肉! 大きくてでかくて巨大な筋肉だ!」
「全部同じ意味ではないか」
レイヴェニアが半眼を大男に向けた。大男はその半眼に怯えながら、サーシャの方を見る。
「君はどうだ? 少年? いや、少女?」
「「は?」」
サーシャとレイヴェニアが同時に大男を睨みつけた。
「その聞き方、失礼じゃないですか?」
まだ声変わりのしていない、少年か少女か分からない可愛らしい声で反抗をした。その光景すら可愛らしいと、レイヴェニアは頬を緩めてしまう。
「あ、え、う、ウム、す、済まん。ところで、本気でどっちだ?」
「あ”? 失礼だよ。物凄く失礼。見て分かんないの?」
サーシャは完全に不機嫌だ。もう表情にありありと表現されている。大男はその威圧にたじろいでしまった。
「わ、からん」
「ハァ、見る目ないね」
「そうじゃの。愛いければ、それはそれでよいではないか、のぉ」
「よく分からないですけど。でも、筋肉は欲しいかも」
「なぬ?」
サーシャが願いを口にすると、レイヴェニアは眉を顰めた。この愛らしい姿がゴリマッチョ? 許せるか、レイヴェニア?
「いや、無理じゃあ!!」
「えッ!? な、何ですか!?」
レイヴェニアが両手で頭を抱え、両膝を着いて天に叫んだ。急に叫んだレイヴェニアにサーシャが驚いた。
「ま、マ、マッチョなど、マッチョなど似合わんぞ!」
「い、いや。ゴリマッチョではなく、ほ、細マッチョ。細マッチョです。うっすらと筋肉がついている細マッチョを目指します!」
サーシャがレイヴェニアの目をしっかり見ながら宣言した。レイヴェニアはもう気絶しそうなほど興奮している。
「では、この者は」
「うん、もういいよ」
「うむ? 何が、だ?」
サーシャが首を振った。レイヴェニアが動く。大男は不思議そうに首を傾げた。
レイヴェニアの細い指を大男の首を掴んだ。
正直に言おう。大男にはその動きが見えなかった。
「え?」
「いい夢を見るとよい」
傾げていた首がいけないところまで折られた。




