1.チラスレア
カチャリとカップをソーサーに置く。
「いつも通り、アルは部屋に?」
「はい。かなり熱心にお勉強されております」
チラスレアの問いにサナエラは恭しく礼をしながら答えた。
最近のアルバトエルはいわゆる”良い子”になった。貴族として必要な知識をどんどん蓄えている。
食事のマナーや社交ダンス、それに普段からの姿勢など、アルバトエルは着実に会得していった。
「さて、では私は自分のやるべきことをしておきましょうか」
チラスレアは紅茶を飲み終えたカップをソーサーに置き、席から立ち上がった。
サナエラがカップとソーサーを片付け始めるのを余所に、チラスレアは廊下を歩いていく。アルバトエルの様子を見たかったが、妹は2階、1階にいるチラスレアは階段を登らなければならない。
別に登ってもいいのだが、庭に向かっているのでかなり遠回りだ。今回の様子であれば、夜の食事の時にでも聞こう。
現在のチラスレアはパンツルックのスタイルで、貴族の女らしいドレス姿ではない。チラスレアが動きやすい姿をしているのは、今から中庭でやろうとしていることに関係している。
「よし」
チラスレアは髪をアップで纏め、木剣を手にした。
澄み切った青空から日差しが降り注ぐ。
すでに寒気を過ぎたクリストロには、少し暑いくらいの太陽が見下ろしていた。そんな中、光を反射しない木製の剣が風切り音を鳴らしていた。
豊かな植栽が広がる芝生の上で、チラスレアは一人、汗を飛ばしてながら、素振りを行っていた。チラスレア大好きサナエラが目撃したならば、鼻血を噴いて倒れただろう。それほどまでに艶めかしい姿をしていた。
チラスレアは意識を改めたのだ。最近のアルバトエルを見ていて、私も変わらなければ、と思わされた。
姉であるチラスレアが、両者を幸せにするためには、どうすればいいのかを考えた。妹であるアルバトエルと良き人であるアシドのためを思っての行動。
自分も結ばれたいが我慢する。そのうえでのやるべきこと。
それは護ることだ。武力でも知力でも護る。
武術的な心得があるわけではないが、木剣を振る。それが唯一の解だと信じて。




