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【完結済み】メグルユメ  作者: sugar
32-3.好事多魔
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1.レイヴェニア

「暑いのじゃ」


 レイヴェニアはわざとらしく顔を手で煽ぎ、主張する。

 同じく暑くて敵わないサーシャは、犬のように舌を出し、参っている。


「我儘を言うな、娘。我等は全員キツイのだ。あまり言っていると叩き潰すぞ」


 気炎を吐くのは、大槌担いだ大男だ。この魔大陸へと続く道で出会った者である。

 服を着ていない上半身が異常なほど汗だくだ。それを見せつけるように広げられた腕が鬱陶しい。


「ええい、邪魔じゃ。その腕を退けよ」


 ぶっきらぼうにそう言うと、大男はわざと見せつけるように腕を広げた。


 レイヴェニアは溜息を吐いた。手で額を覆い、顔を振る。


「そんなゴリマッチョな達磨筋肉など求めておらんわ」


「何を言っている。男とは筋肉! 大きくてでかくて巨大な筋肉だ!」


「全部同じ意味ではないか」


 レイヴェニアが半眼を大男に向けた。大男はその半眼に怯えながら、サーシャの方を見る。


「君はどうだ? 少年? いや、少女?」


「「は?」」


 サーシャとレイヴェニアが同時に大男を睨みつけた。


「その聞き方、失礼じゃないですか?」


 まだ声変わりのしていない、少年か少女か分からない可愛らしい声で反抗をした。その光景すら可愛らしいと、レイヴェニアは頬を緩めてしまう。


「あ、え、う、ウム、す、済まん。ところで、本気でどっちだ?」


「あ”? 失礼だよ。物凄く失礼。見て分かんないの?」


 サーシャは完全に不機嫌だ。もう表情にありありと表現されている。大男はその威圧にたじろいでしまった。


「わ、からん」


「ハァ、見る目ないね」


「そうじゃの。愛いければ、それはそれでよいではないか、のぉ」


「よく分からないですけど。でも、筋肉は欲しいかも」


「なぬ?」


 サーシャが願いを口にすると、レイヴェニアは眉を顰めた。この愛らしい姿がゴリマッチョ? 許せるか、レイヴェニア?


「いや、無理じゃあ!!」


「えッ!? な、何ですか!?」


 レイヴェニアが両手で頭を抱え、両膝を着いて天に叫んだ。急に叫んだレイヴェニアにサーシャが驚いた。


「ま、マ、マッチョなど、マッチョなど似合わんぞ!」


「い、いや。ゴリマッチョではなく、ほ、細マッチョ。細マッチョです。うっすらと筋肉がついている細マッチョを目指します!」


 サーシャがレイヴェニアの目をしっかり見ながら宣言した。レイヴェニアはもう気絶しそうなほど興奮している。


「では、この者は」


「うん、もういいよ」


「うむ? 何が、だ?」


 サーシャが首を振った。レイヴェニアが動く。大男は不思議そうに首を傾げた。

 レイヴェニアの細い指を大男の首を掴んだ。


 正直に言おう。大男にはその動きが見えなかった。


「え?」


「いい夢を見るとよい」


 傾げていた首がいけないところまで折られた。

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